怒らせてはいけない彼女



「おい、てめぇ***!こりゃどういう事だよい」
「えー…ナニコレまじかよ」
「おれ結構可愛いな…」
「だって気になるんでしょ?!」


────

遡る事、八時間程前の丑三つ時
隣の部屋から響き渡る喧騒に
***はイライラを募らせていた。

ただでさえ激務続きで寝不足で
今夜こそゆっくり眠れる筈だったと言うのに、
あまりのうるささに腸が煮えくり返りそうで。

自分と同じく
眠たげな電伝虫を引き寄せ受話器を取る。
無表情でダイヤルを押す様はなんとも異様だ。


「もしもしイワさん?ちょっとお願いが…うん、うん」



──────


「そんな感じ」
「どんな感じだよい…!」
「え、ごめん全然わかんねぇ」
「そんな感じか!」
「エースお前ェわかったのかよい」
「うんにゃ、全然」


部屋の主でもある***に詰め寄る三人。
言うまでもなくマルコにサッチにエースなのだが
心なしかいつもよりも小柄に見えるし、
声だって野太い野郎の声ではなく、どこか甲高い。


「アンタ達さー、夜中にぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんうるっさいのよ!こっちは寝不足なわけ、わかる?!それもこれもみんなが残した書類整理したり、不備があったら手直しして!鍛練鍛練で破きまくった洋服をチクチクチクチク夜なべして縫ってさぁ!それなのにそんなのお構いなしで毎晩毎晩酒盛りして、挙げ句の果てにこん中で女になったら誰が一番モテるのかだぁ?!そんなの知ったこっちゃないわよ! 」


一息で言い切り
ぜぇぜぇと肩で呼吸をする***に
三人ともただただ唖然と見つめる。
普段は温厚で人当たりもよく、決して怒ったりしない***が、物凄い剣幕で捲し立てたからなのだが。


「よ、よい…」
「***チャン、オチツイテクダサイ」
「こえー…***こえぇ…!」


コホンと一つ咳払いをして
腕組みをしながら三人の顔を見回す***は
それはそれは悪そうに唇の端を吊り上げて呟いた。



「だから女にしてもらったんだけど」



そう、余りの怒りに***は昨夜、知人のイワンコフに頼んで彼ら三人を寝ている間に女性化させたのだった。初めは彼らがそのまま女になるのを想像していたから、見るに耐えない地獄絵図かとも思ったのだが、朝乗り込んで来た彼らを見れば、なんとまぁなかなかに美しいではないか。
悔しくなる程に。


フフン、とドヤ顔をする***に、
蒼白になり唇をパクパクさせる三人の顔は
なんとも対称的で、滑稽で。


「だからの意味がわからねェよい…!」
「女は好きだけど別に女になりてぇわけじゃ!」
「…これ、戻れるのか……?」
「あ、あー…多分」


的を得ているエースの発言に
マルコとサッチはピシッと硬直してしまう。
なるほど確かに、戻れなかったらどうしようと
***に視線を移せば、些か気まずそうに呟いた。


「ま、まぁ!イワさんだから大丈夫だよ!」
「なんだよい、その根拠のない自信は!」
「マジで戻れなかったらどうしよう…」
「と、とにかく!提案があるんだけど?!」


誤魔化す様に声を張る***をジト目で眺める三人は、その口から発せられた提案に、ただただ頭を抱える。

この島で今日、
いわゆるお見合いパーティーが開催される。
それに三人とも参加して
誰が一番男性にモテるのか競って来いと言うのだ。


「ふざけんなよい!何が悲しくて…!」
「そうだぜ***チャン、流石によォ」
「でも…誰がモテんだろーな……」
「「…!!」」
「ねー?気になるでしょーう?」


ニヤニヤと。
他人事だと思って楽しそうな***。
でも、なるほど確かに。
昨夜はそれで散々に揉めたのだ。
酒の勢いが手伝ったとは言え、
皆、口々に自分に決まっていると言っていた。
今回はそれの決着のいい機会ではないだろうか。

グラグラと揺れ出す彼らの心に
***が更なる追い討ちをかける。


「そうだな、一番モテた人には……」
「一番、」
「モテた、」
「人には…?!」
「向こう半年間、隊務代わってあげるよ」

「「「その話乗ったー!」」」


***の仕事は的確で丁寧で、
そんな彼女に代わって貰えるなら
半年間は遊んで暮らせるのだ、こんな巧い話はない。
隊務の殆どを管理しているマルコでさえ、
***に助けられる事もしばしばだ。


「じゃ、決まりね。いってらっしゃい」
「…ょぃ」
「しまった乗せられた…」
「美味いメシあるかなー」





────

とある島のとあるホテル
大きな大きな宴会場でそれは行われていた。
お見合いパーティーとは名ばかりで
ようは体のいい合コンだ。

堅苦しい事も、ツーショットも定められておらず
ただ番号札を身に付けてフリータイムの好き放題。
さてさて、どうなることやら。



「おねーさん、クールだね」
「…チッ」
「え?」
「な、何でもねぇ、わよい!」
「その髪型イカシテんじゃん」


パーティーが始まり
マルコの周りには数人の男が集まっていた。
髪型はあれかもしれないが
黙っていればクールビューティーの彼(女)に
M気質の男性が群がって来たようだ。


「いやぁ、しても綺麗なおみ足…!!」
「…それ程でも、あるわよい」
「是非踏まれたい…!!」
「はァ?!」
「あああ、その蔑んだ目差したまらない」
「気色悪ィんだよい、てめぇ…!」


