je・te・veux


心からの思いを、
精一杯叫んだつもりだった。

寝転がって眺めた窓の外には数え切れない星が見える。
名前も知らない星座達と、
窓枠の辺りから傾いて顔を出したお月様。

でも願うだけじゃ足りなくて。
だから、
タオルケットをはねのけて飛び出した。
そんな熱帯夜。


あとどれくらい、
どれくらい進めば辿り着けるのか。
恋しくて愛しくて、
善がる程に狂おしい貴方へと。

途切れ途切れになる呼吸。
やけにベタ付く肌は汗ばんで、
それでも快感さえ覚えてしまうのは
きっと茹だるような暑さのせいだと言い訳する。

貴方に会いたいからじゃない。
貴方に触れたいから…じゃない。



「…どうした、息切らして」
「どうして…かな」



自分でもわからないの、
そう困ったみたいに笑って見せれば
彼もまた困ったみたいに笑ってくれた。



「ここに来れば、会えるんじゃないかなって…ね」
「おれに…か?」
「そのつもりで言ったんだけどな」
「…そうか」


船縁に寄り掛かり
紫煙を燻らせる貴方を見て、
何だか煙と一緒に消えそうな気がして
堪らず重たい唇を持ち上げた。



「…流れ星」
「うん?」
「流れ星がね、見えたの」
「ほう、いいモンを見たな」
「お願い…したんだけど」



それだけじゃ、間に合わないの。



「何を願った?」
「言わない」



言ったら叶わない気がするから。

全てを語らない私に、
全てを察したみたいな貴方は
薄く小さく、笑って見せた。



「…ベックマンは、大人だよね」
「伊達に何十年も生きちゃいないさ」
「流れ星に願い事なんてしないでしょう?」
「生憎、他力本願は好きではないんでな」
「…そっか」
「なぁ、***」



ふわりと、一層近くに
ベックマンの吐き出した煙が香った。
風に靡く私の髪を優しく撫で付けたかと思えば。

それはそれはとろけるような低音で
『何を…願った?』と、
私の耳元で甘ーく囁いた。

ぞくりぞくり、
お腹の底から熱が込み上げて
それは瞬く間に全身を駆け巡る。
あぁ、夜でよかった。
色付いた頬に気付かれなくて済むもの。



「…何だと、思う?」



教えてあげない、
教えてあげられない。

永久に、貴方の隣にいたいなんて
ベックマンの夢を分けて欲しいなんて
ずっと共に歩み続けたいなんて
そんな独り善がり。
教えてなんて、あげられないの。



「さぁな、女の欲はキリがない」
「そうだよ、女は欲深いの」
「…らしくねぇな」



フッと小さく微笑んで、
ベックマンは撫で付ける手を滑らせた。
頬から唇へと辿る指は
泣きたくなるくらいに優しくて。



「欲深いお前の願いを当ててやろうか」
「わからないくせに」
「…どうだかな」
「…ッ、」



そのまま。
噛み付くみたいな口付けを。
煙草の香りが広がって、
極上の媚薬みたいな痺れが襲う。



「……おれが欲しいと願ったろう?」
「…ふ、…近からず、遠からず…かな」
「そうか、それは残念だ」



叶えられる願いなのに、と。
ベックマンにしては珍しくからかうみたいに微笑んで、名残を惜しむかのように唇を一舐め…そんな何でもない事で私の体はピクリと跳ねる。


もう、だから大人は嫌い。
余裕綽々で、簡単に転がして。
期待しちゃうじゃない、期待させたいの?

くつくつと笑うベックマンの顔が
何だか妙に艶かしくて
直視出来ずに目を逸らす。


全てが叶ったとは言わないけれど
こんな自惚れもいいんじゃないか。

ゆっくり夜空を見上げると
願い切れなかった星達が
まるで囁くように流れて行く。

口移しの夢は甘いだろう
口移しの夢は苦いだろう、
全てをコクリと飲み干して
今夜は優しい夢を見て、と。





[ je・te・veux -ジュ・トゥ・ヴ-]

アナタが欲しい


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