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 Who the hell are you?(あんた誰だよ?)

 一ヶ月ぶりに訪ねたなまえの家には、見知らぬ男がいた。外見は貧相だが、もつれた髪の間から見えた瞳は気味が悪いほど澄んでいて、凄みがある。しかし声はやさしい。なまえの友達だと伝えたら、彼女はここにはいないと云う。
 あいつしばらく帰らない、ポートランドへ休暇に行ったから、と男。
 ポートランド?
 アメリカだよ、いいとこだぜ。俺の親父が住んでんの。なまえには義理の父だけど…と云われてようやく、兄貴だと気がついた。そういえばリビングに、なまえの隣でこの男によく似た痩せっぽちが、ぎこちなく立っている写真があったっけ。そのあと彼が、自分の作品の大層なフアンであることを思いだし、薄ら笑いがこみあげてきた。
 男はにやにやする俺をうさんくさそうに見つめ、Go f*ck yourself, creepy stalker.――「失せろよ変態ストーカー」と真顔で呟くなり、ドアを閉めた。




 

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