もっと罵ってー!
と、恍惚とする男達にマルコは悪寒が走り
とりあえず身を隠して他の二人の様子を見ることにした。



「彼女いい食べッぷりだねー」
「むぐむぐっ、うまいからな!」
「そのワイルドさ!惚れ惚れするよ」


逃げ出したマルコが影から覗くのは
健康的美少女となったエースの元で。
プリッとした頬に散らばるそばかすが、快活さを醸し出していてなんとも可愛らしい。

さすがに半裸は何かとヤバイし、
親父の誇りが目立つと不味いので服を着ろと言ったのだが、どうにも嫌がり際どいビキニ姿となった。誇りに関しては小振りのリュックを背負う事で無理矢理納得させた。


「ほら、これも食べて!」
「おお!悪ィな、サンキュー」
「それより、際どい格好してるねぇ…」
「…は?」
「たわわに実った果実がこぼれ落ちそうだよ!」
「おい、どこ見てんだよ」


デローンと鼻の下を伸ばした男はビキニからはみ出るエースの横乳を、これでもかというくらい眺めていて。
今にも伸びて来そうな手に蒼白となる。
このままでは大切な何かを失ってしまうと判断したエースは、トイレ!と叫んでその場を逃げ出し、マルコと合流した。


「…マルコ、」
「エース、皆まで言うなよい…」


二人が二人とも何処か遠い目をして溜め息をつく。
なんかもう、帰りたいと思う反面
やっぱり半年間隊務免除はおいしいので
とりあえずは残されたサッチの様子を見ることにして
…絶句した。



「えー?そんな事ないわよー」
「いやいや、本当に美人だよ、君は!」
「いやーん、サッちゃん恥ずかしいー」


下ろした長髪を指先でクルクル弄りながら
くねくね、ぶりぶりしながら上目遣いで男達を見つめるサッチは仕草も何もかも、モテ要素満載の女だった。


「趣味とかあるの?」
「あたし?あたしはお料理が好きかなー」
「女らしくていいねー」
「でも、作ったの食べて貰うのが一番スキッ!」


きゅるんっと効果音が聞こえそうな程
うるうるした瞳で小首を傾げるサッチに、
周りの男共は『うおー!サッちゃーん!』と雄叫びをあげるる。



「…おぇ」
「サッチ、あれが本性なんじゃねえかい」
「でもヤバくねぇか?」


サッチの徹底した女っぷりに
マルコもサッチも感心しつつ、些か吐き気を催した。
それでも流石にこのままでは負けると思い立ち、鳥肌を隠しながら男の相手をする事に決めたのだった。

マルコはクールビューティーな女王様を
エースは天真爛漫でどこか色っぽい女性を、
サッチはそのまま演じきり、
お見合いパーティーは終演を迎える。



「…いよいよ、だねい」
「うふっ、そうね!」
「サッチきもい」
「冗談だっつーの!」
「まぁ、泣いても笑ってもこれで決まるよい」
「おれが勝つけどねー」
「むっ、おれに決まってるだろォ!」
「はんっ、悪ィが譲れねぇよい」



バチバチと火花を散らす三人をよそに、
司会の口から一番人気の女性が発表される。

ごくりと喉を鳴らす三人は、
手に汗握りながらその成り行きを見守るのだった。




「本日のー!一番人気はぁぁぁぁ!」

「「「…っ、」」」





「むゥぎわらのォー!ルぅフィ子ちゃぁぁぁぁん!」
「よいっ?!」
「はァッ?!」
「ルフィィィィ?!」



ドラムロールと共に
目映いスポットライトが当たった先には
特盛サラダをがふがふと頬張る
麦わら帽子を被ったエースの弟(妹)がいた。



「ん?」


「うおー!ルフィ子ちゃぁぁぁぁん!」
「ルーキーのコスプレたまんねーーー!」
「その純真無垢な瞳…!!」
「おじさんが色々教えたぁぁい!」
「ほっぺに食べかす!なんて最強なんだぁ!」




─────

「…ょぃ」
「まさかアイツがいるなんて…」
「まぁ、ルフィは可愛いからな!」



マルコがどんよりと落ち込み
サッチはとんだブラックホースの出現に溜め息
エースはずれた発言をしながら帰路に着く。

あぁ、これで隊務免除はなくなった。
これでは女のなり損ではないかと考えていたら
目の前に***が現れた。



「残念だったねー」
「み、見てたのかよい!」
「自信あったんだけどなァ…」
「まぁ、ルフィ連れて来たの私だし」
「「「はぁ?!」」」



フフン、と。
先程のドヤ顔よろしく淡々と喋り出す***に、三人とも何が起きたのかわからなくて。



「美味しいモン食べれるよーって誘ったんだよね。
そんでイワさんに頼んでルフィも女にしてもらって、会場に送り込んだってワケ。アンタ達みたいにすれてる人間より、ルフィみたいな純粋な子が好きなのよ、男は!」

「***てめぇ、最初からそのつもりかよい」
「え、え?隊務免除は?」
「騙したのか!失敬だぞ!」
「当たり前じゃん、お仕置きだし」


人の睡眠を邪魔した罰なんだから、と。
ニィッと口角を吊り上げる***は恐ろしくて
ソレ以上文句も言えなくなる三人だった。


「あ、ソレと」


思い出したかの様に手を叩き言葉を続ける***に
三人は顔面蒼白となり驚愕してしまう。



「今日の、ぜーんぶ録画したからネ」
「…は?」
「いやちょ、」
「えっ」
「半年間は隊務かわってねー」


語尾にハートマークでもつきそうなほど
るんるんとご機嫌に話す***。
そのままスキップしながらモビーへと進む。

三人は
へなへなと座り込む事しか出来なかったという。





─本日の教訓─

・***の眠りを邪魔する奴はなんとやら
・障らぬ***になんとやら





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