「おい!なんだこりゃ…!」


リーダーの男はお兄さんを床に叩きつけるように離す。急いで怖い男達にバレないように寄った。


「…大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ…なんなんだ…?」


やっぱりお兄さんには見えてないらしい。あんなにも、モモ達が派手に倒しているというのに…。


「そこに誰か──!?」


リーダーの言葉が途切れたのに不思議に思い、そちらを向くと、リーダーを巻き込むように商品陳列棚が倒れた。


「…モモ!」


倒れた棚の奥にモモ達がいた。

そして、私が呟いた瞬間にお兄さんがモモ達のさらに奥のPC関連売り場へ飛び込んだ。

…横ですれ違ったモモにも気付かずに。


「…あ、あれ?」

「大丈夫だった?」


私の手が急に楽になる。

気付くと、猫目野郎が私の手を拘束していたガムテを剥がしていた。


「…あんた、一体なんなんですか」

「僕はしがない一般人だけど?─あぁ、ほら、始まるよ」


猫目野郎が指差した先には、お兄さんが一つのディスプレイの前に立っていた。


私と猫目野郎以外の人質から「危ない!」という声や悲鳴が聞こえる。


テロリスト集団の男達はお兄さんに銃口を向けている。


しかしお兄さんはその状況に臆せずに、いつの間にか取り出した携帯を握っていた。


「頼んだぞ…エネ!」


お兄さんがそう呟いた瞬間に、青い女の子がすべてのディスプレイを駆け抜けていった。

それはまるで、青い稲妻のようで───。


「きれい…」


──ズカァン…!


一発の銃声が聞こえた。


「っお兄さん!」

「…お兄ちゃん!!」

「ほらキサラギちゃん!シャッターがもう開いちゃうよ!早く!」


驚くモモ達を視界に入れながら、慌てて猫目野郎と一緒にお兄さんに駆け寄る。

モモ達の作戦はまだ終わってないらしい。


「モモ!お兄さんは私とこの猫目の胡散臭い野郎が看るから!」

「え、うさんくさ──」

「キサラギ!」

「…わかってます!…フミ、カノさんよろしくお願いします…!」


モモは覚悟を決めたように、目付き悪い人と白い少女へと振り向いた。


「マリーちゃん!」

「うん!」

「…いくぞ!」


「…キサラギ、如月桃です。年は十六歳──アイドルをやっています!」


モモの声が聞こえ、静寂が広がる。

人質やテロリストを見ると、すべての人がモモを見ていた。

興味とか好意とか嫌悪とか嗜好とか、何の意味もない目がモモに向いていた。


────それはまるで、人の『目を奪う』かのように…────


「…あ、お兄さん!」


モモ達をぼーっと見ている場合じゃない。慌ててシンタローお兄さんを看るが、服が破けているだけで外傷はないようだ。

…とりあえず安心しても大丈夫だろう。


「…っお兄ちゃん!」


モモの悲痛そうな声が聞こえ、そちらを向く。安心しろ、気絶してるだけだと言おうとして、固まった。


モモ達の奥にいる人質やテロリストが、一箇所を見つめたまま固まっていた。

…なんだあれは。


いつの間にか突入していた警官隊がテロリストを拘束するが、全員一つも動かないことに驚きを隠せない様子だ。


さっきの一瞬で何があったというのだろうか。


まるでメデューサを見たような───。


「…フミ…フミ?どうしたの?大丈夫?」

「…え、あ…モモ」


気付くとモモが私の目を覗きこんでいた。


「…大丈夫。あ、お兄さんは気絶してるだけだよ」

「それはさっきカノさんから聞いたから!」

「くく…さっきのキサラギちゃんの慌てようったら…」

「カノさん黙ってください!」


知らない世界
((とりあえずモモに何が起こったのかきこう))





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