「シリウス、シリウス!」
「……おお、どうした」
「ちょいマズい事態が起きてアヒルがね、おばあさんのパンが……って、あれ。スネイプ先生?」
苦虫を噛み潰した、というよりは苦虫に噛み潰されたような顔をした大人二人の顔を見比べて、マリゴールドは首を傾げた。
「げっ。先生って、もしやおまえの学校の……」
「そちらこそ、うちの生徒とはどういう……」
どうしようもない空気が辺りを取り巻いている。目の前のオッサン二人が一触即発のダイナマイト状態であることは、今やってきたマリゴールドにも十二分に伝わった。
子供は大人同士の微妙な空気には敏感なものである。
「あのう、二人はお知り合いですか」
「「まさか」」
獣のごとく血走った四つの目から、更にマリゴールドは事の深刻さを悟った。何だか知らないが、これは相当マズい、と。
下手すりゃこの公園、爆発する、と。
「えーと……。邪魔なら消えますけど」
「「いいからそこにいろ」」
マリゴールドは、今すぐここから全速力で逃げだしたかった。少し離れた場所でギターを弾く若者に救助をもとめる視線を送るも、アッサリ逸らされる。お兄さん、ボウイを気取ってる場合じゃないよ。全ての若き野郎ども、ニュースを運んでくれって?
むしろ、わたしをどこか安全な場所へ運べ!
「Hey dudes!」
ついにお兄さんが叫んだのかと思ったら、馴染みのメガネがそこにいた。
「た、助かった!ジェームズー!」
「おのれブラック……援軍を呼ぶとは汚い」
「いや呼んでないからね俺」
ジェームズは片手をひらひらさせながら近づいて来ると、「おや」と白々しいほど驚いた顔をした。
「これはこれは、懐かしきスニベリー君ではないかね!息子がいつもお世話になってます」
「貴様の息子などを世話した覚えはない」
「知ってる、社交辞令だもん」
爽やかなスマイルを浮かべ、まさかの弾丸ミサイル発射。マリゴールドが助かったと思ったのは、大きな間違いだったらしい。