キミフェチ!



「やっぱりメイド萌えするんだが」
「え、いきなり何言っちゃってんの?」


珍しく隊長格だけの宴。
本来お祭り騒ぎが大好きな彼等は、
ここぞとばかりに浮き足立ちどこか楽しそうで。
それもその筈、お目付け役でもある末の妹の***が親父の言いつけで出掛けているからなのだが。

口火を切ったのはブラメンコ。
聞いてもいないのにメイド萌えがどうとか語り出した。


「いや、前の島はメイド教育で盛んだっただろう?ちょっと心奪われた」
「お前はいつも面倒見てばっかだからな」
「あぁ、たまにはお世話されたい…!」


如何にしてメイドにお世話されたいかを熱く語るブラメンコ。そんな彼を些か引いた目で見ていたのだが、やはり酒の力は恐ろしい。


「おれはメイドだがアトモスは?何萌え…何フェチなんだ?」
「人妻」
「ぶフゥっ」
「おいサッチ、失礼だぞ」
「いやだってアトモス、お前!真顔で人妻とか…!」
「人妻こそ正義、正義は人妻!」


海賊が正義とか…と、苦笑を隠せないサッチ。
けれどまぁ、人妻もなかなかに美味しいものである。


「見た目は何でもいいんだ、人妻と言う職業に背徳感が背中押しして激しく興奮する」
「あー…よい」


鼻息荒く人妻の素晴らしさを嬉々として語るアトモスに、マルコはちょっぴり引き気味だ。まだそこまで酔いが回ってないからなのか。


「そんな話ならおれも。そうだな足首がたまらない」
「ブレンハイム…酔ってんのかよい」
「まぁまぁ、無礼講だ。こう…きゅっと引き締まった足首を見ると踏ま…ゴホンっ、健康的で美しいと思う」
「お前さん…今踏まれてぇって言おうとしたか?」
「いやイゾウ、気のせいだろう」


ゴホンゴホンと咳払いをしながら誤魔化すブレンハイムに、これ以上は突っ込むまいと決めるイゾウ。だが心の中では『ブレンハイムはマゾ…』としっかりメモを取った。


「なー、この際だから自分のフェチとか萌えポイント語ろうぜー」
「お前何言っちゃってんの…」


ガハハハハと大きく笑うラクヨウ。
隊長格だけと言う雰囲気に酔ってしまったのか、至極楽しそうに次々グラスを傾ける。


「…へぇ、そんなに言うならお前のフェチはなんだよい」
「おれ?おれは匂いかなー」
「あーそれわかる!」
「サッチ、わかってくれんのか!女の匂いって堪んねぇよな。体臭っつーか、あの女独特の匂い!」
「…え?」
「毎日風呂入らない女程、すげーゾクゾクする匂いすんだよなぁ。嗅ぐだけで元気になる!」
「え…あ…うん、あぁ、うん…」


正直、ドン引きである。
サッチとしては、女の子特有の石鹸の香りだとか香水だとかお菓子の匂いだとかそんな幻想的な香りについて賛同したつもりだったのに。
ハッキリ言ってドン引きである。


「ナ、ナミュール!お前は?!」
「げほっ、ササササッチ!おれに振るんじゃねぇ!」
「えー、おれも知りたいなぁ」
「ハルタまで……チッ。おれは…腋かな」
「…わき」
「腕上げた時にチラッと見える腋とか、クロールしてる時に全開で見える腋とか、剃り残しがあって恥ずかしそうにギュッと閉じてる腋とか………ハッ!」


話してる内にノって来たのだろうか。
段々と興奮しながら腋の魅力を語り出したナミュールに、些か表情が引き攣る面々。その変化に気付いたのか、ナミュールはハッ!として慌てて酒を飲み干した。


「…おれは、メガネ女子が好きだ」
「ぶはっ、キングデュー…不意打ちはやめろ」
「あの知的な感じが唆るとは思わないか?メガネ越しの上目遣いは特に征服欲を煽るだろう?」


今まで黙々と飲んでいたキングデューが突如として口を開いた、かと思えば。ほんのり頬を染めてメガネ女子の素晴らしさを淡々と。何だかもう、カオスである。


「あーおれはそうだな、ホクロ?」
「ホクロ?!ジルお前、マニアックだな」
「口元とか目元もいいんだけどよォ、胸元にひっそりと息づくホクロは見えた瞬間に幸せになんだよなァ」
「お、おお…」


キングデューに続けとばかりに、スピード・ジルがおもむろに口を開く。彼の口から飛び出たのは何ともマニアックなホクロフェチ。まぁでもわからないでもないかな、とサッチは内心にんまりと微笑んだ。


