サウナにて


スレイは困っていた。
場所は宿のサウナ。
隣にはミクリオが、腰にタオルを巻いただけの格好で座っている。

ザビーダに、3人でサウナに入ろうと誘われたのは、つい先ほどのことだ。
ミクリオは抵抗したが、結局はザビーダに言いくるめられてしまった。
その時はスレイも、ミクリオと一緒で嬉しいと、単純にそう思っていたのだ。
というのも、ミクリオは普段は一人でサウナに行ってしまうことが多く、なかなか一緒に入るチャンスがなかったからだ。

が、いざ入ってみると、それはすぐに考え無しの軽率な行いだったと気づいた。

明るい照明の下で見るミクリオの体が、目に眩しいばかりではない。
うっすらと染まった頬や、流れる汗は、あらぬ行為を思い起こさせる。
ここのところ忙しく、なかなかそのような事に及べない身には、過ぎた刺激だった。
正直に反応し始めた欲望を、慌てて抑え込む。

仮にこの場に二人きりなら、手をのばしていたかもしれない。
けれど、ここにはザビーダもいるのだ。無理にでも平静を装うしかない。

このような雑念を払うには、どうしたらいいか。
それなら経験上、良く知っている。
全く別のことに興味を移せばいいのだ。
例えば、勉強。
そうだ、遺跡や、歴史に関する話でもすればいい。
例えば、こういったサウナはどんな風に、この大陸中に広まって行ったのだろうか、とか。

苦肉の策でスレイが振った話に、ミクリオは案の定興味を示した。
そして、あれこれと仮説を唱え始めた。

それに相槌を打ちながら、スレイは必死で視線を逸らすように努める。
ミクリオの白く透き通る肌を凝視してしまわないように。
だが、上気した身体は、すぐ隣に座っていることもあり、嫌でも目に飛び込んで来る。

ああ、可愛い。
薄紅に染まった肌も、浮き上がる宝石のような汗も。
サウナならではの美。
以前ザビーダが言っていたのは、こういうことなのかと、ようやく合点がいく。

そう言えば、ザビーダは先ほどからミクリオの方を見ている気がする。
どういうつもりで見ているのだろう。
ほんの少しでも、ミクリオのことを可愛いとか、美しいとか思っていたら許せない。
ミクリオと話しつつも、厳しい視線で威嚇する。
ザビーダは、そんなスレイの気持ちを知ってか知らずか、上の空で取り合わない。
女性サウナに興味のある風を装っているが、本当にそうなんだろうか…なんて余計な疑いを抱いてしまう。

それもこれも、ミクリオが並み外れて綺麗だからだ。
男女問わず人目を引くくせに、本人があまりにもそのことに無自覚だからだ。
そして自分が、そんな彼のことを独占したいと思ってしまっているからだ。


そんな気持ちをもて余しながら、やっとのことでサウナから上がったスレイは、部屋に戻ってミクリオと二人きりになるなり、それまでの我慢を解き放った。

ザビーダは、部屋には戻って来なかった。
気をきかせてくれたのか、はたまた女性陣に覗きの事実を咎められているのかはわからない。
が、どちらにせよこれ幸いと、驚くミクリオをベッドに押しつけ、欲望のまま、服に手をかけた。
「スレイ、どうした?」
ミクリオは目を丸くして、スレイを見上げる。
スレイのことなら何でもお見通しの幼なじみは、こういうことに関してだけは、妙に疎い。
そこがまた、何とも可愛いらしかった。

*******

薄暗く照明を落とした部屋に、ベッドの軋む音が響く。
スレイは一糸纏わぬミクリオの体を腕に抱え、夢中で饕っていた。
濡れた音を遠慮なく立てて、舐め、口づけ、吸い上げる。その様子はまるで、飢えた獣が久しぶりの食事にありつくかのようだった。
「んっ、スレイ…っ、んう…っ!」
間断なく与えられる快楽に、ミクリオは身悶えし、少しは休ませてくれと懇願する。
が、懸命の抵抗も、逞しいスレイの腕に、やすやすと封じられてしまう。

普段はライバルとして対等な関係を築いている二人だが、この時ばかりはスレイが優勢だ。
いつの間にか開いてしまった体格差を最大限に利用して、スレイはミクリオを、これでもかと翻弄する。
普段は過保護ともとれるほどに優しいスレイが、情事においては人が変わったように情熱的になるのを、ミクリオは密かに好ましく思っていた。
けれど、一方的に攻められてばかりいるのも癪なので、スレイの与えてくれる快楽に流されまいと、懸命に耐える。
あまり上手く行ったためしはないが。

「っはぁ……、ミクリオ」
執拗に胸の薄紅を愛撫していた唇が、やっと離れた。
ホッと息をついたのもつかの間、正面から抱かれていた体は、軽々と返され、うつぶせの体勢を取らされてしまう。
「スレイ…?」
今度は背中に、その唇が、手のひらが降りて来るのだろうか。背骨に沿って舌を這わされるのは、くすぐったいが嫌いではない。少なくとも、胸を刺激されるよりは堪えられる。

