壊れた目覚まし時計のような呼び鈴が、ジリジリと鳴く。
うるさい保護者が消えてからまだ数十分とたっていない。とりあえず知らない人間ならば(加えて隣に住む兄弟ならば)開けるなと仰せつかったので、ドアスコープを覗いてみる。
「……出たな、悪魔の双子め……」
よほど躊躇ってから、ほんの少しだけ開けることにした。
「「ヤアヤアお嬢さん、御機嫌よう」」
「ツインズは間に合ってます」
そのまま扉を閉めようとすると、ジョージが(フレッドかもしれない)十センチほど開いていた隙間へと、巧みに足を突っ込んだ。
がつん、と大げさに響く音。
「いでででででで潰れる潰れる足が!黄金の左が!マジ死ぬ!!」
「おいおい冷たいじゃないかマリゴールド!」
選手を潰して賠償請求されるのはごめんなので、しぶしぶドアを開ける。招き入れてもいないのに、二人はズカズカと騒がしく侵入してきた。
マリゴールドが用件を簡潔に尋ねたところ(「なにしに来たの」)、二人は「あれ?聞いてないのか」と見事なステレオで云い放ったあと、顔を見合わせてニヤリと笑った。
「本日は僕らが君のシッターで」
「或いはナニーで」
「忠実なしもべでございますぞ?」
……ぜんぜん聞いてません。
「「それは御愁傷様」」
どうやら家を出たあと、保護者二人はウィーズリー家へ電話をしたらしい。「これママから土産」と無造作に包みを渡される。まだ少し温かく、いいにおいがした。アップルクランブルか、アップルパイかもしれない。
「あの、悪いんだけど、キャンセルできません?じゃなきゃ代打でロンかジニー」
「いやはや礼には及びませぬ」
「きっちり頂くモンは頂く約束してるしな」
「そうそう、子守りのバイトよろしくってさ。シリウスが」
シリウスが。
「……キィイイ子守りですって!あンのハゲ!犬!チキン!!」
大喧嘩の一件から彼の過保護ぶりはますます熱を帯び、どちらかといえばそういうものが鬱陶しくなってきている年頃のマリゴールドとしては、ただただ腹が立つばかりである。思わずマリゴールドが取り出した釘バットを見て、双子はナチュラルに引いた。
ちなみにこれはお隣さんが護身用にと(面白がって)作ってくれたものだが、残念ながら使用する機会はいまだに訪れていない。