xxx 気付けば籠の中






『貴女を攫いに参上致しました。』


 今日もまた、開いた窓から同じ声。この部屋は2階。カーテンには翼の生えた人の影が映っている。

 カーテンを開けると、白い翼の見慣れた男が昨日と同じ台詞を吐く。


『私の物におなりなさい。』


「嫌です。帰ってください。変質者。」


『ホホ…変質者とは酷いですな、名前。』


「名前呼ばないでくだ…あ、ちょっと入って来ないで下さいよ。あなたとわたしは他人なんです。不法侵入ですよ。」


『毎日顔を合わせているというのに、他人だなんて冷たいですな。ほら早く私の手を取って、』


 差し出された青白い手を叩く。


「そっちが勝手に来てるんじゃないですか。

今日で一週間、ですか?毎日毎日同じ時間に現れては同じ言葉。よく飽きないですね。

わたしはこの街で平凡に暮らしたいんです。海賊になんてなりたくありません。」


『私の物になりなさい、とは言いましたが、貴女を海賊にするとは言っていませんよ、名前。』


「その言い回しの違いがわからない。あなた海賊なんでしょ?」


『ええ、私は海賊です。ですが貴女は私の物になるので…そうですな、海賊の持ち物ですから、宝とでも言いましょうか。』


 話が通じているのか、いないのか。この人と話していたら、わたしまでおかしくなってしまいそう。


「…おやすみなさいさようならもう来ないで下さい。」


 今日も追い返すつもりで薄い身体を少し押す。と、今までにない強い力で腕を捕まれた。


「…何、ですか。」


『私が来るとわかっていながら、窓を開けて待っている貴女は』


 耳元で囁かれる。


『もう、私の物でしょう?』


 首にひとつのマークをつけられて


 捕らえられていた
 わたしの 心 。




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