何の取り柄もない、そんなわたしだけれど
(これと言った特技もない、平凡な君だけれど)

せめて、貴方が安らげる止まり木になりたい
(君の傍でだけ、おれは心が休まるんだ)




「ただいま」
「おかえりなさい」
「おー…」




いつもより少し遅い時間、いつもより疲れた顔のサッチが扉を開ける。大好きな笑顔は力なく、少し困ったみたいにへにゃりと笑うサッチに、胸の奥がつきりと痛んだ。



「…疲れてるね」
「そんなことねェよ」
「うそ」



隠したってわかる。
どれだけサッチの事を見てきたと思っているんだ。
サッチはいつもそう。
余計な心配かけまいと、何でもないフリをする。

だから、だからわたしは。




「…っ、ナノ…?」
「サッチ、お疲れ様。よく頑張ったね」
「…ガキじゃ、ねっつんだよ」



些か乱暴気味に、わたしの隣へと腰をおろすサッチの少し乱れた髪の毛に、ふわりと触れる。
突然の事に肩を揺らしたサッチは唇を尖らせながらそっぽを向いて、その耳のはしっこがほんのり色付いてるのを見て、ああ、やっぱり照れてる、なんてこっそり口角を引き上げた。



「ふふ」
「……」



よしよしと。
ゆっくりと頭を撫でてやれば、やっぱり照れているのかサッチは珍しく無言のままだ。いつもの饒舌な彼も好きだけど、こうしてされるがままになっている彼もまた、わたしは大好きなのだ。




「…?」
「あの…さ」



サッチの頭を撫でることに集中していれば、何やら視線を感じてそちらを見やると、ちょっぴりバツの悪そうな顔をしたサッチと目が合って、わけもわからず首を傾げた。

きょろりと視線をさ迷わせながら、頬を掻くサッチ。わたしは、彼のこの癖を知っている。こんな仕草をする時は、決まって。



「ふふ、いいよ」
「…ん、さんきゅ」



おいで、と言うように両手を広げて微笑めば、安心したかのような笑顔を浮かべて、サッチはわたしに抱き着いてくる。胸に耳を押し付けて、鼓動音を確かめるようにじっとしている。



「ん、やっぱ落ち着く」
「甘えん坊ッチだ」
「うるせ」



とくりとくりと脈打つ鼓動に合わせるように、サッチの背中や頭を静かに撫でおろす。サッチがこんな風に甘える時は、心も体も、ギリギリな時なんだ。

わたしには、何の取り柄もない。
けれど、サッチがこうして甘えてくれる。

だからわたしは。




「サッチ」
「…んー?」
「だいすき」
「ん。おれもだいすき」



小さく名を呼べば、ゆったりとした動作でこちらを見やる。ぱちりと視線がかち合ったところで、微笑みながら好きだと伝えれば、とろけそうな笑顔を浮かべてそれにこたえてくれる。

そのまま、掠るように唇が触れ、今度はわたしがサッチの腕の中に閉じ込められる番。


ねえ、サッチ。
わたしは貴方の止まり木に、なれていますか?

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