光の漏れている部屋を覗くと、小さなライトがつけっぱなしになっている。
そのぼんやりとした光の下で、毛布にくるまったマリゴールドが寝息も聴こえないほどぐっすりと寝入っていた。枕元に放られていた本を手にとる。外国の児童文学だ。
『どの屋根の下にも人間が暮らしている。一つの町にはどんなにたくさんの屋根があることだろう!』
開かれたままのページを閉じて、そっとライトを切った。
4.おとなはわかってくれない
「前後不覚になるまで飲むんじゃないよ」
見た目ほど強くもないんだから、と一応は嗜めてからグラスに入った水を渡す。酔っぱらいはアルコールですっかり上気した顔で、床に座ったままへらへらと笑った。
びっくりするほど締まりのない姿だ。記念写真でも撮っておくか、とリーマスは思う。
「あのさ、一応未成年の、しかも女の子がいる家なんだからさあ……」
そういう醜態は外で晒してほしいものだ。風呂は、と聞くと「どうでもいい」との返事。どうでもよくはない。
「何がおかしいの?」
「さあ、わかんね」
リーマスはこんな彼を見るのは初めてで、ほんの少しショックを受けていた。あの悪名高い隣人が彼を抱えてドアの前に立っていたときは、てっきり変な遊びにつき合わされたのかと恐ろしくなったが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
「知らないからね。あの兄弟に借りなんか作っちゃってさ」
「いや、あれは結構面白い連中だよ。……飲むとき限定のつき合いにしたいけどな」
ようやく引きずるようにして(実際に引きずったのだが)ソファまでたどりつくと、今度はパッタリと黙りこんでしまう。何を見ているのかと視線を追えば、勃発した喧嘩の相手の部屋のドアだ。
「……君が出ていってすぐにフテ寝しちゃったよ。どうすんの、僕にも口きいてくれなかったよ」
「俺に云うなよ」
「明日の朝起きたら、ちゃんと話し合いなさいね」
ため息まじりに軽く睨んでみるが、依然としてその目はこちらを向いていない。相当に参っている。
掌で額を覆ってシリウスが何か呟いたが、声がくぐもって、リーマスにはよく聞こえなかった。
「くだらなくなんか、ないよなあ」