へべれけぱーりー!!
何がどうしてこうなったなんて言うよりも、
三時間前の私を殴りたくて仕方がない。
普段は酒豪を通り越す程に、酒に強すぎる隊長達の酔っ払った姿を是非とも拝ませて頂きたいと、怪しげな老人から買った薬を酒樽に混入したのが運の尽き。
『海王類だってへべれけ薬』などとふざけた名前の薬をどうして私は一服盛ってしまったんだ、私のバカめ!
「一番、エース!踊りまっす!二番隊だけど一番とはこれいかに?!」
エース隊長の宣誓と共に甲板には笑いの渦が巻き起こる。
なんなの、一体なんなのこの人…!
「ふんっふんっ、ふんふふーん!」
気持ち良さそうに鼻唄を歌いながら踊り出す。
あああぁ、指先から炎が…!というかこの服装はなんなのだ。いつもの半裸ではなくてきっちりスーツを着ている…なんて思ったのは一瞬で、くるりとターンしたエース隊長により私は絶句してしまった。
「エース隊長…その格好!へんたい!」
「いけてんだろォ?…ッてぇぇ」
前から見るとスーツなのに、
後ろから見ると裸なんですけど。
なにこのびんぼっちゃま…!
たまにはスーツ着ようと思ったけど
親父の誇りを隠したくないから考えたのだと
自慢気ににじり寄ってくるエース隊長の、無駄に引き締まった形のいいプリけつが無性に憎らしくてパチーンと叩いてその場を逃げ出した。
「うわーん!イゾウ隊、ちょ…?!」
「はぁ…何でこんなにベッピンなんだ…」
イゾウ隊長に助けを求めようと近寄れば、
ほうっ、と息を吐き出しながらいつものお得意の流し目でそんな事を言うもんだから、まさか私口説かれてる?!などと恥ずかしくなったのだけど、勘違いも甚だしかった。
だってイゾウ隊長の手には鏡が握られていたのだから…。
「イゾウ隊長、ナルシストだったんですね…」
もうこれどうしよう、なんて考えながら辺りを見回せば
普段は毒舌腹黒王子なハルタ隊長が父性丸出しのジョズ隊長に高い高いされてるし、ビスタ隊長はそのダンディーな胸毛を一本ずつ抜きながら恍惚とした表情だし他の隊長達なんて正座で輪になってなにやら『どうしたら目立てるか』なんて会議してるし。
「みーつけたー」
「いっ、ぎゃああああ…!」
そういえばサッチ隊長とマルコ隊長が見当たらないと思ってくるりと振り返って、私は自分史上最高の叫び声を上げた。
「なっ、ななな…!サッ、チ隊長?!」
目の前にはものすごーくいい体をしたおっさんが、満面の笑みを浮かべながら全裸で立っていました、全裸で。
足の間にぶらぶらとするモノに視線を奪われて、わぁいいモン持ってる…ってそうじゃない!どうして全裸なんですかどうしてぶらぶらとさせてるんですかあああ!
「男同士裸の付き合いをするんだよい」
「え?……ぎゃーー!」
声のした方に振り返ると
これまた立派なモンをぶらぶらさせてる全裸のマルコ隊長が立っていて、いつもの無表情でにじり寄ってくると『さぁ***も脱げよい』なんて迫って来た。
「は、え、ちょ、私女ですけど?!」
「ちっちぇー事は気にするなよい」
「***、おにーさんが脱がしてやろう」
「いーやーーーーー!」
両手の指をわきわきとさせながら
じりじり近付いてくる全裸のおっさん二人に
とんでもない悪寒が背中を走る。
貞操の危機とかそんなんじゃなく、人として大事な何かを失いそうな気がしたのでそりゃもう全力で助けを求めに親父の元へと駆け出した。
「グララララ!***てめぇ、一服盛りやがったな」
「お、親父…ごめんなさい」
「歯ァ食いしばれ」
「ヒィッ…………あれ?」
「随分と石頭になったじゃねェか、グララララ!」
「…親父まで……」
親父の拳骨は誰かが持ち込んだ岩の塊に落ちて、その岩を親父は愛しそうに撫でながら『娘の成長ってのは早ェなぁ』なんて言うもんだから、あぁ親父もかと額を押さえた。
とりあえず、映像電伝虫で撮影したこれらを見せたら
明日からしばらく色々と困らないかも知れない。
ただ、皆が覚えていたら
私の身が危険と言うのは考えない。
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