「…唇」
「クリエル?!お前言葉足りなすぎるぞ!」
「エース、お前には言われたくないな」
「くっ…」
「…ちょっと厚めな唇、グロスのみなら尚よい」


フフっと、薄く笑うクリエルはいつもの何事にも無関心なソレとは違い、何だか遠くへ意識が飛んでいる様な…否、遠くに見える唇の幻覚に思いを馳せているようだった。


「フォッサは?何かあったりする?」
「強いて言うなら、髪の毛だな」
「あー、無い物ねだり?…ったぁ、」
「ハルタ、殴るぞ」
「…殴ってから言わないでよね」
「色など変えてない、艶のある黒髪が好きだ」
「ほう、大和撫子の代名詞だな」
「あの髪で首を絞められたい…!」
「?!」


恍惚とした表情で語るフォッサに、イゾウは青褪める。まさかコイツにそんな趣味があったなんて…とブルリと身震いをする彼の髪もまた、艶のある黒髪だ。


「つーか目立ちーズの皆さんよォ」
「ラクヨウ…そのネーミングセンスは頂けないねい…」
「まぁいいじゃねぇか!お前らさっきから人の聞いてばっかだけど何かねぇの?」
「…おれは、ヘソかな」
「ヘソぉ?!」


キングデューと同じく、黙々と飲んでいたジョズが、ラクヨウの言葉を皮切りに口を開いたのはいいのだが。ヘソなどと何とも不思議な事を言い出した。


「昔は縦長が良かったんだが…今はいわゆるデベソに興奮を覚える」
「…へ、へぇ」
「こう腹を撫でている時にだな、ひっかかるあの感触が堪らないと言うか…しゃぶりつきたくなる」
「…ょぃ」


強面で寡黙なジョズ。
そんな彼がここまで饒舌に語ると言う事は、それ程までにヘソに対して強いこだわりがあるのだろうと、誰もが無理やり己を納得させた。


「おれは指だ」
「あ、なんかわかる。ビスタっぽい」
「ふふ、さすがサッチだな」
「ピアノ弾く指とかだろ?」
「…それもいいが、ちょっと違うな。スラリとした指に真っ赤なマニキュア。毒々しいまでのソレを一本一本舐めてみたい」
「…ビスタ?お前酔ってる?酔い覚ましににコーヒー飲むか?」
「ふふふ、頂こう」


飲めない筈のコーヒーを口にして倒れるビスタ。
表情には殆ど出ていなかったが、かなり泥酔していたらしい。そして彼のマニアック過ぎるほどマニアックなそれに普段いろいろ悩んでるのかと心配になったりした。


「全く、みんな変態だなぁ」
「そーゆーハルタはどうなんだよい」
「おれ?おれは普通だよ」
「へぇ、そりゃあ是非とも聞きたいねぇ」
「おれはねー、泣き顔」
「は?」


フフフ、と妖しい笑みを浮かべるハルタ。
一瞬寒気がしたのは果たして気のせいなのか。
今は夏真っ盛りである。


「怯えて泣いてるのも堪んないけどね、悲しくてとかもサイコー。怒って泣きそうなのを我慢するのもゾクゾクするよねぇ」
「お前コエーよ!」
「あ、でも」
「まだあんのかよい…」
「焦らしてる時にさぁ、どこをどうして欲しい?って聞いて、羞恥に耐えながら涙目で必死で伝えて来る時のあの顔が一番だよねっ」
「このドS!」
「えー?」


それはそれは楽しそうに泣き顔を語るハルタ。
コイツの彼女になる奴は大変だな、とマルコは嘆息する。


「…お前さん達の話を聞いてると、おれが如何に平凡かってのがよくわかるねぇ」
「お、イゾウも何かフェチあんの?」
「フェチって程のモンじゃねぇがな」
「なになに、おせーて」


フゥと紫煙を燻らせるイゾウは、くつりと喉を鳴らして言葉を紡ぐ。この何気ない仕草は何とも婀娜っぽく、酒の力も手伝ってか、サッチは人知れず生唾を飲み込んだ。


「おれは…うなじってトコかねぇ」
「おおー、目の付け所が違ぇなぁ!」
「こう、浴衣でよ…纏め髪で後れ毛がハラリと散ったうなじってぇのは何とも唆られるぜ?」


うんうんわかるわかる。
イゾウの語るソレは、男なら誰もが一度は目を奪われる物だったので賛同の意を示す他ない…だが。


「その真っ白いうなじによう…かじりつきたくねぇか?」
「…え?」
「血が滲むくらい噛み付いて、おれのモンっつー印を残してよう…あぁ、堪らねぇ」
「……そ、そうだね」


ニイッと唇を歪ませるイゾウに、その場の誰もが凍り付いた。これは下手に突っ込まない方が身の為だと、ハルタまでもが愛想笑いを浮かべるのであった。


「エースは…って、そーゆーの知らねぇか!」
「むかっ、失敬だぞサッチ!」
「あるとでも言うのかよい」
「ある!!」
「マジか」


自分からは好んでそう言った類の話をしないエース。
てっきり興味がないだとか、もしかしたら女性経験すらないのかも知れないと思っていたのだが、どうやらそれは勘違いだったらしくて。


