裏口 | ナノ


▽ 隣で眠らせて


ここんとこ、やけに忙しい。
敵は多いし、しなくちゃならない事も山積みだ。
皆疲れていて、ベッドに入るなり眠ってしまう毎日。
普段眠りを必要としない、あいつまで。

……こうなれば当然、欲求不満になるわけで。

近頃やたらとよく眠る天使を横目に、俺は、悶々とした日々を送っていた。

―――たまには二人で、ゆっくりシたい。
あんなこととか、こんなこととかを。


そんなある日の昼下がり、しいなに声をかけられた。

「ゼロス、あんたどうしたんだい?」
「え? 何が?」
「最近、何だか浮かない顔をしてるじゃないか。」

―――やっぱりバレてたか。

付き合いの長いこいつに、隠し事をするのは容易じゃない。
でも、とりあえず、とぼけてみる。

「そうかぁ?」
「そうだよ。おおかた、イヤラシイ悩みか何かだろうけどさ。」
「………わかってんじゃねーか。」
口を尖らせてふて腐れると、しいなは呆れたように笑って、ため息をついた。

「やれやれ、ホントにそうなのかい。……クラトスは、涼しい顔してるけどねぇ。」
「あいつは不感症なんだよ。」

カラダの感度は抜群だけど。
………思い出したら、熱くなって来てしまった。
落ち着け、俺の下半身。

するとしいなは、隣に腰を下ろして、小さな声で言った。

「…まあ、協力してやらない事もないよ。あんたさえよければ。」
「え………? まじ?」
「ああ。いつまでもこんな調子でいられちゃ、困るからね。」

……確かに。
こういう不満は、つい態度に出るからなあ。
あとしばらくこの状態が続いたら、皆の前で押し倒すかも知れない。

「明日ミズホに立ち寄るんだけど、その時、みんなとは別の場所に泊まるってのはどうだい? そこでゆっくり過ごせばいいじゃないか。」
「……ぜひ、お願いします。」
ありがたい申し出に、小さく両手を合わせる。
もうこの際、使えるチャンスは総動員だ。
「よし。じゃあ、用意しとくよ。ただし、あんたの恋人には、あたしが言ったってことは、内緒にしといとくれよ。」
「りょ〜かい。」

クラトスは、俺達の関係がみんなにばれてないと思ってるからな。
実際は、しいなの他にも、先生とリーガルには知られてる。
おおかた今回のことも、先生あたりと相談の上なんだろう。
まあ、それはいいとして。
ともかくも、明日の夜には、念願のスウィート・ナイトを過ごせると言う訳だ。

……よ〜し、待ってろよ、天使サマ。

弾む心を押さえながら、俺は明日の甘い計画を思い描いた。



「じゃ、あんたたちの今夜の宿はここだよ!」

翌日、ミズホの里に着いた俺は、しいなに案内されて、小さな建物の前に立った。
白壁のそれは、高いところに窓がひとつだけ付いていて、入り口には、やたらと重厚な鉄の扉がついている。
そしてそこに掛かる、大きな錠前。

……なんか、甘い夜とは程遠い気がするんですけど。

思わず、胡散臭そうに尋ねる。
「えーと……、何だ? ここ。」
「ああ、見てのとおりの土蔵さ。普通は本とか焼き物だとか、色んなものをしまっておく所なんだけどね。ここは悪さをした人間が反省のために入れられる、まあ、言ってみればお仕置き部屋だよ。」
「おっ………、お仕置きぃ?!」

なんか、一瞬アブナイことを想像してしまった。
そういうプレイは、やったことないけど。
………うん、いいかもしんない。

って、違う違う。
それはとっても魅力的だが、何も今日でなくたっていい。
せっかく久しぶりに、二人っきりで過ごせるんだし。

「寝るとことか、ちゃんとあんのか?」
一応尋ねると、しいなは当たり前だろ、と言い放った。
「中は畳敷きのそっけない部屋だけど、普通の宿なみの設備はちゃんとあるよ。まあ、自由に使っとくれ。あっ、でも、お風呂はないからね。あんまりすごいことすると、後で困るよ。」
「わかったよ。……っておまえ、それが乙女の言うことかあ?」
「うるさい! その乙女に、ろくでもない気を使わせてんのは、どこのどいつだい!」
「あ〜、はいはい。すみませんねぇ。……じゃ、ありがたく使わせてもらうな。」

