私だって目立ちたい!


優しくて大きくて、
あんな素敵な親父に拾われて。
たくさんの家族が出来た。

優しくて頼れる兄達は、
とっても自慢な家族なのだ。




「…***か」
「ラクヨウ隊長、元気ないですね」
「まぁ元気もなくなるわな」
「何かありました?」


心なしかしょんぼりするラクヨウ隊長。
そのでっかい図体でしょんぼりとか可愛い。


「おれって…目立たねぇよな」
「はい?」
「マルコやエースやジョズやサッチやビスタやハルタやイゾウに比べて目立たねぇよな?!」
「や、そんな事ないと…」


うん、そんな事はないと思う。
ラクヨウ隊長だって充分人気ある、うん。
どっちかって言ったら他の隊長の方が…。


「おれだってアイツらみたいに目立ちてぇ!」


なんだ、ラクヨウ隊長は酔っ払ってんのか。
おいおい泣きながら、キングデュー隊長とかフォッサ隊長の所に走ってったけど。もう、可愛いなぁ。



「でも確かに、アレだよねぇ」


ラクヨウ隊長が名前を挙げた隊長ズは目立つしモテる。正直羨ましい。私女だけど、モブみたいなモンだから是非ともその秘訣を探りたい…いや、探る。探って私も目立つ。そしてその秘訣をラクヨウ隊長達に高額で売り付けよう。そんでそのお金で買い物三昧ヒャッホウ。

…違うよ?自慢の家族で兄達だよ?
ただ、自分の欲望が勝っただけ、それだけ!



「Let's!***探偵団!」



別に私は酔っ払ってない。
やけにテンションがあがっただけとも言う。
ルンルンと軽い足取りで、余り深く考えても仕方ないので片っ端から順番に攻めてみようとほくそ笑む。うふふ。


やって来ましたマルコ隊長のお部屋の前。
相変わらず静かです、生きてんのかな…と?


「うわあああ!来るな、来るなよい…!」
「…?!」


扉に耳を付けて様子を伺っていれば。
心底焦った様なマルコ隊長の声がして、もしかしたらとんでもない強敵が奇襲に来たのかと思って、いてもたってもいられず飛び込んだ。


「マルコ隊ちょ……?!」
「うわああああ」
「にゃぁぁぁっ!」


扉を壊す勢いで開けて呆然。
どこから入り込んだのか真っ黒な子猫が、四つん這いで逃げ惑うマルコ隊長をそれはそれは楽しそうに追い掛けてた。


「何してんですか…」
「***?!見たねい?…い、いやそれよりコイツをどうにかしてくれよい!部屋から出してくれええええ」
「アイアーイ」


むんずと子猫を掴んで抱き締める。ふあふあもこもこで癒されるけど今は仕方がない。とりあえず廊下に出して、そしてマルコ隊長に向き直る。


「で?」
「な、何がだよい」
「で?」
「…チッ、笑わねぇかよい」
「もちろん笑いませんともー!」


苦々しく顔を歪めたマルコ隊長。
些か気まずそうに視線をさ迷わせて話始めた。


「おれぁ、猫がダメなんだよい」
「…そ、それは意外ですね」
「ガキの頃に餌と間違われてから怖いんだい」
「ぶふぅッ」
「!てめっ、笑ったな?!」
「笑ってな…っ、笑ってなはははははは!」
「いい根性じゃねぇか…」
「やー!あ、猫!」
「うわあああ!」


パキパキと指を鳴らして近づいて来るマルコ隊長が心底恐ろしくて、咄嗟に何もないところを指させば、上手く騙されてくれて私は逃げ出す事に成功した。
小さくなって震えるマルコ隊長かわいい。
それにしても…目立つ秘訣を探りに来たのにとんでもないものを収穫してしまった気がする。


「まー気を取直して次行ってみよー!」



次に私が訪れたのは、火の玉ボーイこと、万年半裸の歩くセクハラマシーンのエース隊長の部屋だ。まぁきっとエース隊長はあの露出している鍛え上げられた上半身に秘密があるのかも知れない。だとしたら真似出来ない。


