marigold | ナノ


子供とは、まさに小さな大人である。


3.こいはいそがず


四人は今日も、公道をのろのろ歩いている。地下鉄が止まってしまうのはよくあることだ。もちろん暇を潰す場所や方法もまた、いくらでもある。
「君は頭がおかしい」と赤毛の少年が口うるさくわめきだしたのは、ハーマイオニーがハリーの試合を見に行った話をしだしたころだった。めずらしく晴れ上がっている空とは裏腹に、非常にどろどろした空気があたりを漂い始めた。
マリゴールドとハリーが紙袋を抱えてグローサリーから出てくると、案の定、戦争は始まっていた。

「まったくセンスを疑うね。目を覚ませよバカ!」
「あなた人のセンスをとやかく云えるわけ?だいたい誰を好きだろうと、ロンに関係ないでしょ!バカ!」
「だってそうだろ、あんな苺柄のアホみたいなセーター着た男が好きなんて、絶対おかしいじゃんか!そっちこそバカ!」

しかし、これもわりとよくある事柄なので、こなれた二人はそれを無視した。

「バカバカ云わないでよ、それに彼はそんなセーター着てない!」
「彼って何だよ? ヴィッキーって呼べばいいだろ!」

マリゴールドが「ヴィッキーって誰だっけ」と考えながらチュロスをもぐもぐしてハリーを見ると、彼もまた自転車をずるずる引きつつ「ロシアからの留学生だっけ……あれ、ドイツ?」というようなことを呟いていた。
わりと有名なスポーツ留学生だったような気もするが、覚えていないハリーは地元クラブの選手としてどうなのか。

「ああーもうムカつく!糖分!!」
「ウアアちょっとそれダメだって!マ、マクゴナガル先生ー!」

ハーマイオニーが怒りに任せてチュロスを奪い取ると、今度はマリゴールドがワアワアわめいた。負けじとロンも声を張り上げる。
ハリーは、帰りたくなった。さっきから乳母車を押した女性が不審そうにこちらを見ている。このまま三人のボリュームが上がり続けるのは迷惑だし(まさか本当に教師は現れないだろうが)、下手をすると大人がしゃしゃり出てくるかもしれない。そうなると非常に面倒くさい。
仲裁しようと仕方なく彼が脇に自転車を停めると、もっと面倒くさいものが目に入った。

彼は思った。他人のふりすれば良かった。

 

1/4



×
- ナノ -