場所的にはちょっと、イメージと違うけど。
まあ問題は中身だ。




そんなこんなで、夜も適当に更けた頃、俺は天使サマを誘って、しいなの家を抜け出した。

「こんな時間に、どこへ行くのだ?」
「ん〜? いや、ちょっと。たまにはデートしたいなぁ、なんて。」
「……そうか。」

俺の言葉に、まんざらでもなさそうな天使サマ。
みんなの前では、照れからなのか、素っ気無い態度だけど、二人っきりになると結構素直なんだよな。
そんなところが何とも可愛くて、夢中にさせられる。
しかし、例の建物の前まで連れて行き、中に入ろうとすると、天使サマは途端にいつもの調子になった。

「………何だ? このあからさまに怪しげな建物は。」
「ああ、しいなから借りた。今夜は二人で、ココに泊まろうぜ〜。」

何でも、ミズホのお仕置き部屋だってさ、と言うと、天使サマは目を剥いた。

「そんなところに私を連れ込んで、何をしようというのだ!」
「いや、色々と。」

抵抗される前に、がしっと手首を掴み、引き寄せる。

「なあ? いいことしようぜ。……久しぶりに。」

そのまま中に引きずり込み、扉を閉める。
―――と、辺りは真っ暗になり、視界が閉ざされてしまった。
それもそうか。
外の光を取り込めるところと言えば、高いところにある窓ひとつだけ。
そこから入る、わずかな光をもとに、どうにか灯りをつける。

……と言っても電気ではなく、中にロウソクを点すタイプの灯りだ。
マッチもすぐには見当たらなかったため、炎の呪文を、最小限に絞って。
こういう時は、魔法が使えるわが身が、本当に便利だと思う。
ゆらゆらと揺れる光は、白い壁と、傍に敷かれた布団の上をぼんやりと照らし、結構いい雰囲気をかもし出していた。

「さ、来いよ。」
俺は布団の端に座り、立ったままのクラトスに手招きをした。
彼はまだ少し戸惑っているようだったが、程なくして靴を脱ぎ、小上がりのようになっている畳敷きの部分にやって来る。
両手を伸ばしてそれを抱きとめると、膝の上に座らせた。

「まったく……、このような場所を、何と言って借りたのだ。」
「え?……あー…、まあ、たまには、ナンパでもしようかな〜、とか?」

いきなり痛いところを突かれて、しどろもどろに答えた。
語尾が疑問系になってしまって、ちょっと情けない。というか、怪しまれるか?

「まあ、理由なんてどーでもいいじゃねーのよ。……とにかく俺サマ、あんたに触りたくて飢えてたの。」
膝に横抱きにした天使に、唇を近づけながら囁くと、彼はゆっくりと瞳を閉じながら言った。
「そうだな。私も……。」
え………本当に?
嬉しいことを言ってくれる。
そのまま深く唇を合わせ、舌を絡ませた。


濃厚なキスを交わした後、静かに唇を離して、抱えていた体を布団の上に横たえた。
「じゃあ、いただくとするか。」
早速服を脱がせにかかる。
もちろん、脱がすだけじゃなく、露になるそばから、その柔肌に紅い印を刻んで。
ずっと我慢していたせいで、少々強引かつ性急に貪ろうとする俺を、天使サマはトロンとした瞳で見上げていた。

「ゼロス……、そんなにガツガツするな……。」
「やだね。……何だよ、随分と余裕じゃねーか。さっき、俺に飢えてたっつったのは嘘だったのかよ?」
「そう、ではないが……、夜は、長いのだから。」
「まあ……、そうだけど。」

それって、一晩中ヤってもいいってこと?
このお堅い天使にしちゃ、あからさまなお誘いに、前言撤回。

「じゃ、ゆっくり楽しもうぜ。」
俺は、自分も着衣を脱ぐと、愛しい彼の上に覆いかぶさった。

「あ……ふ、ぅん、ゼロス…っ………。」
うなじに顔を埋め、吸い上げただけで、天使サマは切ない声を上げた。
「ん〜、かわいいなぁ、クラトスは。」
「か、可愛いなどと……っ! あっ……!」
「ほら、そんな声出しちゃって。……感じるんだろ?」
「んんっ、あっ、あぁっ……!」
久しぶりのせいか、クラトスはちょっとした刺激にも敏感に喘いだ。
そんな様子を見れば、可愛いと言いたくもなるが、彼はそう言われるのが嫌なようだ。

まあ、大の男だし?
立場や年齢は、明らかにこいつが上だし。
本気になったら、剣だって魔法だって、俺よりずっとデキるだろう。
でも、その彼が大人しく、俺の腕に納まっていてくれるのだ。
……こんなの、もう、可愛いとしか言いようがないでしょーよ。

「な、ココもいい?」
もっと可愛らしい反応が見たくなって、しっかりと主張し始めているソコに手を伸ばすと、天使はビクリと大きく背を反らせた。
そのことに、単純に嬉しくなる。

「あ〜あ、もうこんなにしちゃって。もしかして溜まってたのかな〜?」
「はぁあっ、嫌……っ!」
「…そんなことないってか? ……じゃあ、俺を想って自分でヤったりしてたのか?」
「………!」

―――からかうつもりで言ったのに、クラトスは黙ってしまった。
その頬は、薄明かりの中でもわかる程に、赤く染まっている。
も…もしかして………、図星ィ?!
そりゃ男だから、そういうことしたって、おかしくないけど。
で、でも、この天使サマが?
しかも、俺サマをオカズに?!