「エース隊「へーっくしゅん!」?!」
「うわ***!ノノノノノックくらいしろよ!」
「エース隊長に言われたくありません」


エース隊長ばりに、ノックもせずに扉を開ければ。
ベッドの上で湯たんぽ抱えてくしゃみするエース隊長と目が合った。いやいや、なんて似合わないの、湯たんぽ。


「…なんで湯たんぽ」
「……うなんだよ、」
「え?」
「冷え性なんだよ!悪ぃか!」
「あははははははは!」


顔を真っ赤にしてトンデモ発言をするエース隊長。
冷え性って…火の能力者なのに冷え性って…!
そのギャップが可笑しくて、ここぞとばかりに指さして大爆笑してやれば枕が顔面に飛んで来た。鬼だ。


「いったいです!」
「お前が笑うから!」
「これが笑わずにいられますか」


あぁでも、思い返してみれば。
エース隊長は宴の時必ずホットワインとか熱燗とか、それらがなければ常温のお酒飲んでるわ。そうか、冷え性だったのか。なら何故半裸なんですか。


「服着たらいいじゃないですか」
「親父の誇りが隠れんだろ」
「あ、その気持ちはわかります」
「だろぉ?」
「…にしても、冷え性…ぶふぅッ」
「恥ずかしいから言うんじゃねぇぞ?!」
「冷え性対策の腹巻とかつくってあげましょうか」
「本当か!ありがとう***、ありがとう!」



真っ赤なのに満面の笑みで、可愛い。こりゃモテるわ。
オネーサマ達がほっとかないだろうな。
いつまでもお礼を言い続けるエース隊長に手を振って部屋を後にする、が。なんなんだコレ、全く目立つ秘訣がわからない。



「……んー、何なんだ全く」


マルコ隊長もエース隊長も。
当てにならなかったので諦めた。
きっと二人は素であんだけ目立つんだろうな。



「…あれ、ビスタ隊長もいる」


順番的にジョズ隊長の部屋に向かえば、
中からビスタ隊長の声も聞こえて来てにんまり。
一石二鳥で目立つ秘訣を探れますね!
…と、思ったんだけど、何だか様子がおかしいから気配を消して伺うことにした。盗み聞きじゃないよ?!



「それでな、ビスタ…」
「あぁ、聞いているよ」
「実はその狐が…!魚やらを持ってきていたのにな…!気付かずに……う、うおおおおおおお!」


ちょっと、ジョズ隊長大号泣してる。
話の内容的にあの有名なロンぎつねだよね、うん、私もあれ読んで号泣したけど。オランダースの犬とかさ。


「まぁジョズ、落ち着いたらどうだ」
「あれは、あれは…悲しすぎるぞうおおおおおおお!」
「ほら、紅茶でも飲め」
「…おれコーヒーが「そんなものはない!」」
「コーヒーなんて苦いもの、おれが飲めるわけがないだろう」
「そうだったな、ビスタは子供だからな」
「泣き虫のお前こそ」
「ははは!」



ええー…、あの強面のジョズ隊長が泣き虫で、辞書で紳士とかダンディーとか引いたらビスタって出るくらいにダンディズムの塊のビスタ隊長がお子ちゃま味覚?!
というか、この部屋なんなんだ。会話聞いてるだけでお花畑の幻覚が見えてきそうなくらいほんわかしてるぞ?!


「…ダメだ、入れない」


入るのが恐ろしい。
きっと入ったら見てはいけないモノを見てしまうに違いない、うん、なに食わぬ顔して通り過ぎよう。



「後は…あの三人か…はぁ…」


残る隊長目立ちーズは、サッチ隊長にハルタ隊長にイゾウ隊長なんだけれども…どうも苦手なんだよなぁ、あの三人。
掴み所がないと言うか、上手く転がされてる感が半端なくて逆立ちしたって敵わないんだ、うん。


「ま、全ては野望の為…!」



自分を奮い立たせる様に気合を入れて
廊下を突き進む。まずはサッチ隊長のお部屋に…!
行きたくない。



「…サッチたいちょーう」
「んー?おー***、どした?」
「グハッ…服着て下さいエロ魔神…!」


コンコンと控えめにノックして扉を開けた。
中でくつろぐサッチ隊長は、そりゃもう凶器だ。
お風呂上がりだか知らないけど、パンイチどころか腰にバスタオル一枚って私を出血多量で殺す気ですか。

ほんのり染まる肌だとか、露になった肉付きのいいガチムチっとした肉体美だとか、髪から滴る水をわしゃわしゃとタオルで乱暴に拭き取る仕草だとか、そんでそのまま上目遣いでこっち見るから鼻血抑えるのに必死だ。
こっち見んな!


