電波ジャック




「なあなあ、***は何王になりてぇんだ」

「はああ?」

「いやぁな、昨日サボとエースと王様ゲームしてたんだよ。そしたらサボが「俺は自由王になるからやめた」とか言うんだ」

「で?」

「エースは強い王だからお前の使いっパシリはしねぇとか言うし。だから結局俺が飯を買いに行ったんだよ」



そして授業で使ったまま、しまわれていない国語辞典をペラりとめくるルフィ。何か決まった語句を探しているようで、活字をさ迷う指先は海賊でびたっと止まった。



「俺はさっき海賊王になりてぇなって。だから***は何王になりてぇんだ」



そうだな。うーん。
突拍子もない所は慣れた分だけスルーして、彼の望む答えだけを考える。するとそれを打ち消す様に校内放送がなった。


『就活希望者の三年は進路指導室に…繰り返します。就職活希望者の』


そうだな。就職したい。
できれば永久就職。

まだよく解りもしない遠い未来に、
ルフィと。




「永久就職って解る?」

「なんだお前ぇ、一生働く気か」

「違う違う。結婚のことよ」

「なん…だよ…誰とだよ」



膨れっ面でそんなこと言ってくれるから。あと数ヶ月で会えなくなるぐらいならって、言ってやる事にした。



「ルフィとだよ…まじ鈍すぎ。私は3年間アピールの仕方を間違えたね」


すると彼はみるみる元気を取り戻して、 なんだよ。俺、そうか。そうか。と短い言葉ばかり呟き始める。


『繰り返します。就活希望者は筆記具を持って進路指導室に』


そして、突然クソと眼前で悪態をつくルフィに驚き、観察している内に返事を聞く間もなく走り去って行く。なんというか、こんな所まで彼らしくて大好きだ。しかしそれだけで満足していた私は、次の瞬間響きわたった妙なノイズに両耳を塞ぐ。



片目を開ければクラスメイトも同じ反応を示している。そしてその音声の端にルフィと揉める先生の声が聞こえて、就活者を呼び続けていた筈の、黒板上のスピーカーを睨み付けた。



「あー、おい!聞こえるか***!」



名前を放送される事で、全員がばっと振り返り私を見る。注目度とか、廊下から聞こえる冷やかしは見事に私の心臓を走らせて。息が止まるかと思った。




「***は俺に永久就職だ!俺はお前と世界一の幸せ王になる!俺と結婚しろおおお」




恥ずかしげもなく馬鹿な事を叫ぶ、スピーカーの網目を眺めていた。でもそこには確かにルフィが見えて、「はああ?」といつものように答えるのに。震えて、笑いながら泣いている自分がいた。


それにしても3年間待ち望んだ大事な一言はまだ聞けないのか。友人に囲まれ、小突かれながらふと思う。しかしそんな事さえ微笑ましくて思う程、やっぱりあの人が大好きだ。それにそこは心配しなくとも、放送室を乗っ取った犯人が隣の席へ戻った時、きっとお節介な皆が煽りに煽ってくれる。



さあ今の私は3年間で一番綺麗に映るだろうか。彼が掛け戻るより早く涙を拭いて、笑って、愛してるの練習をしなくては。





【電波ジャック】



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