GIRLFRIEND






「烏龍茶です」

差し出したグラスは誰も受け取りやしないけど、それはよくある話。全員分の飲み物をテーブルに置くまでの間に耳に入った会話からすればこれは合コンに間違いないだろう。

名前のみという自己紹介に驚きつつ考える。多分主催者の女が来ていないんだろう。男4に対し女は3。そしてこの素っ気なさ。完全にハズレの合コン真っ最中だ。

小さな声でマルコと名乗ったこの人は男達の目すら見ていない。エースと言ったこの人はひたすら、ドリンクより先に頼んでいたパフェをがつがつ食べている。一番、それなりに楽しもうとしている様に見えるこの人は「サッチでえええす」とハートを飛ばしていた。


配膳を終えて失礼しますと部屋を出る。さて、次にこの扉を開けた時はどうなっているんだろう。あの調子ならサッチさんが確実に誰かをゲットしそうだ。マルコさんはそもそも仕方無く来たという感じにしか見えない。とり方によれば「うざい」とすら思っていそうだ。エースさんはきっとグルメちゃんなんだろう、ずっと食べ物しか見ていなかった。タダ飯ラッキー!といった所か。


「ちょ、***ドリンク今暇でしょ、これ手伝って!!」

階段を降り、受付裏の厨房へ戻れば熱気が増していて理解する前に仕事を頼まれる。できているメニューを受け取り、ルームナンバーを見ればさっきの部屋の注文だった。

予想より早く訪れる事になった部屋を目指しながら、どれを誰が食べるのかゲームをする。パフェは…またエースさんな気がするな。


「失礼し」

「やったー!!」


ノックの直後飛び上がったのはエースさんだった。一番にパフェを置いてみればやはりそれを目の前に寄せる。よし正解だ。しかし残りの皿をテーブルに置けばそれも全て目前に配置していく。全部お前のかと思いつつ反対を見れば、ノリノリのサッチさんを挟んで男達は皆、顔がひくついていた。


そこからは怒涛のピークが始まった。
山のような注文は全てあの部屋からで、そこに延々と酒が加わる。大変だけど、持って行く度に彼女達が面白くて目が離せなかった。
反応なんてフル無視で兎に角飲みまくる。食べまくる。一人は懸命に素っ気ないマルコさんに話し掛けていたけれど、後の人は皆サッチさんが相手をしていた。




自由すぎて滅茶苦茶だけど、あそこまでくると鮮やかなものがある。でも恋愛のノウハウを学ぶために聞き耳を立てている私としては今日のバイトはかなり大ハズレだった。



「おつかれーす」

タイムカードを切り、暇が無くて食べそびれていた賄いを頂き、これで晩ご飯はいらないやと一日の山場を過ぎてオフモードになる。そして店を出た私は間もなく、予想外のハプニングに見舞われた。駅の改札へ繋がる階段の下で突然「あああ!!さっきの子おおお!!」と指を差され、点になった目でよく見ればそれはあの部屋に居た顔だった。



「おいこら指差すんじゃねぇよい」

「飯頼みまくってゴメン!疲れたろ?いやマジで腹減ってて」


突然捕まって驚いたけど、エプロンを脱ぎ、店を出れば不思議と人間が変わったみたいにスイッチがオフになる私は、もうなんだか随分昔から知り合いだったみたいな気分になっていて、同じ温度で笑っていた。


「仕事なんで大丈夫ですよ。あれ?もう一人のお姉さんは?」

「テイクアウトだ、テイクアウト」



成程、やっぱり
モテるのはサッチさんなんだ。
しかしマルコさん。あんな顔してたのに女となるとこんなにニコニコって、なんだか懐きたくなってしまう。



「迷惑かけて悪いね、よかったら今から飯でも奢ろうか」

「うーん、私さっき賄い食べちゃったんで…ごめ」

「おっしゃああああ行くぞおお」

「てめぇは自分で払えよい!」

「ほら***、タダ飯タダ飯〜」

「え、なんで名前」

「名札、何回も見たら流石に覚える。てゆーかあの絵なんだ?犬か狐か?」

「あれは渾身の猫ですよ」

「ありえねぇよい」



にこやかに腕を掴まれてからの攫い方は自然過ぎて、お断りする暇さえなかった。この時、ある筈の壁を感じさせない彼女達に心も綺麗に持っていかれたのかもしれない。


人って、こんなに簡単に出会って仲良くなっていいものなんだろうかと思っていたけれど、テイクアウトのお姉さんにも会いたいと言ったのがキッカケで四人は顔を合わせ、何年も経った。
今ではあのシチュエーションに私が加わり、あんなに恋愛ノウハウを聞き集めていたのに全く生かされない程、自由で滅茶苦茶な女子会の日々。

「生かされない」ではなく「生かさない」と言えば言い訳になるんだろうか。それくらい今は彼女達との時間はかけがえなく、私の直ぐ隣で輝き続けている。



【GIRLFRIEND】









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