反撃開始



二人が殴り合いをしてると聞いて、
全速力で走っていた。


サッチはやっぱり、私の事を。
マルコはいつの間に、そんなにも。


サッチは直ぐふらふらしちゃうから、綺麗なお姉さんがその気だったりしたら勝てないんだ。だからそんな事してると、いよいよ生活リズムも合わなくて。声も思いも聞けなくなって解らなくなる。


マルコはそんなしょげた私を見ても、特に何も。何処吹く風。当たり前だがなんとも思っちゃいない。ただ昨日は少し違った。部屋の前で出くわして、そのままお気に入りのお酒をほんの少しだけ入れてくれて。「まぁがんばれよい」って言ってくれたんだ。



その二人が。
今まさに殴り合っているだなんて。

嬉しくて嬉しくて、
駆ける足が速いこと。



殴り合う二人にバケツの水をぶちまけ。
転がるバケツの間抜けな音に、
軽快な自分の笑い声が乗った。



「ねえマルコ。サッチの事でウジウジしてるの黙っててって言ったよね」



マルコを差し置いて。
次はサッチに向き直る。



「本当に何もなかったんだよ?いつもは何を話しても知らねーよいって言うけど、昨日はお酒を少しだけ入れてくれて。がんばれよいって言ってくれただけ」



しまりが悪そうな顔で、
歯なんか食いしばっちゃって。
なんてゾクゾクする。



「でもね」


海水に濡れて座ったままのマルコの懐へ三角座りでおさまって。あとは可愛く可愛く、見上げてやろうね。



「いつか本当にもってかれちゃうよ」



振り向いて見た、マルコの図星。
ぎくりと怯む、サッチの顔。





ああ寒気がする。
私はこの時を待っていた。


貴方を思ってすんすん泣いて、
第三者に励まされて。
その第三者がうっかり傾いた所で
やっと私の反撃は始まる。



文句も言わない良い娘だって、
勘違いしてたでしょう。

でもこれから、
ゆっくり見せてあげるからね。

私だけを愛さなかったら
どうなるのか。


さあ、
他の女を幾らでも抱いてきなさい。
同じ思いをさせてあげる。




そして愛の根深さに狂え。





【反撃開始】


これより主導権は、いただいた。






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