あの日の太陽



幼い頃に交わした約束
こうして叶うなんてなんて素敵なんだろう。

ダダンの元で育てられた私達は、
ずっと海賊になるのが夢だった。
二つ上のエースとサボは一足早く海へ出て
私とルフィは日々鍛練に明け暮れながら
自分達の番を今か今かと待っていた。



「マキノ!行ってくる」
「マキノ姉、お世話になりました!」
「二人とも、気を付けてね」



空には太陽が輝いて
絶好の出航日和。
船が小船じゃなかったら、なんて
そんな野暮な事は言うはずがない。


「ねー、ルフィ」
「んー?」
「二人とも、元気かな…」
「あたりまえだろ」


あいつらはおれ達の兄ちゃんだぞ!
ドーンと胸を張るルフィに
何とも言えない暖かさが込み上げる。

でも、二人は、覚えているのだろうか。
私達が今日、海へ出るということを。


「たった二年でさ」
「二年も、だ」
「こんなに名前が売れちゃって」
「あいつらは強いからな」


新聞を片手に溜め息をつく。
なんだか二人とも、
私の知ってる彼らじゃないみたい。

なんて。
そんな事も言ってる間にも
小船の周りに巨大な影、
空からも何だか不穏な空気。

あれー、ヤバイんじゃないのー?!



「ルルルルル…!!」
「きつねでも呼んでンのか、おまえ」
「くそゴム!んなわきゃないでしょーが!」



あれ、あれ…!!
海からは巨大な海獣、空からは大型の鳥獣
一世一代の大ピンチです。


「何のために強くなったんだよォ」
「わ、わた、私は非戦闘員ですうう!」
「ワガママだなぁ、***は」


まぁ、見とけ!
そう言って、不敵にニィッと笑ったルフィは
大きく拳を振りかぶり。


「ゴームゴムのおおおおォォォ…!!」


海獣をものすごい勢いで殴り飛ばした。
打ったー!打ちましたー!
月まで飛びそうな特大ホームラン!!
…なんて言ってる場合か!



「いーやーーあああァァァァ…!!」



パクリと鳥にくわえられた私は
空高く舞い上がり…わーぉ、快適空の旅!
だからンな事言ってる場合か…!!
このままじゃ食べられちゃうし、
食べられなくっても真っ逆さまに海の中だよ!

ルフィは呑気にも片手を日除けがわりに
おー、たけーなぁなんて呟いてるし。

あああああ、私の人生終了のお知らせ!
海へ出て間もないのについてないです
さよなら人生、アーメン…!!





「ほんとお前らはおれ達がいねぇとダメだな」
「…!!」



もうダメだーと思ってぎゅっと目を瞑る。
瞬間、鳥の悲痛な叫び声が聞こえて私の体は宙に投げ出された。くわえられていた時の浮遊感とは違い、胃が持ち上がりそうなこの感じは紛れもない絶賛落下中なわけで。

ぎゃーっ!と叫ぶ暇もなく
暖かくて柔らかい衝撃に包まれた。
恐る恐る目を開けたそこに映ったのは、



「よォ、二年ぶり」
「エース…!!」



あの日となんら変わりない
ううん、ちょっぴり大人びて逞しくなって
でも太陽みたいに笑うエースが
私を抱きかかえていた。



「おいルフィ、ちゃんと***を守れよ」
「サボ!」
「コイツはおれ達の大切な妹だぞ」


エースに抱きかかえられたまま
小船へと着地すれば。
そこにはやっぱり、
見慣れたハットを目深く被り、鳥を弾き飛ばしたと思われる鉄パイプを構えるサボがいて。


「エース…!!サボ…!!」
「よっ、相変わらずペッタンこだな」
「どこ見て言っとンじゃ!スカポンタン!」


私の相変わらずなだらかな二つの小山を、それはそれは哀れそうに眺めながらニヤニヤ笑うサボの頬に、パチーン!!と小気味いい音を響かせて、キッと睨み付ける。

いてぇーなんて笑って、
それでもふわりと頭を撫でられて。
この一瞬で二年間の空白が埋まって行く気がして、
何だかとっても暖かかった。


「どして、ここにいるの」
「どうしてって、今日はお前らが海に出る日だろ」
「そうさ、だから会いに来たんだよ」


そう言って笑う二人の笑顔は
あの日のまま、少し悪ガキみたいで
それに釣られる様に自然と、
私もルフィも笑顔になってしまって。


「おれがあの鳥倒そうとしたのに!」
「だからお前はガキなんだよ」
「倒す前にコイツを守れっつーの!」


唇を尖らせるルフィの頭をエースが優しく撫でる。
サボはコイツ、と私の頭に自分のハットを被せながら、ルフィの尖った唇をこれでもかと言うくらいに引き伸ばして。


「さて、そろそろ行きますかねぇ」
「え、もう行っちゃうの?!」
「おれまだ話し足りねぇ!」

「「バーカ」」


二人して唇の端を吊り上げながら
慌てて服の裾を掴んだ私達の額を小突く。


「お前らも一緒にに決まってンだろ、なぁサボ」
「あぁそうさ、おれ達は四人で海賊になるんだ」


それがガキの頃の約束だろ?なんて
ニカッと笑顔を見せる彼らに胸を詰まらせる。
あぁ、彼らはちっとも変わってなんかいなかった。

幼い頃の約束を守る為に
こうして迎えに来てくれたじゃないか。


「き、」
「ん?」
「キャプテンは私でしょうね!!」
「しねペチャパイ」


込み上げる熱を隠す様に
わざと軽口を叩いて見せれば、
ぐしゃぐしゃと頭を掻き回されて。

あぁ、やっぱり。
私は、彼らは、私達は。
あの日のままなんだなぁって思った。


少し変わった事と言えば
絶対に変わる筈のない太陽が、
いつもよりも眩しく輝いていた事か。



私達の航海は、ここから始まるんだ…!!





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