送り狼に気を付けて


「おいこらぱいなっぴゅ…!うへへへへ」
「誰かコイツを何とかしろよい」
「***、こっち来な」
「うへへへへ、いぞ、たいちょーう」


普段の***は滅多に酒など飲まない。
ところが今日はやけにご機嫌で、おれらの宴に混じり始めた…のはいいんだが、この酔い方は何とかならんもんか。


可愛い可愛い末の妹、酔っても可愛い。
そんな調子で野郎共はどうにも締まりのない顔で構っていたのだが、無邪気は時として残酷だ。

最初の犠牲者はエースだったか。
丸出しの上半身に落書きをされていた。
油性のマジックで。
お次はビスタ、髭を三つ編みにされて泣いていた。

その後もハルタにメイド服を着せたり、
ジョズの体を剣山で削って金儲けを企んだり、
ラクヨウに関して言えば足蹴にしていた。

そんなこんなで次々にお手上げ、
今はマルコとイゾウが相手している。


「いぞーたいちょ!」
「はいよ」
「ぱいんはしゅーかく、しましょー!」
「こら!***!やめろよい…!」


無謀にも、マルコの髪を根元からむんずと。
そりゃもう声高らかに
『捕ったどー!』なんて叫ばれてみろ。
笑わずにいられるかってんだ。

ぶっと吹き出して、体が震える。
イゾウにしたって珍しく、膝に顔を埋めて堪えている。
不満そうなマルコは、相手が***だからか、それ以上咎める事も出来なくて、ただただオロオロ。


「うわああ!」
「うへへ、いぞーたいちょ!おとこ、でした」
「サッチイィィィィ!」


あちゃー、と。額を押さえる。
シャイな筈な***が、あろう事かイゾウの股間を鷲掴みにして、きゃっきゃと喜んでいる。羨ま…止めねぇとか。


「はいはーい、***ー。やめなさーい」
「シャッチョさん」
「ぶふぅっ」


お前はどこの飲み屋のネーチャンだ。
あーもーダメ、酔った***面白すぎんぜ。


「…サッチ、後は任せたよい……」
「おれァお手上げだ……」
「まー、別にいいけどぉ?」
「くれぐれも襲うんじゃねぇよい?」
「んな事したら土手っ腹に風穴空けてやるからよ」
「おーこわ。くわばらくわばら」


誰が襲うかっての。
どーせ***は記憶無くしちまうし。
食うなら記憶ある時だろ?…って、違うか。


「やーん!はーなーせー」
「大人しくしなさい、食っちまうぞ……ッ、」
「もぐもぐー」
「…コノヤロ」


ひょーいと***を担ぎ上げて歩き出す。
じたじた暴れているけど気にならねぇ。
耳たぶ噛まれたのは焦ったけどな、流石に。
こう見えて弱いのよ、耳たぶ。




「さっ、ちたいちょーう」
「んー?どしたー?」
「ぎぼぢばどぅび…」
「ぎゃーっ!待て待て待て!」


辿り着いた自室。
そうっと***をベッドに横たわらせた、途端。
ガバッと起き上がって爆弾発言。
そりゃもう慌てたね、洗面器取りにマッハで走ったね。


「…うぅ、」
「だいじょぶか?水飲むか?」
「うん」


洗面器に吐き出して、ぐったりする***。
酔ってるだけなんだろうけど、本当に具合が悪そうでちょっとばかし心配になる。


「ほいよ」
「あい…がと」
「あーほら、ゆっくり飲めって」
「んっく…ぷは」


グラス一杯の水を飲み干して
***はふぅと一息を着いて再び横になった。

柔らかな髪をゆるゆると撫でてやれば
それはそれは気持ち良さそうに目を細める。
ほんと無防備。


「お前ねぇ、飲み過ぎ」
「んー…」
「あんま強くねぇのにさ」
「たまには、飲みたいんですよーだ」
「どーする?部屋帰れそうか?」


髪を撫でる手はそのままに、
少しトーンを落として問い掛ける。
手の下でぐずる***は何だか幼い。


「うごけない」
「…だろうなぁ」
「うーごーけーなーいいいい」
「わーったよ!」


ベッドに横たわったまま
足をバタバタさせる***。埃立つわ。
つーか充分動けてる気がするけどな。


「***ー」
「あーい」
「なんかスープとかいるか?」
「いる…けど、」
「けど?」
「さっちさんが居なくなるなら、いらない」
「…おー、」


キュッと服の裾を掴んで
『行っちゃやーだー』なんて。
お前ね、流石にそりゃ反則っつーの。



「……ぉぇ、」
「こらこらこらこら」
「ぎぼぢばどぅび」
「吐くならここな?!」


今度は何も出て来なかったらしく。
スッキリしないーなんて文句言いながらも、
服の裾を掴んだ手はそのまま。
甘えん坊か、***。

ゾクリと。
腹ん中で何かが蠢いた。



「水、飲むか?」
「のびだい…でもおきあがれな…いー」
「へぇ、そっか。んじゃ飲ましてやるね」
「……んっ、ぷぅ」


一口、水を含む。
そのまま***の唇を塞いで
舌を伝わせて水を流し込んだ。

一瞬、びくっと跳ねたけど
その後は何の抵抗もなく自然と受け入れる***。

思ったより柔らかかった唇に
おれ、ドキドキ。


「ぬーるーいいぃぃ」
「ワガママ言うなっつーの」


口移しの水は温かったらしい。
そりゃそうか。

おれとしては、
このまま食っちまうのもありかなーなんて。
そう思ったりもしたけれど。
やっぱ意識がハッキリした時の方がいい。

だってそうだろう?
せっかく好きだと囁いても、
翌朝には忘れてんだから。



「…ったくよー、人の気も知らねぇで」
「さっちさんんんんん!」
「うおっ?!何だよ、急に」
「うへへへへへ」



すんげーだらしねぇ顔で
にまにま笑っておれの名前を呼んだかと思えば
すやすやと寝息を立ててやがる。

でもまぁ、寝言でおれの名前を呼ぶなんて
やっぱ可愛いじゃん、コイツ。


時折、喉が乾いたと寝言で叫べば
口移しで水を飲ましてやり、
暑いとうなされ汗をかけば
懸命に濡れタオルで拭き取ってやり、

髪を撫でて、頬を撫でて
額に唇を落としてみたり。

酔っ払いの介抱は疲れる。
でも、
***が相手だからそれも心地が良い。


結局、おれが眠りにつけたのは
空も白んで来た頃で、
襲い来る睡魔に耐えながら
***しっかり腕に閉じ込めて
遅れ馳せながら夢の世界へと旅立った。


今度は素面で、なんて。
そんなヤラシー事を考えながら。







─愛すべき泥酔彼女──

(…むにゃ、さっちさん…)
(んん…、***…)
(…どーするよい)
(風穴空けてぇとこだがな)
(こんな幸せそうな顔されちゃあなぁ…)
(…ょぃ)





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