心、真心、下心

「あ"あ"あ"〜、辛い死にそう辛い」


季節は夏真っ盛り。
皆バカンスに勤しんでると言うのに。
夏風邪とかほんとついてない、サイアク。

うんうんとベッドで唸っていれば、
ドタドタドタと足音が響いて
次いで轟音と共に扉が破壊された。


「***!大丈夫か?!生きてるか?!」
「あー、エース。うん、大丈夫だからうるさい」
「お前が倒れたって言うから心配でよぉ!」
「気持ちは嬉しい、嬉しいから静かにして」
「なんだよ、失敬な奴だなー」


ぶぅっと頬を膨らますエース。
可愛い。可愛いけど今はそれどころじゃない。


「あ!これオミマイってやつだ!」
「え」
「おれビョーキとかした事ねぇからよぉ、何がいいか迷ったんだけどやっぱこれがいいよな!」


そう言ってニッコニコしながらエースが私に差し出したのは、一抱えもありそうな骨付き肉の山。これって自分が食べたいだけじゃないだろうか。具合悪いから見てるだけで吐き気が…おえ。


「さあ食え!肉食ったらビョーキなんか吹っ飛ぶぞ!」
「そ、その気持ちだけで充分…!」
「なんだよぉ」
「そうだ!お見舞いありがとって事で、このお肉エースが食べていいよ?!」
「ほ、本当か!」


違う部屋で食べるなら!と続ければ、ヨダレをダラダラ零しながらエースはお肉を抱えた。そのまま『ありがとう!ありがとう!』とお辞儀をして猛ダッシュで消えて行った。既に8割口の中に入っていたのは熱による幻覚に違いない…。



「…悪気はないんだろうけどさ、」


流石にお肉は無理だぁ、と力なく呟いていたら。


「うおっ、何だこの扉…」
「サッチ…?」
「よっ、具合どーだ?」
「…あんま良くないかな」


その扉はエースが壊しちゃって、と苦笑しながら告げれば、サッチもまた苦笑で返してくれる。


「エースの奴、後でお仕置きだな」
「心配してくれてたみたい」
「ははっ、そうか」
「サッチは、どしたの?」
「ん、おれもお見舞い」


『やっぱ顔色悪ぃなぁ…』と、眉尻を下げながらサッチは私の頬に優しく触れる。水仕事でちょっぴり荒れた手はチクリとするけれど、何故だか心地よい。


「お粥、作って来たんだ」
「え、わざわざ?」
「うん。何か腹に入れねぇと薬飲めねぇだろ?」
「サッチ、やさしー」
「そ、おれやさしーの」


ひひっ、と。
いつもの笑顔を見せるサッチ。
彼の手を借りてゆっくりと起き上がり
スプーンを受け取ろうとしたのだけど。


「だーめ!」
「え」
「***は病人だからさ、はい、あーん」
「ひ、一人で食「あーん」…、」
「んまい?」
「ん。おいひい」


サッチが食べさせてくれたからね、と。
からかうように微笑んで見せれば、顔中くしゃくしゃにしてとても嬉しそうにサッチは笑った。


「可愛い事言ってくれちゃって!」
「ありがとね」
「おー!いつでも食わしてやるからよ」
「ふふ」


サッチの作ってくれたお粥は本当に美味しくて、食べやすくて、それはきっと彼の優しさが調味料なんだろうなぁって思った。


「じゃ、薬」
「もー、あんま甘やかさないでー」
「なんでよ、いいじゃねぇの」
「弱ってる時はダメなのー!」
「お、惚れちゃう?惚れちゃう?」
「バーカ」


再度ひひっ、と。
鼻の下を擦りながら笑うサッチ。
『惚れてくれた方が嬉しいけどな!』などと茶化しながらも薬も飲ませてくれて、もう、本当に優しい。


「んじゃ、おれ行くな」
「忙しいのにありがとね」
「当たり前だっつーの」


ポフンと私の頭を撫でて
サッチは壊れた扉から出ていった。
わがままを言うなれば。
扉直して欲しかったな…。



「入るよい」
「マルコー」
「具合はどうだい…?」
「もしかしてお見舞いに来てくれたの?」
「ち、違ぇよい!」
「あら残念」
「お、お前ぇがいねぇと書類も溜まるからよい!早く治ればと思ってるだけだい」