「なになに、見惚れちゃった?」
「ひぃぃっ!近寄らないでください!」
「そーんな反応されると、イジメたくなるってわからねぇ?」
「ぎゃーっ!」
「うははは!お前ほんとウブだなぁ」


相変わらずバスタオル一枚のまま、ジリジリと詰め寄って来るサッチ隊長に思わず悲鳴を上げれば、ゲラゲラと大爆笑された。くそう、からかわれた!


「んで、何か用事あったんじゃねぇの?」
「あ!そうだ、どうすれば私もモブから昇格出来るかなーって教わりたくて…何が足りないのかなーって」
「…んー、色気?」
「うわ酷い」
「じょーだん、でもまぁ***はそのままでいいんじゃねぇ?」
「えー」


ひひっといつもの様に笑うサッチ隊長。
あーもー、この人やっぱ大人だよなー。


「サッチ隊長って絶対モテますよね」
「お、やっと気付いた?」
「男の人にもモテるでしょう?」
「……!」
「あれ、どうしました?」


思った事を言っただけなのに、いきなりサッチ隊長の顔が引き攣った。見る見る真っ青になって『男、男…』とか繰り返してるけれど、何か触れてはならない場所に触れてしまったんだろうか…?え、でもどこ…?


「男の人…「ぎゃーっ!」?!」
「***、それ以上言わないでえええええ!」
「えっえっ?何がですか?!男の人?!」
「うわあああ…」
「そんなに怯えて…あ、まさか男の人に襲われたとか?!なーんて、そんな事あるわけな…い…か、って、えー?」


正にこの世の終わりみたいな顔したサッチ隊長。
どうやら若い時に酔っ払ってゲイバーらしき所に迷い込んでお持ち帰りされてしまったらしい。それからどうもソッチ系の方が怖いのだと。


「…わ、忘れてくれるよな?!」
「えーどーしよっかなー」
「こら***!犯すぞ!」
「ボンちゃんとかイワさん呼ぶぞ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


必死で拝み倒すサッチ隊長は、いつもの余裕とか全くなくて何だか初めて勝った気分になれた。でも可哀想だからこれくらいにしといてあげる!べ、別に後が怖いからとかじゃないんだからね!


「あーあ、目立つ秘訣聞きそびれた」
「ハルタとかイゾウに聞いてこいよ」
「だって…二人とも怖いんですもん…」
「お、ならいい事教えてやる、耳貸せ」



二人のご機嫌を取れば喜んで教えてくれる、と。
サッチ隊長が耳打ちで二人が大好きなモノを教えてくれた。ご丁寧に小道具まで!よーし、これなら目立つ秘訣を教えてくれるねっ。

私は浮かれていたのだ。
少なくとも、部屋を出る私の後ろでサッチ隊長がニヤリと笑った事に気付かないくらい…。



「いやあしかし。こんなんで喜ぶなんてなー」


ウキウキしながら、私はハルタ隊長の部屋の前でいそいそと準備をする。サッチ隊長から貰った小道具もしっかり装備してやる気は万全だ!



「おーばけだぞおおおおおお!」
「いやああああああ!」
「えっ?!」
「うわーん!出ていけ、出ていけよお!悪霊退散悪霊退散…!」


えーと、これは一体全体何がどうしてどうなったんだ。
サッチ隊長から、ハルタ隊長はホラーとかそんなのが三度の飯より大好きだからと、血みどろマスクを貸して貰ってそれを被って突撃したのはいいんだけど、なんでハルタ隊長は女の子みたいな悲鳴をあげてベッドの下に頭だけ突っ込んでガタガタ震えているんだろうか。


「あ、あのー…」
「うわあああ!喋るな悪霊!消えろ消えろ消えろ消えろ」
「…***ですけどね、お邪魔しましたー」
「……***?へぇ…やってくれるね…って、待っ…!」
「さよならっ」


ヤバイヤバイヤバイ。
何がヤバいかと言うとマジでヤバい。
私が名乗ったら、ピクリと反応したハルタ隊長。
そのままゆっくりベッドの下から這い出てきて、なんかもう背後に真っ黒い物が見えた。やばい。
流石に命の危機を感じて、自分史上最高速度で逃げ出した。後ろからハルタ隊長の『ふふふふふふ』って笑い声が聞こえてきて鳥肌が立った、これこそ軽くホラーだ。