俺は、クラトスを見つめて固まったまま、思い浮かべた。
俺とのセックスを想像しながら、自分を慰めている彼の姿を。

……どうやったんだろう。
俺の名を呼んだ?
まさか、後ろにも指やら何やら入れてたりとか……?!
ああもう、それだけで、数日間飯が食えそうだ。

「ねぇ、どんな風にしたの……? してみせて?」

思わず愛撫を中断し、真面目な顔で詰め寄ると、天使サマは顔から火が出そうな程真っ赤になって後ずさった。
「ばっ……!! 嫌だ!!」
「え〜? どうしてよ?」
「そんなもの、人に、見せるようなものではないだろう……!」
「そう? ………見たいなぁ。」
なおも食い下がると、天使は半分涙目で怒鳴った。
「嫌だと言っている !第一、目の前にお前がいるのに、何故そのような事をしなければならないのだ!」
「………え?」
「………あ。」
「か……、かぁわいい、天使サマ!」

ついこぼれた彼の本音に嬉しくなって、思わずがばっとその体を抱きしめた。

―――目の前に俺がいるから、思う存分抱いてもらえばいいって?
自分で慰めてる場合じゃない?
……なんだ、それ。
それが4000年以上も生きている、一児の父の言うことか?
……もう、可愛いったらありゃしない。

「わかったよ。……じゃあ、それはまた今度にして、今夜はい〜っぱいしような。……二人でしか出来ないコト。」

耳元に囁くと、クラトスは赤い顔のまま、小さく首を縦に振った。


その後は、ここ数週間の想いをぶつけるように、舌で、指で、かなりしつこく攻め立てた。
天使サマは俺が何かするたびに、いつになく大きな声で喘いで、ますます俺の情欲を煽る。
本当は、すぐにでもぶち込んでやりたかったけど、しばらくしていないから、痛くしないよう入念に蕾を解し、バックからゆっくりと挿入することにした。
顔が見えないのは残念だけど、コレが一番楽に受け入れられるみたいだから。
しかし、それでも辛いのか、彼は枕に顔を埋め、苦しげに喘いだ。

「うッ……、うあぁっ……、んぅ…っ!」
「だいじょうぶ? 天使サマ……。」
「んっ、んぅッ、ン……! だ、だいじょ……っ、んうっ、ぅあぁッ……!」
「まっててね……。もうすぐ、全部入るから。」
「んん、うんっ、ぁっ、は……!」
「そうそう、力抜いて……。そう、上手だな。じゃあ一気に……。」
「ひっ……?! アっ、うあぁ――…ッ!!」
「……ほら、入ったよ。」
「ぅ……っ、ん、ふぅっ……。」

目じりに涙を浮かべて、痛みに耐えるその姿は、まるで初めて体を繋げたときみたいだった。
もとよりココは、こういうことに使う場所ではないから、今回のように間をおけば、すぐに元に戻ってしまう。
ここが女の子とは違うところだ。
でも、それも最初だけ。

やがて緩やかに律動を開始し、彼の好きなところを集中的に攻めてやると、天使はまたたく間に乱れ、高く甘い声を上げた。
しばらくぶりに目にするその媚態と、熱くトロける中の感触に、俺も追い上げられる。

「あ……! や、はぁんっ、ゼロスっ………!」
「ん…っ、なぁに? 天使サマ……っ!」
「あっ、や、だ、な、名前で……っ!」
「は……、わかったよ。クラトス……好きだ……っ」
「あ、ぅ…ん、私、も……。」

静寂の中、二人の息遣いと濡れた音だけがひっきりなしに響く。

「あー、ダメだ、クラトス、気持ち良過ぎる……。一回、出してもいい…?」
「あ、あぁっ、な、中、に、出す、のか……?」
「うん。今日は、全部中に出すから、覚悟して? ここ、シャワーないし。」

一旦動きを止めてそう言うと、クラトスは泣きそうな顔で頷いた。
あんまりいっぱい注いじゃうと後が辛いらしいけど、仕方ない。
ま、ちゃんと掻き出してやればいいよな。
基本的に、中出しされるの好きみたいだし。

