ピンと背筋をのばし、向かい合ってソファに腰掛けたふたりは黙りこくっている。半開きになったベランダ窓からはギルベルトの高笑いが聞こえる。穏やかな昼下がりのBGMとしては、あまり最適とは呼べないしろものだろう。
「「あの」」
発した声が重なり、今度は視線を左右に泳がせる。この、いつになく妙な空気の原因に思い当たるふしはあるのだが、わざわざそれを混ぜっ返して自分をばか丸出しに見せることはないとなまえは思っていた。そしてルートヴィッヒもまた、同じ考えのようだった。
「今日は、実に、天気がいい」
「ええ。この時期にしては暖かくて」
そのため繰り出される会話は必然的に、白々しい。
「アーサー・カークランドのシリーズ、最新巻が出たわ」
「ああ、まだ読んでいない」
「今度はロシアのテロリストが相手だって」
「ずいぶん規模がでかくなったもんだ」
ふたたびの沈黙。なまえはちらりと目を上げ、紅茶を一口飲んでから、ようやく本題の問いを投げることにした。
「引っ越すの?」
ルートヴィッヒはうなずき、「実は」と落ちついた口調で答えた。
「兄貴と一緒に、実家へ戻ることになったんだ。本当ならもっとはやくに――何度も伝えようとしたんだが、タイミングがつかめなくて」
「……いつ?」
「来月だ」
来月、となまえは口の中で小さく呟いた。伝え聞いてはいたものの、改めて本人から宣言されるとどうにも早急な響きだった。無意識のうちに顔をしかめていたらしく、ルートヴィッヒが心配そうな表情でこちらをうかがっていた。
「さほど距離があるわけじゃない。いつでも会えるし、今までどおり何も変わらんさ」
なまえは「そうかもね」と軽い声色で返しながら紅茶のカップをテーブルに置き、おもむろに隣のシロクマを撫でた。たしかにローマほど遠いわけではないものの、さすがに今までと同じようにはいかないだろう。もちろん、フェリシアーノの親切は完全なる見当違いだけれど。
「テディと添い寝ってタイプじゃないけど、年甲斐もなく嬉しいものですね。こういうの」
「女性がぬいぐるみを持っていてもおかしくはないだろう」
「……いい歳して一緒に寝てたら、若干痛くない?」
「そうかな。俺は好きだが」
「えっ」
「あっ」
一瞬、ぴたりと動きが止まった。
「その、つまりシロクマが、という意味で」
「分かってる、私も、そっちの意味だと思ってたから」
そわそわと周りを見回し、不必要に大きくうなずき合う。必死の形相とミスマッチな薄ら笑いとで、リビングの空気はいよいよ本格的におかしかった。時間がゆっくり進むのが狂おしいほどなのに、かといって居心地が悪いわけでもない。単純に、戸惑っている――考えなければいいのに、そればかりを考えてしまうから。ふたりはしばらくシロクマの可愛らしさと優れた生態について、編集に失敗したネイチャー番組のようにべらべらと他愛もない論議を交わし続けた。
「なんかおまえら気味悪い」と、電話を終えて戻ってきたギルベルトが顔をひきつらせた。