その顔が、堪らないのです



「ねー、イゾウ」
「あン?どうした」


暇じゃない?と告げるハルタの表情は、幼さも残るもののどこか妖しげにも見え、また始まったかとイゾウは嘆息するが、自分も暇していたのには違いないので頷く事しか出来ない。


「誰かからかって遊ぼうかなぁ」
「誰かって誰だよ」
「うーん、マルコ…は後が怖いから、サッチとかサッチとかエースとか?」
「サッチとかサッチとかサッチとかエースねぇ、いいぜ。おれも乗ってやる」
「あは、さっすがイゾウ」



まずは手始めに。
比較的騙されやすいエースがターゲットだ。
こと食に関しては、誰よりも貪欲なエース。
引っ掛けるのもかなり容易だろうと考える。


「…こんなもんかな」
「肉まんじゅう、ねぇ」
「これ食べた時のエースの顔、見ものだよ」


そう上手く行くもんかな、とイゾウは内心思うのだがハルタは上手く行く気しかしなくて終始笑顔を絶やさない。
彼らが用意したものはお肉たっぷりジューシー肉まんじゅう、ただ、中にデスソースを一瓶の半分程仕込んである。まぁ、常人が食べたら発狂するくらいの辛さはある。


「匂いでバレんじゃねぇか?」
「えー、でもエースだよ?」
「あぁ…まぁ、」


デスソースがたっぷりと仕込んであるそれは、
とんでもなく強烈な匂いが漂ってきている。
これはさすがにバレるだろうと思ったが、よく考えたら相手はエースなのだ。多分大丈夫だろうと納得する。


「これをここに置いて…」


エースがよく座る席に肉まんじゅうを設置、
後は獲物がかかるのを待つだけ、の筈が。


「お腹減ったよー!」
「あっ、こら***!ずりぃぞ!」


ドタバタと駆け足で食堂に飛び込むのは、
今回のターゲット、エースと、末の妹でもある***の二人。


「あーっ!肉まんじゅうはっけーん!」
「待て***!」
「あげないよーだ」
「ちげぇよ!変な匂いすんだよ!」


イゾウ達が気付いた時には既に、
大きな肉まんじゅうを両手に持ち
あーんと大口を開ける***。


「「…!」」


まさかエースではなく***がかかるなんて
エースが食欲に釣られなかったなんて。
イゾウもハルタもまさに唖然。


「ぎゃあああああ!」
「なななんだよ***っ」
「痛いよおおお!辛いよおおお!痛いよおおお!」


口を押さえてゴロンゴロンと転げ回る***。
イゾウ達はあちゃーと額をおさえる、が。


「う、うえええぇぇぇぇん!」
「…ねぇイゾウ」
「皆まで言うな、」
「「ふふふふふ」」


泣き叫ぶ***の表情に、
何故だかゾクリと扇情が煽られる。
二人で顔を見合わせて、コクリと一つ頷いて。



「うええええん!」
「***、どうしたの?」
「エースにイジメられたか?可哀想になぁ」
「イゾウ!ハルタ!ちげぇよ、おれじゃねぇっ」
「ふぅん、あっちでサッチが肉焼いてるよ」
「にくーーーー!」


邪魔物が消え去り、二人はほくそ笑む。


「うえっ、いぞさ…はるたさ…痛辛いよおおお!」
「もう泣かないでよー………萌える」
「…っく、え?」
「何でもねぇさ、ほらコイツを飲みな。スッキリするぜ」
「ううう、ありが……うええええええええん!」


イゾウが***に手渡したのは
甘ーいジュースに見せかけた
苦い苦い葉っぱの煎じ汁。

痛辛いところに苦いのまで加わって
もう***は大パニック、大号泣。



「…どうしよう、イゾウ」
「なんだよ」
「***の泣き顔ヤバイ。癖になりそう…!」
「ほーう、気が合うな。おれもそう思う」


ニタァと。
まるで悪魔のような笑みを浮かべた二人。
これからどう***を泣かせてやろうかと
思い思いに妄想を侍らせる。

とりあえず今は、
過保護な長男が駆けつける前に
この場を逃げ出す事にした。



──────


それから数時間後の事だった。
夕食も終えた***は浴場へと向かう。


「…酷い目にあった」


もともとあの二人がいじめっ子気質なのは知っていたけれど、まさか自分が被害に合うとは思ってもみなかった。おかげで未だに舌は痺れ、サッチ特製のごはんだって味がわからなかった。