そう言いながらそっぽを向くマルコ。
耳の端っこが赤いのは見なかった事にしてあげる。


「あぁ、それからコレ」
「ん?」
「アイス。熱ある時は冷てぇモンがほしいだろい。喉が腫れてねぇなら食えよい」
「わざわざ買って来てくれたの?」
「だから違ぇよい!たまたま見付けたんだよい」
「そっか、たまたま、ね?」


ずい、と目の前に差し出されたアイス。
ふぅん、これがたまたまねぇ…?

マルコが買って来てくれたアイスは、
えぇと、確か一つ前の島で売ってたんだよね。
私が気に入ってお腹壊すくらいに食べ過ぎたやつ。


「何してんだ、食えよい」
「私、病人なんだけど。食べさせてくれないの?」
「ば、ばか言ってんじゃねぇよい!」
「ふふふ」
「そんだけ軽口叩けんなら大丈夫みたいだねい…」


あーん、と口を開けて待ってみたけど
マルコは食べさせてくれなかった。
と言うか、真っ赤。なにこれ可愛い。


「***」
「なぁに?」
「お大事に」
「うん、ありがとね」


ガシガシと頭をかきながら
マルコは部屋を後にした。
ううん、うちの長男は見かけに寄らずシャイだしツンデレだなぁ。



「ふぅ…やっぱしんどいな……」


マルコに貰ったアイスを食べ、横になる。
薬はさっき飲んだばかりだからまだ効かない。
口では大丈夫大丈夫と言っていたけれど、
体が鉛のように重たい。
熱もまだまだ下がる気配がなくて。


「…氷嚢…、変えなきゃ」
「邪魔するよー」
「…?!」



ヒュウ、と冷たい風が吹いたかと思えば。



「ちょ、どこから…!」
「んー?窓からに決まってんでしょうよ」
「てゆーか!なんで…?!」
「いやいや、流石に正面突破はねぇ…?」



おれ、これでも大将よ?
苦笑しながら窓に背を預ける長身の男。


「クザンさん…なんでここに?」
「あらら、ずいぶんじゃねぇの」
「だって…」
「***チャンが倒れたって小耳に挟んでね」
「どんだけ凄い情報網ですか…」
「あー、おれもそう思う」


徐に私に近付いたクザンさんは、
手のひらを額にピトリとくっつけた。


「おれが冷やしてあげる」
「わわ、」
「あらら…ずいぶんと熱いじゃねぇのよ」
「ひゃー、きもちー」
「まぁ…なんだ。おれこの能力で良かったわ」
「えー?」


『だってキミに触れる口実が出来るもの』
耳元でそんな事を囁かれたら
余計に熱が上がるって気づいて下さい。
ただでさえクザンさんは色気が半端ないんですから!


「あぁそうそう、これお見舞いね」
「わ、綺麗…」
「おじさん、頑張っちゃった」


クザンさんから渡されたのは
氷で出来た薔薇だった。


「こうして…周りを更に氷で固めれば…」
「ありがとうございます、凄く嬉しい」
「***チャンが嬉しいとおれも嬉しい」
「溶けちゃうのが、勿体無いですね…」
「そしたらまた持ってきて上げる」


ね?と悪戯に微笑むクザンさんに、
柄にも無く胸がトキリと高鳴った。


「じゃ、おじさんはそろそろ帰るとしようかね」
「ありがとうございました」
「ん、早く良くなってね」


ヒラヒラと手を振りながら、
クザンさんは再び窓から出て行った。
余計な置き土産を残して。


風邪は、辛くてもう引きたくないけれど
みんながこんなに優しくしてくれるなら
もう少しくらいは
このままでもいいかなって思った。

でもきっと、
こんな風に思うのは
弱っているからに違いないのだ。










【雉の置き土産】

(***、入る…よ、い?!)
(マルコ?!覇気覇気…!)
(なんだよいこの氷の扉は…!)
(あー、うん。直してくれた)
(あーおーきーじぃぃぃぃぃ!)




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