「おい嬢ちゃん、少し付き合えよ」


突然しゃがれた声がして振り返ってみると、どうやらそれは自分に向けられたものらしいと名前はわかった。
呼び止めた海賊のようななりをした男は鼻を被いたくなるような酒の臭いを漂わせながら名前に近付き彼女の肩をつかむと、そのまま引きずるように彼女を酒場の方へ導いた。


「…いや!放してください!」


恐怖で硬直した体からやっと発せられた声だったが、可愛らしいその叫びは酒臭い男をさらに楽しませてしまったようで、男は大声で笑うとさらに歩調を速めた。
さっきの一声が精一杯の抵抗だった彼女はもはや男の導くまま酒場へ引きずられ恐怖から涙さえ流し始めた時、ふっ、と自分を引きずる力がなくなったかと思い前を見ると今まで自分を引いていた男は地面に倒れていた。
その倒れた男に覆いかぶさるように伸びる長い影を辿ると鞭を構えた背の高い保安官の制服を着た男がいた。


「…ホホ、善良な市民に手を出すとは、実に許しがたい」


うう、と倒れた男が唸り意識を取り戻したかと思われるや否や保安官は腰から拳銃を抜くとそのまま一瞬の間も置かず男のこめかみを撃ち抜いた。
再び地面に倒れた男とそれを撃った保安官を見ながら唖然としている彼女に保安官は優しく、大丈夫でしたか、と声をかけたが彼女は撃たれた男の頭部から流れ出る赤を見るとそのまま気を失ってしまった。
倒れかかった彼女をすぐさま屈んで支え、横抱きにして歩き出した保安官は彼女の顔から険しさが消えるのを確認すると満足げに微笑み、静かに口を開き囁いた。


「いつでも私が貴女をお守りしましょう。…さて、次はどなたに悪者をやっていただきましょうか」






射殺された海賊のようななりをした男は、つい3日ほど前、隣町で失踪したパン屋の店主と酷似していたという。








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59巻発売までずっとしまっていましたがやっとあぷできました。
彼は催眠術を使えるとのことでしたので。
保安官時代に使えたかはわかりませんが、捏造申し訳ない。
きっとラフィットさんの片想いって相当怖いと思います。






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