親しき仲にも礼儀あり


長い期間家族ってのをやってると、
理屈だけじゃどうにもならない事もある。
わけもわからず腹を立てたり、明確な理由があって腸が煮えくり返る思いをする事だってまた然り。

だからと言って、
全てぶちまけりゃいいってモンでもない。
いくら家族とは言え、触れてはならない領域だって確かに存在するのだから。

そんな事はわかっていると思っていたのに。
私よりも長くこの船で過ごして、私よりも長く家族として親友としてやって来た彼等は、誰よりもわかっていると思っていたのに。



「あン?てめぇもう一回言ってみろよい」
「何回だって言ってやるよ、この堅物が!」


何にもわかっちゃいなかった。


「大体テメーはいつもそうなんだよ!何かにつけちゃ人の事バカにし腐った態度取りやがって!」
「はんっ、バカなんだから仕方ねぇだろい」
「んだとっ?!」
「んだよい!」



事の発端はなんてことのない話。
今日たまたま、マルコの虫の居所が悪くて
サッチもまた、虫の居所が悪かったようで。

そんならお互いにほっとけばいいのに。

ストレスを発散させようとしたのかはわからないけど、サッチはいつものようにマルコをからかい始めて、いつもなら軽く流すマルコが珍しく食ってかかって。
後はもう、あれよあれよとヒートアップ。



「ちょっと、やめなよ二人とも」
「うるせえ!」
「***は黙ってろい!」



バチバチと火花が飛び散る二人に声をかければ、
こちらを見ようともせずに一喝された。
ちょっとカチーン。
なんなんだ、コイツら、頭くる。

そうこうしている内に
彼等の怒りのボルテージは更に更に上がる。

今にも相手を噛み殺しそうな程、鋭い眼光。
正に売り言葉に買い言葉、
カッとなったマルコがサッチの胸倉を掴み上げる。
残った拳は震え、行き場を探して。



「…おれを殴り飛ばしてぇって顔してんなぁ?!」
「だったらなんだってんだよい!」
「おーコワ。おれはお前と違ってよォ、」


ダメ、ダメだよサッチ。


「殴られたらケガすんだよ、てめぇみてぇに簡単にケガが治る便利な体じゃないんでね」
「…てめぇ」


ダメ、その先は言ったらダメなんだよ。
サッチお願い、やめて。


「羨ましいよなァ?楽にケガが治「サッチ……!」っ」


言わせたらダメだ。
そう思ったら自然と声を張り上げていた。
勿論サッチだって本気でそんな事を思っているわけじゃないのはわかってる。その証拠に私が声を荒げた時、『しまった』と言った表情をした。

マルコだってわかっている筈なのだ。
それなのに彼の激情は止まらないのか、苦々しく顔を歪めてサッチに吠える。


「あぁそうさ、おれァてめぇみてぇに料理しか能がねぇ役立たずじゃねぇからよい!身体張って戦場に立ってんだい!」
「…んだとォ?!」
「てめぇみてぇな役立たずは、この船か「マルコも!!」」


一体何だって言うんだ。
どうしてそんな思ってもいない事を。
言った本人が辛そうな顔してんじゃないか。
コイツら、ほんとムカつく。


「…ちょっと」
「さっきからうるせぇよい!」
「…どっか行ってろ」
「うるせぇのはお前らだろうが!!」



普段、決してしない言葉遣い。
イメージ?そんなの知ったこっちゃない。
唖然とする二人を余所に、
得物の短刀を取り出し彼等に詰め寄る。


「な、にしてんだよい」
「ねぇマルコ、サッチなんかいらないんだよね?そう言おうとしてたんだよね?」
「あ、当たり前だろい」
「なら私が殺してあげるね!」
「…っ、」



思い切り、サッチ目掛けて短刀を振り下ろす。
肉が裂ける感触、きもい。

でも私は知ってる。



「…***、てめぇ…」
「ほら庇う」


短刀は、綺麗にマルコの腕を切り裂いた。
傷口からは蒼が爆ぜ、瞬く間に元に戻る。

結局、マルコはサッチが大切で
サッチだってマルコが大切なんだ。



「二人ともさ、滅多な事口にするもんじゃないよ」


思ってもいない事を言って、
自分まで傷ついてんじゃん。バカみたい。
そう告げれば、些か気まずいんだろうか
苦虫を噛み潰したような顔をするサッチとマルコ。


「アンタ達が誰よりも思いあってんの知ってるし」
「…よい、」
「けどさ、もうちょっと考えなよ。ガキじゃないんだから」
「それはマルコが!」
「あァ?てめぇが売ってきたんだろうが…!」
「……」


なんなんだコイツらは。

折角丸く収まりかけたと言うのに
またもや掴みかかろうとする。
もう、本当に頭きた。ガチでキレたよ私は。

すぅ、と大きく深呼吸。
両の手にありったけの覇気を込めて。



「お前らいい加減にしろぉぉぉぉ!!」
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁっ」
「よいいいぃぃぃっ!!」



勿論、ゲンコツなんかじゃない。
男のシンボル、二つのゴールデンボールを
握り潰す勢いで掴んでやった。

むしろ潰れろくらいの心意気ね。
グニュリと嫌ぁな感触。きもちわるい。

サッチとマルコは顔面蒼白。
酸素を求める金魚みたいに口をパクパク。
動けないのは仕方ない、
ちょっとでも動いたらもぎり取れるもん。
ブドウみたいに。



「***ちゃ…やめ、はなし…て」
「よい、よい、***…やめっ…ょぃ」
「もうケンカしないか?」


今にも泡を吹きそうな二人
涙目でコクコクと頷いている。


「もう心にもないこと言わないか」
「「…っ、っ、」」
「ちゃんと仲直りしてくれる?」


ブンブンと。
首振り人形みたい。
きちんと納得してくれたのを見届けて
握っていたゴールデンボールを離す。

途端に股間を抑えて悶絶する二人。



「…***、てめぇ覚えてろよい…」
「荒療治すぎるぜ……くっ、」



意見が合ったのか、同情なのか。
肩を寄せ合って慰め合うサッチとマルコ。
ほーら、仲いいじゃん。

勝手に満足して、スッキリして。
ルンルン気分でその場を後にする。



手に残った感触が嫌で、
こっそりイゾウの着物に擦りつけて。
それがバレてメインマストに吊るされたのは
誰にも言わないでおく。

でも、やっぱり
家族は仲良しが一番だね。










─酌み交わす、オモイ──

(その、悪かったよ)
(あン?)
(すぐ治っても、ケガはして欲しくねぇよ)
(…お前らを守る為なら痛くねぇよい)
(ひひっ)




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