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Von: baldanders@xxxxxxxx.de
Betreff:Hallo, Fraulein!

Ich bin das A und das O, der Anfang und das Ende.




 「Was zum?(なんぞ?)」

なまえは思わずそう呟いてしまった。いつものように、『自由の国のグリーン・カードをあなたにも!』だとか、『オーディオ・ブックの新作案内』といった不要メールをゴミ箱へ放りこんでいたのだが、ふと最後の一件が気になって開いてみたのだ。件名には『ハロー、お嬢ちゃま!』と書かれてあった。

 「聖書の一節だ。『我ははじめにして終わりなり』、ヨハネの黙示録だっけかな」

パソコンの前で難しい顔をしていると、郵便係の男の子が教えてくれた。新手の宗教の勧誘だろうか。結局はジャンク・メールのひとつだと思うことにして、なまえはそれをクリックして削除した。


 気のせいか、その日はおかしなことがいくつか起こった。


 なまえは同僚と近くの中華料理屋へ、ランチを買いに行った。混んでいたので注文は彼女に任せ、外にあるベンチで待つことにした。やがて若い男性が同じように隣にやってきて、なまえと一瞬目がかち合うと、サングラス越しににっこりと笑った。独特の明るいオーラに気圧されつつ、「どうも」となまえもつられて微笑む。日に焼けて、いかにも健康そうな雰囲気の人物だ。なまえはすぐに視線をそらしたが、どういうわけか彼のほうはしばらくの間、にこにこしながらなまえをじっと――どちらかといえば不躾に――凝視していた。何を云うでもなく、ただ見ているのだ。しげしげ眺めるような要素が自分にあるとは思えないが、さすがに怖くなってきたところでタイミングよく同僚が店を出てきた。すると、男性はすっと立ち上がり、通りを渡って消えてしまったのだ。

「ねえちょっと、なあに今の。ナンパ?」
「……よく分からないけど、たぶん違う」

彼の着ていたシャツの背中には、なぜか日本語で大きく『忍者ハットリ』と書かれていた。


 帰りに家へ向かって歩いていると、見知らぬ外国人に呼び止められた。いかにも女性にもてそうな、派手な見た目の男性だ。云っていることはなまえにはさっぱり分からないが、どうもUバーンに乗りたいらしい(はじめは”メトロ”と云われたので理解するのに時間がかかった)。ほとんど駅の目と鼻の先にいたため、なまえは入り口の方角を指差して駅名を教えてあげたのだが、相手は立ち去ろうとはせず、むしろなまえの手をとって、ぎゅっと包むように引きよせた。お礼を云うにはやけに熱っぽい口調で、体を寄せ、やさしく微笑みながら――その感触からなまえは何となく、フェリシアーノを思いだした――大変恐れ多いけれども、そういう話ならば、残念ながらなまえにその気はない。

 なまえはやんわり腕を解いて感じよく笑ってみせると、次の瞬間には走って逃げだしたのだった。



 

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