こんな日はさっさとお風呂に入って
さっさと寝てしまうに限る。
そう思っていたのに。



「…イゾウさんもハルタさんも、鬼か!」
「うわぁ、酷いなぁ」
「誰が鬼だって…?」
「…なっ、なななな?!」
「よう***、ご相伴に預かるぜ」


ちゃぷちゃぷと乳白色の湯で遊びながら
イゾウ達の愚痴を一人ごちる***。

ふぅ、と溜息をついた時だった。

突然、湯に影がさし
両脇にちゃぷんと水飛沫。
そこから聞こえて来た声は、
紛れもなく自分が鬼だと宣った二人の声で。



「なっ、ななな、に…して…!!」
「えー?何ってお風呂に決まってるじゃない」
「これが踊ってるように見えるか?ん?」
「そう、じゃなくて…!」


今は私の貸し切りの筈だ、と。
ナースは先の時間に既に終えているし、
男性クルー達は深夜に決まっている。
それなのに何故この二人はここにいるのだろうと覚束無い思考をぐるぐる張り巡らせながらも、慌ててタオルを引き寄せ体に巻いた。

それにしても、だ。
彼等がタオルを巻いてるかは定かではないが
露になった鍛え上げられた上半身。
目のやり場に困る。
お湯が乳白色で本当に良かったとも思う。



「***は嫌なの?おれ達とお風呂」
「い…や、とかじゃなくて…!」
「たまには可愛い妹と入りてぇのさ」
「ヒイッ」


両の耳。
右はハルタが、左はイゾウが。
唇を押し付けるように囁くもんだから、
自ずと***の体は跳ねる。

そんな***の反応に
イゾウもハルタも口角を引き上げた。

湯あたりして上気した頬、
羞恥からか涙目になって震える様は
二人の加虐心や征服欲を煽る材料で。


「…なぁ、***」
「なななな、なっ、に?!」
「たまには兄さんが背中でも流してやろうか」
「え、遠慮っ、したい…かなっ」
「家族に遠慮なんていらないよ?」
「やっ、やめっ…」



ツゥ、と。
***のうなじから背中のラインを指で辿る。
タオルに引っかかった二人の指は
くいくいと侵入を企むかのように行き来する。


「…ねぇ、タオル取らなきゃ洗えないよ?」
「いっ、いい…!洗わなくていいから…っ」
「おや***、お前さん照れてんのかい?」



それとも、


「家族相手に変な想像してんのかねぇ…」
「ち、違っ…」
「わーお、***ってば淫乱なんだ?」
「っ、違うもん…!!」



くつくつと可笑しそうに喉を鳴らす二人
***は今にも火が出そうな程に赤くなり
羞恥と、これは怒りなのだろうか。
とにかく我慢が効かなくなって立ち上がる。


「おっと、」
「そんな暴れると見えちゃうよー?」
「うっ、うええええええええん…!!」



イゾウさんのばかー!
ハルタさんのばかー!

浴場に木霊する***の叫び。
堪えきれなくなったのか
真っ赤な顔で大粒の涙を流しながら
***はその場を駆け出した。



「…やり過ぎた?」
「そうでもねぇさ」
「あー、やっぱ***の泣き顔ヤバイねぇ」
「まぁなぁ、クルもんがあるなぁ」


ちゃぽーんと水音が響く中で
イゾウもハルタも***の泣き顔を思い出し
まだ逆上せるには早いというのに
腹の底から熱が湧き出すのを感じていた。



「…ねぇ、イゾウ」
「あン?」
「出ないの?」
「…てめぇこそ」
「出れない理由があるんだよ、おれには」
「はっ、おれもさ」



まぁしばらくは、
落ち着くのを待つのもいいかも知れないと
二人は必死でサッチのヌードを思い浮かべた。










─可哀想な男──

(うわああん、サッチぃぃぃ!)
(ブッ!!***お前、なんちゅー格好だよ!)
(うええええええええん!)
(…てめぇ、***に何してんだよい…!)
(マ、マルコ?誤解だぎゃあああああ!)





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