marigold | ナノ



「……ということがね、あったのよ今日は」

おもしろいでしょ、とマリゴールドが云う。
きれいに拭いた皿を重ねると、受け取ったリーマスが高い戸棚にしまう。夕食後の片付けは二人の連係プレーで成り立っていた。

「そうだね。そういうドロドロな青春は、巻き込まれなければおもしろいね」

ちなみにリーマスは、昼ドラがわりと好きだ。

「マリゴールドは好きな子いないの?」
「……なにそのストレートパンチ」
「あ、僕の知ってる子だ?」
「ちょっと待って、もういるって前提なの?」

へらへらと楽しそうに笑うリーマスに持っていた布巾を投げつけ、ひとりソファに沈む。こういう類の話題はティーンの女の子同士ならばまだしも、家の人としたくはないものだ。
リーマスこそ自分の恋路の心配をしたらいいのに。もっとも、その相手がいないことはマリゴールドも知っているが。
リモコンを取って適当にチャンネルを回していると、ふわ、と紅茶の匂いが漂ってきた。

「今日はティーバッグで悪いけど」
「ううん。それ好き」

温かいマグを受け取って、ソファの隅に身を寄せる。

「リーマスも恋をしたらいいのに」
「そうかい」
「うん」

テレビの画面の中では、どこか遠い国のきれいな歌が流れていた。

「……ねえ、シリウスは」

シリウスは、どうだろう。
マリゴールドは彼の女性関係については何も知らない。普段仕事で家にあまりいないし、そういう噂も聞かない。女の人から電話がかかってきたことなら、何度かあるけれど。
なぜか、あまり考えたくないなとマリゴールドは思った。

「シリウスはねえ、マリゴールド」
「うん」
「いつだったか駅のレコード店で働いてたアメリカ人のお兄さんをさ、マリゴールドが好きだって云ったじゃない」
「うん……好きだけど。今でも」
「それ聞いてから、あの店行ってないんだよね」

前は便利だからって足ざとく通ってたのに、とリーマスが云い終えたあたりでドアの開く音がした。それから疲れたような足音と、いつもの間延びした「ただいま」。
マリゴールドは弾かれたように飛び上がった。

「おーい、紅茶切れてるって云ったから買ってきたぞー」
「ああ、ありがと。おかえり」
「ねえねえシリウス、さっきリーマスが云ってたんだけど……」
「マリゴールドだめだよ、シリウスは結構ナイーヴなんだから」

沸き上がってくる感情を隠しきれず、マリゴールドはシリウスに抱きついて、けらけらと笑った。その隣でリーマスが意味深に微笑んでいる。

シリウスにはその笑顔の意図がわからない。



一応ですが、お子さま四人はアッパースクールの生徒くらいの設定でした。ドラ子は近くのパブリックスクール生で。
ちなみにハリーは地元のフットボールクラブに所属していて、ジェームズがときどきコーチをしてたらいいなーと思います

 

4/4



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