が、ミクリオの予想に反して、スレイはその大きな両手でミクリオの腰を掴むと、ぐいと持ち上げた。
「あっ、スレイ…?! なに……?!」
胸をベッドにつけ、そこから下を高く上げられた格好。
白い双丘を割るように開かれれば、谷間に息づく可憐な蕾が外気に触れて、きゅっと収縮した。
「スレイ、やめ……!」
「なんで? すごく可愛いよ、ミクリオのここ」
小さな入り口を、指の腹でほぐすように愛撫すれば、ミクリオは真っ赤になって身をよじる。
「そ、そんなところ、可愛くなんてないだろう……!?」
これが初めてという訳でもないのに、毎度ひどく狼狽えて恥じらう幼なじみを、スレイは心から愛しいと思う。
同時に、もっと恥じらわせ、乱したいとも。
だから、さらに大胆な行動をとることにした。
「ミクリオ、舐めるよ」
そう告げて、白い谷間に顔を埋める。
「なっ…?! こ、こら、スレイ!」
抵抗して引こうとする腰を、強い力で押さえ込む。
同時にぬるりと舌を差し入れると、ミクリオは小さく叫び、シーツにしがみついた。
ミクリオが羞恥に身をよじるほどに、スレイはそこをなぶる音を、更に大きくする。
抜き差ししたり、音を立ててキスをしたり。
少し弛むと、今度は指を差し入れて、軽く左右に拡げてもみる。
「も、もういい、スレイ…! そこまで、しなくても…!」
「だめだよ。ちゃんと準備しないと。怪我させちゃうだろ?」

確かに、その通りなのだ。
ミクリオの小柄な体に、人並み以上のスレイのものを飲み込ませるには、それなりの準備が要る。
けれど、あまり熱心にされては、繋がる前に喘ぎ過ぎて、力尽きてしまいそうだ。
そうでなくとも、今日のスレイは普段より執拗なのだから。
わけを尋ねると、
「だって、サウナであんな色っぽい姿見せつけられたんだから。しょうがないだろ」
などという答えが返ってきた。
見せつけたつもりなどこれっぽっちもないし、あのときはスレイだって、サウナの歴史について、真面目に考察をしていたはずなのに。
涼しい顔で談義をしながら、一方ではこんな不埒な妄想を抱くなんて、彼はどこまで器用なのだろう。

そんなことを考えているうちに、スレイの唇がそこから離れる。
再び仰向けにされて、腰を抱え直された。
いよいよ、彼が入ってくる。
脚の間から見えるスレイのものが、あまりにも大きくて、思わず身構える。
そんなミクリオに気づいたスレイは、白い脚を持ち上げながら、耳元に告げた。
「怖い? もし痛かったら言って」
そんな風に気遣われては、頷くしかない。
入口にぬめりを纏った熱を感じて、大きく息を吐く。

「行くよ、ミクリオ」
「あっ…、うぁ……!」

苦しいほどの圧迫感に、息を飲んだ。
けれど、痛みはなく、そこは思いのほか従順に、スレイを迎え入れた。
狭い内壁を押し拡げ、侵入してくるスレイのものは、硬く熱く、奥深くまでミクリオを貫いてゆく。
入り込んでくるそれを、無意識にぎゅうぎゅうと締め上げると、スレイは眉をひそめて、歓喜の声を上げた。

「う、く、ミクリオ…! 気持ちいい…!」
「う、うぁ、あぅ……!」

何か答えてやりたいのに、発する声は言葉にならない。
スレイの熱に体の奥まで拡げられ、腹部に力が入らないのだ。
そのまま、抽送がはじまる。
ゆるりと動かされたのは数回で、そのあとは徐々に激しさを増してゆく。
「ああっ…! スレイ…!」
深く、大きく穿たれて、思わず声を上げた。
それは泣き声に近かったのに、スレイは嬉しそうに目を細める。
「可愛い、ミクリオ」
違う、可愛くなんてない。情けないだけだ。ミクリオは心の中でそう反論する。
けれど、スレイの目には、そんなミクリオだからこそ、余計に可愛らしく映るのだ。
いつもは、余裕がある風に振る舞うことの多い彼が、今はスレイの思うままに翻弄されている。
泣き声を上げて、しがみついてくれる。
そのことが、たまらなく愛しい。

本当は、こうされながらも、やっぱりミクリオのほうが一枚上手で、心身ともにスレイを包んでくれているのも知っている。
こうして組み敷かれていることだって、スレイが、一人の人間の男性として真っ当に生きられるよう配慮して、その立場に甘んじているのだろう。

もしかしたら、その姿かたちさえも、スレイの望むようにできているのかもしれないとさえ思う。
それほどまでに、ミクリオはスレイの理想そのもの
なのだ。
その愛しい存在を、存分に愛せる幸せを噛みしめながら、スレイは夢中でミクリオを抱いた。

幾度も穿ち、その体内に思いの丈を注ぐことを繰り返す。
そうして、ようやく落ち着きを取り戻す頃には、夜明けまで、そう遠くない時間になっていた。

*******

「まったく…、だから君とサウナに入るのは嫌だったんだ」
「はは…、ごめん」

今度は部屋のバスルームで身を清め、ゆったりと湯に浸かりながら、スレイは頬をかいた。
腕の中では、ミクリオがふくれ面をしている。

「そんなに怒るなよ。ミクリオが可愛いのが悪いんだろ〜」
おどけたように言うと、
「可愛いって言うな!」
と、余計にむくれてしまった。
その様子が本当に可愛らしい以外の何物でもなくて。
「もう…、ミクリオ〜!」
溢れる思いのまま、ぎゅっと抱き締める。
「今度は、二人だけで入ろうな」
「…君、僕の話を聞いていたのか?」
ミクリオは呆れたようにスレイを見上げたが、完全に否定しない辺りが、本当に甘い。
これではきっとまた、同じ目にあわせてしまいそうだと、スレイは小さくため息をついた。

End.

スレミクでR18初挑戦でした。
思いの外難しかったです。とりあえず上げてみましたが、また少し手を入れるかもしれません。

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