「何をしているのですか名前…おや。」


甲板で海を眺めていた名前の後ろ姿を見つけたので顔を覗きこんでみると、その頬は濡れていた。


「怖い夢を見たの。」


こちらを見た名前の瞳はまだその夢に怯えているようで、肉食獣に捕らえられてしまった小鹿のように揺れていた。


「一体、どんな夢だったのですか?」


長い長い沈黙。
そんなに恐ろしい夢だったのだろうか、名前の瞳にまた涙が溜まりはじめた。
血の気のない長い指で、その溢れそうな涙を拭ってあげるとゆっくり息を吐き口を開いた。


「オーガーや船長や…みんなが死んじゃう夢。」


なるほど喪失への恐怖、ですか。







―ビシッ!!


「―…っ!な、何で、叩くんですかー。慰めるでしょう、普通。」


背中をステッキで思い切り叩いてやると、また新しい涙が瞳に溜まりはじめた。




「…そうです、その涙です。貴女が流すのは、私による涙だけでよろしい。」







私が喪失の恐怖を感じるのは、貴女だけなのですから。






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