「じゃ、行くぜ。」
「ン……。」

頷いたのを合図に、激しく腰を打ち付けると、いっそう甘い声が上がった。
零れた涙が、顎を伝ってぱたぱたとシーツに落ち、吸い込まれてゆく。
―――泣くほどイイ?
そんなによがってくれるなんて、彼氏冥利に尽きるってもんだ。

「ゼロス、も、もう、だめ……。」
「俺サマも……。一緒にイこうぜ……!」
「あ、そこっ……、ひぅっ、ふあぁ―――っ!」
「うッ、クラトスっ……! うあッ……!!」

先にクラトスが達し、熱い白濁を放つ。
それを手のひらで受け止めてやった直後、ナカの痙攣に誘われるように、俺も天使の体内に、いつもより多めの熱を注ぎ込んだ。
「あ……っ、ゼロス………。」
「はぁっ……、クラトス、顔見せて……?」

イった後のセクシーな表情がどうしても見たくて、まだ呼吸の整わない天使を、体を繋げたまま仰向けにひっくり返した。
「んぅっ……! っ、なに……?」
「……ん、可愛い。」

この、涙に濡れた瞳。
切なく寄せられた眉。
ぽってりとした、半開きの唇。
みんな、俺だけが見ることの出来る、とっておきの表情。
―――その艶めいた顔を見ているうちに、また催してきてしまった。

「それじゃ、このまま2ラウンド目、いい?」
額をくっつけて訊くと、天使サマは慌てた。
「なっ…?! 待て、ま、まだ……!」
「一晩中ヤっていいんじゃなかったのかよ? それに、抜いたりしたら出てきちゃうだろ?」
「っ、嫌だ! あ……!!」
「問答無用〜。……俺サマ、まだまだ足りないんでね。……あんたが。」
再び腰をグラインドさせると、天使は必死で俺の背にしがみついた。
それをしっかりと抱きとめ、耳元に囁く。
「愛してる、クラトス。」
……ああ、もう、本当に。
俺は、どこまでもあんたに夢中だ。
今も、昔も。
―――あんたも、そう思っていてくれたら嬉しいんだけど。

そうして俺たちは、熱く互いを求め合った。
それこそ、何度も、飽きることなく。

「もう降参だ」と許しを請う天使を、ようやく開放したのは、夜空がうっすらと明るくなったころだった。


「大丈夫? 天使サマ。」
一通り体をキレイに拭いてやってから横たえると、天使は珍しく、ちょっとぐったりしているようだった。
……まあ、かなりいっぱいしちゃったし。ちょこっとでも寝とくか。
「ゼロス………。」
「ん? なぁに?」
眠りに落ちる直前、クラトスは、やっと聞こえるくらいの小さな声で呟いた。
「私も……、愛している、ゼロス……。おまえだけだ。」
「! ………クラトス………。」
その言葉に、ようやく満たされた気がした。
カラダも、――――ココロも。
「うん……。俺も、天使サマだけだよ。」

嬉しさを噛み締めながら、その体を抱きしめる。
あんたがいるだけで、こんなにも幸せな気持ちになれる。
そのことが、ちょっぴり不思議だった。
いつか、同じくらいの幸せを、あんたにも感じてもらえたらいい。
そんなことを考えながら、俺も天使の隣で、目を閉じた。
ガラじゃないかも知れないけど、明日も、明後日も、この幸せが続くように、なんて祈りながら。

*******

「はぁ〜い! しいな、おっはよ〜!」
「………すっかり元気になったみたいだね。……ちょっと鬱陶しいくらいに。」

翌朝、晴れやかな顔で現れた俺を見て、彼女はうんざりしたようにため息をついた。
ちなみにここは、しいなの家。これからみんなで朝ゴハン。
さすがに二人とも席を外してちゃマズイってんで、俺だけは眠いのをガマンしつつ戻ってきた。
うっかりロイドにバレたりしたら、それこそ大変だし。

「おかげさまで、も〜久々に満喫したぜ。」
「ああ、そうかい。……で、クラトスは、大丈夫なのかい?」
「あー、まだ寝てる。…悪いけど、あの場所、もうちょっと借りてていいか?」
「ああ、構わないよ。どうせ、あんまり使われてないし。」
「サンキュー。…で、ついでに、あとで風呂かして。」
「………はいはい。」
もう好きにしとくれ、とため息をつくしいなに、俺は心からの礼を言った。
「ホントにありがとな。そのかわり、お前が同じ立場になったときは、メルトキオでどっか都合つけてやるからよ!」

その直後、したたかに張り倒され、頬にしっかりと手のひらの跡がついた俺は、朝食の場で、ナンパに失敗したアホな男、という汚名をきせられたのだった。

end.

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