代名詞はさようなら
今日という日が晴れで良かった。
すっかり馴染んだホーム。
空と海の綺麗な二色をバックに
ずらりと並んだ白スーツ。
世話になったと言うには軽すぎる
鮮やかなる男達。
「お前は白が好きだろうってな。うるさくてよい」
照れくさそうにネクタイを触るマルコ。
最初はこんなじゃなかったなぁと、何度見ても微笑ましくて。にやけ続けた頬はもうおかしくなりそうだった。
散々飲み散らかした宴会後、
突然消えた隊長達は全員この姿で現れたものだからそりゃあ驚いた。更には一人一人と踊らされて。
旅路の最後をこんなにも華やかに彩ってくれるから、何の尾も引かず晴れ晴れ行けそうだと、心はいつに増して開放的になる。
「本当に嬉しいよ。こんなにさ。やー、私って凄く愛されてるね」
「ハ。大事な奴にはどうだかね」
「今それ言う?」
「………言ってねえのかよい!?」
「だって言わない方がいいんじゃない?立つんだし」
呆れた顔を見るのもこれが最後かと、特に気にもしない私を他所に、マルコはサッチを手招いて何やらぼそっと話し掛ける。
「へええええ!!!あーそう!!解った解った。俺っちに任せろ」
「もう…また何をしでかす気よ」
「聞けえええ!!!今から***が惚れた男の前に立つ。ファーストダンスだ!」
「はぁー……ていうかラストダンスじゃなくて?」
「手を取っていいのは答えがイエスの場合のみ!オッケーか。よし、ゴー!」
一列に並んだ隊長たち。
上手に秘め続けたのに最後でこれかと溜息をつくけれど、晴れ晴れしいのは変わらない。
思わせぶりな芝居を打ちながら、ゆっくりゆっくり品定めするみたいに歩いて。関係ねぇやと言わんばかりに欠伸をする、そっぽを向いた彼の前を通り過ぎ。三歩戻って向き直った。
「私と踊ってくれませんか。イゾウさん」
冷やかしの騒音が凄い凄い。
そんな中、
信じられないと驚く彼は
酷く機嫌か悪かった。
「なんでもっと早く言わねぇんだ」
「言えませんよ。海賊は海の子でなくちゃ」
叩く勢いで手を取られて
その荒っぽさに笑う。
「勘違いしてくれるなよ。餞別なんかじゃねえ」
真っ白なスーツは贔屓目にも、
やっぱりこの人が一番良く似合う。
きゅっと一つに縛った髪を肩に流し、胸元に飾られた白い薔薇がその途中を彩る。 だから彼の少しブレた色がわかり易く浮いて見えた。
「意外です。これって想いが結ばれた事になるんですか」
「お前さんが嘘でもついてなきゃな」
「そんなまさか。大好きですよ世界一」
キョトンと眉を釣り上げて。
豪快に笑い始めた彼に強く引かれて、
初めてその胸の中に恋心が納まった。
「いっけねぇ女だ」
「折角ですから我儘いいですか」
「言ってみな」
「意味の無いキスを下さい」
「へぇ、そりゃまたおかしなことを言うねぇ。唇を重ねるのに元々意味なんかねぇだろう」
衝動さ。 と、一言。
腰を抱いていた手は引き寄せるため頭にまわり、髪をまさぐりながら指先に力がこもる。その強引さに反して優しく押し付けられた唇は我儘に角度を変えて、どこまでも想いを重ねようとした。
これでいて
この行為に意味は無く、
衝動だと言うのだから。
「いっけねぇオトコだ」
夢中で溺れ合っていた唇の隙間からそう溢せば、薄く開かれた瞳はやはり、愛しいと言っているように見えた。
互いに、
心だけ頂いていきましょうか。
たとえ違う地を踏もうとも、
私はいつでも空を見ますから。
だから貴方も、
自由に夢路を進んで下さい。
さようなら。
これで私は
広くて大きな世界から、
永遠に貴方を手に入れた。
代名詞はさようなら・ファーストダンス
新郎と新婦が結ばれて初めて手を取り合い踊るダンス。「ファースト(初めての)・ダンス」。
共に歩む新しい人生の始まりを象徴します。
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