さすがに頭にきた。
どうしてこうも、毎回この男に殴られなければいけないんだ。
殴るのが好きなのは知ってるし、それも考えて多少は我慢してた、あたしの機嫌がいいときは。
よく晴れた空の下でクルーの洗濯物を干していた名前だったが、突然の強風にラフィットのシャツを奪われてしまった。
しかし強風に洗濯物を飛ばされてしまうのはこれが初めてじゃなく、20分ほどの作業の中でもうすでにバージェスのTシャツ、ドクQの肌着、オーガーの枕カバーを立て続けに飛ばされて、なんとか取り返していたがそのイライラは最高潮だった。
「っ!!あー、もう!」
ゆらゆらと、しかし確実に海へ向かって飛んでゆくラフィットのシャツを追いかけた。
まるで持ち主と同じ不気味な笑みを浮かべて、こちらが必死になっているのを楽しんでいるように見えてさらにいらついた。
しかし取り返さねば。
ただでさえ殴るのが好きな人だ、殴る口実を与えたら何をされるかわからない。
「――――っしゃ!」
やっとの思いでシャツを掴んで安堵した名前だったが
―――ビシッ!!
背中に激痛が走って後ろを振り返るとあの不気味な笑みがあった。
いつもなら、普通に痛い、やめてください、と流すのだが、今の名前は機嫌が悪かった。
「ったく、何なんですかいつもいつも!」
持っていたラフィットのシャツを投げつけ目隠しにし、いつものお返しだと言わんばかりに全力で蹴りをいれた名前だったが、手応えがない事に気づいた時はもうすでに血の気のない長い指が首に巻き付いていた。
一瞬のうちに首が圧迫され息苦しくなり、体が浮くのを感じて下を見ると床がはるか下にあった。
「いけませんなぁ、人の服を飛ばしておいてそんな態度では…」
いつもと違う雰囲気に全身鳥肌が立った。
「……お仕置きが、必要ですかな…?」