目が覚めると東の空が暗くなっていて、ずいぶん長いこと甲板で居眠りしまったことに気づく。
水平線に半分ほど沈んでいる夕日をぼんやり眺めながら寝起きのけだるさでゆらゆらしている意識を少しずつ取り戻していると、眠ってしまう前にはなかった物に気が付いた。
華やかな色合いの女物の和服が肩にかけられている、こんなものを持っている人はこの船には一人しかいない。
「…イゾウ隊長の」
周りを見渡してみるとイゾウ隊長は意外とあっさり見つかって、隅に積んである酒樽の山に寄り掛かりながら愛用の銃の手入れをしているようだった。
高級そうな和服を抱えてイゾウ隊長の方に歩くとこちらに気づいたようで、銃から視線をそらさないま、起きたか、とだけ言われた。
「お洋服、ありがとうございました」
その辺に置いとけ、と言われ適当にイゾウ隊長の横に置くとなんだかとても見られているような気がしてイゾウ隊長を見てみると、やはりこちらをじっと見ていた。
「…あの、何ですか」
「いや…お前が寝てるのを見つけたとき、室内に運ぼうかと思ったんだがお前が持ち上がらなくてな」
だからそのまま服だけ掛けておいたんだ、さらりとそんなことを言われたものだからイゾウ隊長の横に座ろうとして屈めた腰を ぴん ともとに戻して、さすがにあたしだって女なのだからそんな事を言われたら少しくらい頭にくる、重くてすいませんでした、と早口に言って船室に行こうとした。
「まあ待てって、そんなすぐ怒るな、冗談だ」
座れという意味だろう、自分のすぐ横の床を軽く叩いていたずらっぽい笑顔をこちらに向けてきたのでとりあえず大人しく隣に座った。
「隊長にそんなふうに言われたら冗談に聞こえませんよ」
「そうか、悪かったな。無性に名前をからかいたくなってな」
「ひどいです、イゾウ隊長なんて嫌い、大嫌い」
こちらも意地悪してやるつもりで言ったのだがイゾウ隊長はすまない、と言ってさっきまであたしにかけられていた和服を渡してきた。
「本当はな、お前にその着物をかけたらすごく似合っててな、せっかくだからそのままにしといたんだ」
「これ、くれるんですか?」
「ああ、寝顔はもうたっぷり見せてもらったからな、今度は化粧もしてやるからちゃんとそいつを着てみろ。馬子にも衣装、て言うだろ」
「…やっぱりイゾウ隊長なんて嫌いです」
渡された和服を抱きしめた。