marigold | ナノ



「えーと、あの……小腹がすいたね。ジェームズ小銭ある?」
「あるよ」
「クッキー買ってくる。先生も行きます?」
「いや、遠慮する」

マリゴールドは小さなワゴンを指差し(苦し紛れというよりは、実際に空腹だったことも大きかった)、殺人スマイルを貼付けたままのジェームズを無理矢理引っ張って、その場を離れた。
シリウスとスネイプを二人にしてしまったが、ジェームズとよりは幾分マシだろう。

「スネイプ先生とシリウスって知り合いだったの?」
「ウーン……。何て云うかねえ、宿敵と云う名の同級生みたいな感じだね」
「え、じゃあジェームズも、リーマスも?」

まあね、とジェームズは肩をすくめた。曖昧なイエスだが事実らしい。
マリゴールドにとっては、彼等に自分と同じ頃があったと思うと妙な感じだった。特にあのセブルス・スネイプが短パンに膝小僧を出していた時代もあるだなんて、それはそれでリーサルウエポンだ。

「あ、スネイプ帰る」
「ほんとだ。あ、シリウスなんか投げた」
「避けられたね」
「でも先生、律儀に拾って行ったね」

だね……と遠い目で観察している二人に、憤慨というよりはやたら疲労した様子のシリウスが近づいて来た。眉間のシワは、かの世界遺産アイアンブリッジ並だ。
ちなみに、彼は仲間はずれというものがアーティチョークよりも嫌いである。

「……お前ら、あんなのと俺を置き去りにするとはどういう……」
「ジェームズ、わたし急にホットチョコレートが飲みたくなりました」
「買いましょうとも」

ジェームズは即座に頷いて、注文を付け足した。

「よしよし、よく食べて早く大きくなりたまえよ」
「またそんなん食べて……夕飯食えなくなるぞ」
「大丈夫大丈夫。女の子ですから」

ベツバラという名のブラックホールをこさえてますから、と得意げに返すと、二人の男は変な顔をした。
クッキーを食べているマリゴールドからは、ほんのりと砂糖の香りがした。

「ああそうだ。今日リーマスいないんだろ? うちに誘おうと思って、捜してたんだ」
「えー、なんかいつも悪いよねえ」
「悪いよなあ」
「いいからいいから。奥さんに呼んで来いって頼まれて。ハリーも喜ぶし」

ついでにネギも買って来てって云われちゃってさあ、と締まりのない顔で云われ、シリウスとマリゴールドは揃って軽く目を逸らした。同時に「この万年新婚夫が」と呟いたのは内緒だ。
夕暮れが目の前に迫っている。
まだ辺りは明るいが、すぐに夜の帳が降りてくるだろう。ポッター家で夕飯を食べ、ハリーと宿題をすませて、シリウスとフラットに帰って……リーマスが戻って来たら、今日の事件の詳細を報告して反応を見てみよう(たぶんシリウスはすごく嫌がるだろう)。
ふふ、と笑いながらマリゴールドはチョコレートの入ったカップを両手で持った。

「あ、そういえば池のアヒルが死んでるとか死んでないとか騒いでたよ」
「……それ多分ね、犯人わたし」


事件はなにも一つだけではない。



スネちゃまは化学かなんかの教師希望
アヒルのくだりは某映画のパロディでした(パクリとも云う)

 

4/4



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