大きな愛に包まれて


泣く子も黙る白ひげ海賊団、
とは言え、何も鬼ばかりの集団ではない。
本来の彼等は気さくで
夜な夜な宴に勤しんでいる。

今宵の彼等は特に、
何処か浮き足立っているようで。



「恨みっ子なしだからな」
「そういうサッチこそ、へこむなよい」
「おれが選ばれんだろー」
「ねえよい」


皆、意気揚々と
今夜の宴に思いを馳せる。

それもその筈。
少し前に家族になった***と言う女。
秀でて素晴らしい容姿でもないのだが、
彼女の笑顔や纏う雰囲気には
人を惹きつけて止まない何かがあり、
モビーの誰もがいつの間にか心奪われていた。

そんな彼女に想い人がいると噂になったのは数日前の話。誰もが気が気じゃなくなり狼狽える。おれか?おれだろ?そんな思いが胸中を渦巻く中で、今夜の宴が決定した。

モビー舞踏会なるものを開催し、
ダンスに***を誘い想いを伝えると言うのだ。
***とて子供ではない。
誘われたソレがどんな意味を持つのかなどわかっている。



─────


酒もいい頃合いで、
誰もがウズウズそわそわと。
その時を今か今かと待ち侘びて。

音貝からスローな音楽が流れ始め
ピンと空気が張り詰める。

さぁ、若人達よ
彼女を誘うのはいまではないかね?
ビスタが楽しげに宣言すると
皆それぞれに気合をいれる。


「…行ってくる!」


誰より早く飛び出したのは、末っ子エース。
鼻息荒く***に近付くと、礼儀正しく腰を折りシュバッと右手を差し出した。


「***!おれと踊って下さい!」
「エース、ありがとう」
「!」


にっこりと。
満面の笑みをエースに向ける***。
誰しもが負けたと落ち込みかけたその時だった。


「せっかく半裸なんだもの」
「え?」
「素敵な腹踊り見せてよ」
「はら…?」


そしたら相手してもいいけど、クスリと笑いながら告げる***にエースは戸惑いを隠せない。周りでは玉砕したかとマルコやサッチが笑い転げている。
ションボリ肩を落としたエースは、トボトボと輪に戻り筆を探しさ迷ったと言う。

そんな彼を尻目に
次いで飛び出したのは。


「よぉ***、おれと踊ってくれるよな?」
「サッチまで」
「生憎おれは半裸じゃねぇからな」


腹踊りは出来そうにない、と。
少しからかうように微笑めば
***も柔らかい笑みで返してくれて
貰った!とサッチは心の中でガッツポーズ。


「ねえ、サッチ…」
「ん?」
「私、ブレイクダンスが見たいなぁ」
「は?」
「…その頭でヘッドスピン出来たらだけど」


またもやにっこりと。
蕩けるような笑顔を見せる***に、
サッチは頬を赤くしながらも
ポリシーを崩すかどうか心底悩んだ。

***の想い人はサッチでもない、
クルーの誰もがざわざわとし出す。
それならばと名乗りを挙げたのは。


「ははーん、こりゃ間違いなくおれだねい」
「マルコ隊長がんばれー!」


悪そうに口角を引き上げたマルコは
いつもより足取り軽く歩き出す。


「***、待たせたねい」
「え、何か約束してた?」
「あぁあぁ、構わねぇよい。さぁおれと踊るよい」
「…うーん、」


自信満々に手を差し延べるマルコ。
けれど***は苦笑を浮かべるばかりで。


「気持ちは嬉しいんだけどね…」
「なんだよい、素直じゃないねい」
「だって、マルコのダンスはあれでしょう?」
「よい?!」


クスクス笑いながら
***は両手をパタパタと動かした。
まるで鳥のはばたきのように。


「鳥の求愛ダンス」
「…おれは鳥じゃねぇ」
「…不死鳥の求愛ダンス?」
「求愛には違いねぇけどよい…」
「わ!見せてくれるの?!」
「……ょぃ」


よろよろと今にも倒れそうな勢いで皆の輪に戻るマルコは、『求愛ダンス、求愛ダンス…』とブツブツ繰り返しては悩んでいるようにも見える。

さて結局、***の想い人は誰なのだろうと一層ざわつきが増した甲板。当の本人はしれっとした表情で酒を飲みつつ鼻歌なんか歌っていて。


「…もう、絶対来ないつもりよね……」


そう呟いたかと思えば。
痺れを切らしたかのように立ち上がり
ある一角を目指してズンズン歩き出す。
その先には。



「…おや、お姫さん。やっときなすった」



モビー切っての色男、
イゾウが紫煙を燻らせながら微笑んでいた。

そうか、***の想い人はイゾウだったのか、それならば仕方がないと。諦め半分納得半分と言った様子で事の成り行きを見守るクルー達。


「さて、それじゃあ一舞相手してもらおうかね」
「あ、ごめん」
「え」


するりと差し出されたイゾウの手を
***はやんわり断った。
キョトンとするイゾウに、キョトンとするクルー達。
マルコやサッチは内心ざまあみろとほくそ笑んで。

そんな彼等などお構いなしに
***はイゾウの背後に視線を移し
ほんのり頬を染め上げて腕を伸ばす。



「なかなか来てくれないんだもの」
「そうか」
「だから私から来ちゃったわ」


腕を差し出したまま微笑む***は、いつもより何だか妖艶で、知らず知らずに誰もが息を飲んだ。イゾウは、自惚れと言う名のショックから見事に石化した。




「ね、私と1曲踊ってくれる?」
「…1曲でいいのか?」
「貴方の体力がもつかぎり」
「グララララ!言うじゃねぇか!」
「ニューゲート、貴方が好きよ」


そうはにかみながら囁いた***を
ニューゲートは壊さぬ様に優しく抱き上げた。
初めて出会った頃のように、彼の逞しい首に腕を回した。
そんな***の頬に、慈しむような口付けを贈ったニューゲートは、唖然とする息子達をよそに船長室へと歩を進める。


「…踊ってくれないの?」
「好きなだけ踊ればいい」
「え、でも…」
「…寝室で、おれの腕の中でな」
「バカ!」


グララララ!と。
いつもより何処か嬉しそうな笑い声。

今はまだ教えてはやらないのだ。

娼館と言う名の地獄から
***を救った時の事を。
彼女を一目見た時に
年甲斐も無く胸が高鳴った事を。

今はまだ、教えてやらないのだ。
寝室でゆっくりと。










[あの日の衝撃、今も尚]

この日からしばらく、
腹踊りの練習をするエース
ポリシーを崩すか悩むサッチ
魘された様に呟くマルコ
そして引きこもったイゾウが見られた。




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