「おれねー、べろ」
「へ?べろって…舌?」
「おう!ちょっと長目のべろとかエロくね?」
「何か…エースらしからぬマニアックさだよい…」
「長ーいべろでさ、アイスとかペロペロしてんの見ると全身が熱くなんだよなー。いいなぁ、おれも舐められてぇなぁって」
「お前ね…」
「ははっ、奴さんも男ってワケか」


末っ子の成長を、兄達はほっこりした気持ちで見守る。
実は彼が誰よりも性に対して貪欲だとも知らずに。
子供の成長は早いのだ。


「マルコは?何かあんの?」
「うーん、敢えて言うなら鎖骨かねい…」
「お、イイ趣味」
「でもガリガリはダメだよい!」
「お…おー、」
「ふっくら肉付きのいい女の鎖骨ほど、触ったりかじったりしたくなんだよい」


いつもの無表情からは想像付かないほど嬉しそうなマルコを見て、いつの間にそれほど飲んだのだろうとサッチは僅かに苦笑を零す…が。


「なんなら鎖骨に酒入れて啜りてぇくらい鎖骨が好きだよい。一滴も残さねぇ程綺麗に舐めとってやるよい」
「マルコ…お前もう飲むな」
「なんでだよい!鎖骨酒やらせろよい…!」
「……」

 
フンフンと絶賛興奮中のマルコ。
サッチは、このやろ猫でも連れて来てやろうかと思ったのだが、後の事を考えたら物凄く恐ろしかったのでそれは諦めた。


「ところでサッチ、お前さんもあるんだろう?」
「おっ?やっと聞いてくれた!」
「別に聞きたかねぇんだがな」
「イゾウ酷い!聞いて?!」


サッチとしては、本当は先程から話したくて話したくて仕方なかったのだが、あまりガツガツと話始めても恥ずかしいかとも思い黙っていた。けれど誰も自分に話を振って来てはくれずウズウズした所でのイゾウからの問い掛け。
待ってましたとばかりに意気揚々と語り始める。


「おれは絶対領域!これだけは譲れねぇ、絶対領域に決まりだってんだよ!」
「なんだよい、それ」
「絶対領域…ねぇ」
「ミニスカ、ニーハイ!スカートとニーハイの隙間からチラリと見えるむっちりした太もも!これぞ男のロマン!あ、片方だけズレちゃってるのも好きだし、そのズレた方の太ももにゴムの跡が付いちゃってんのも大好き!」


くううっと身悶えしながら、絶対領域が如何に素晴らしいかをそれはそれは熱く語るサッチ。その興奮加減にマルコ達は些か引き気味になるものの、彼の説明の事細かさに容易に妄想を膨らませる事が出来、少しばかり絶対領域を眺めたいなどと思ってしまった。


「っかー、久し振りにフェチ語ったぜー」
「まぁ、男だけってのも悪かねぇな」
「いつもは***がいるからねい…」
「そうそう、ちょっと話しにくいよね!」
「何だかんだ言って皆***に嫌われたくねぇんだな!」


不意にエースが発した一言。
いつも突飛な事ばかりを言う彼にしては珍しく、
随分と的を得ていて苦笑が零れる。
そんなの当たり前だ、***に嫌われるのは己のフェチが露見するより辛いのだと。

そんな事を個々に思いながら、
男だらけのモビーの夜は更けていく。




─一方その頃、──


「…だ、そうだぞ」
「我が家は変態の集まりか!」


悪戯心が芽を出して
コッソリ甲板に盗聴用電伝虫を仕掛けた***。
出向先の船にてそれを受信していた。

彼等のあまりの特殊な趣味に体を震わせ、その傍らではこの船の長、赤髪のシャンクスがそれはそれは楽しそうに笑顔を浮かべていた。


「…そんな趣味があったなんて」
「その割に、そのニーハイは何だ」
「べ、別に?!ちょっと興味あるだけだし!」
「だっはっはっ!そうかそうか」
「サササッチ隊長の為じゃないし!」


己の膝を叩きながら大爆笑するシャンクス。
***はいつの間にか用意したニーハイをちゃっかりと着用してモビーに帰る準備をして。いつの時代も末娘というものは素直じゃないのである。


「そ、そーゆーシャンクスさんは?」
「うん?」
「何かフェチとかあるの?」
「勿論あるさ」
「え、なになに」
「***フェチに決まってる!」
「ぎ、ぎゃああああ!」


今にも抱き付いて来そうなシャンクスを退け、副船長でもあるベックマンに助けを求める***。おかしな兄弟ばかりだけど、やっぱり早く帰りたいと思うのだった。





─私はね、──

(***は何フェチなんだ?)
(ベックマンさん、何言ってるんですか)
(…いや、参考までに)
(私は…リーゼントフェチかな!)
(わかりやすいな、お前は)
(むっ)





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