「ひゃー、恐ろしかった」


それにしてもサッチ隊長め。
よくも私を騙してくれたな。と言うことは、このイゾウ隊長の大好物もウソ…?いや、そんなわけない。イゾウ隊長はワノ国出身だし、好きなはずだ…根拠はないけども。

きっとハルタ隊長のは間違えただけ、なんて。
自分に言い聞かせて無理やり納得。
何としてでも秘訣を見付けるのだ!

イゾウ隊長の大好物のソレを後ろ手に
意気揚々と部屋の扉をノックする。



「イゾウ隊長ー、お邪魔しますー」
「おや珍しい、***じゃねぇか」
「えへへ、贈り物が…」
「贈り物?お前さんがおれに?」
「いつもお世話になってるんで!」


だから目立ったりモテる秘訣を…とは言わないけど。
ほんとに珍しい物を見る目でイゾウ隊長はゆるーく首を傾げるけれど、その仕草が色っぽいのなんのって…!
くそう、少しくらいその色気をわけてくんないかな。

さて、とばかりに。
後ろに隠していた贈り物を
ずいっとイゾウ隊長の前に差し出せば。


「新鮮なタコにイカ、ウナギもありますよー!」
「うっ…」
「わあ、そんな震える程喜んでくれるなんて!」
「うっぎゃああああああ!」
「きゃああああ!」


イゾウ隊長が俯いてフルフルと体を震わせるモンだから、よっぽど嬉しかったんだろうと私まで嬉しくなった。だけど次の瞬間、いつものイゾウ隊長からは到底想像つかないような叫び声を上げるもんだから、釣られて私も叫んだ。


「た、頼むから下げてくれえ!」
「え、でもこんなに活きがいいですよ」
「ぎゃあああああっ」
「ほーらほーら」


ガシッと両手にイカタコウナギを掴んでイゾウ隊長に押し付ける。ヌメヌメうにうに動くそいつらはイゾウ隊長の体にまとわりついて、ウナギなんかは袂から侵入した。


「うわっ、やめろ…!ぎっ、……」
「ええ?!イゾウ隊長、イゾウ隊長ー!」


ヌメった触手に絡まれるイゾウ隊長の色気半端ねー!とか思っていたけれど、急に白目むいて口からブクブク泡吹いて気絶するもんだから、流石にこれはマズイと思った。


「しょ…証拠隠滅…!」


部屋から私がいた痕跡を消して、イカタコウナギも袋に詰めて持ち出す。後で厨房に持ってって食べさして貰おう。
しかしアレだ、結局サッチ隊長が寄越してきたものは、大好きどころか大嫌いなものだったってわけだ。



「もう!これじゃ私の野望が……ん?待てよ?」



目立つ秘訣を探って自分が目立つ事は叶わなかったけれど、もう一つの野望はなんとかなるんじゃないかな。
そう、今までに知れた隊長目立ちーズの弱点やらを、日頃目立たなくてやっかんでるラクヨウ隊長を始めとした隊長ズに売付ければいいんだ。高額で…! 



「ラクヨウ隊長ー!」
「んあ?***、ご機嫌だな」
「へっへっへー、いい情報があるんですけど買ったりしちゃいますう?」
「モノに寄るな」
「なんと!隊長目立ちーズの弱味です…!」
「おお…!そりゃいいな!是非買、う…ぜ…、」
「ん?どうしました?」
「ややややっぱり遠慮する!」


弱味と聞いて、ニンマリ。
それはそれは悪そうな笑顔をラクヨウ隊長がしたのだけれど、突如として青ざめ、『用事思い出したぜ!』なーんて逃げるように走り去っていった。


「ちぇー、まぁいいか。クリエル隊長らへん…に…っ?!」



ゆらぁと。
甲板に映る六つの影。
肌を刺すピリピリとしたこれは…覇気?
とにかく恐ろしくて振り返れない。


「い、いやああああああっ!」


その後しばらく
私の頭には六つのタンコブが生えていた。



─教訓──

ちょっと名前があるからって
モブごときが野望を持ったらいけない。





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