―カツン、カツン
―…ト、ト、ト


「どうして私から逃げるんですか」


甲板にて、いつものようにタロットやら怪しげな道具やらを使って占いをしていた船長ホーキンスは横にクルーである名前がひょこっと座ったのを見るなり、道具をさっさとかたして場所を移動してしまった。
意味が分からずそんな船長の後をついて行く名前だが、どうも船長は自分を避けているらしいということが分かった。


「今日と明日、お前の近くにいると運気が下がると出た」


それだけ言うと船長は自室へ入ってしまった、きっと名前が入って来れないように鍵も閉めてあるだろう。
船長が占いの結果を厳守する人だというのも分かっているし、そのおかげで命を救われたことがあったのも事実だが、こんなの酷すぎる、仕方ないと割り切ってしまえば楽だがあいにく船長とクルー以上の気持ちをホーキンスに抱いている名前としてはとても簡単に割り切れるものではなかった。

結局、夜になっても船長は部屋から出てこなかった。
どうにかこの眠れそうにない程落ち着かない気持ちを落ち着かせるために名前は今日の夜の見張りをかってでた。
夜の海はあまりに静かで少し肌寒い風に毛布を握りしめた。
見上げれば無数の星が輝いていて、吸い込まれそうなほど広い夜空に、そのまま飛び込んでしまおうかという気にもなる、それほど昼の船長の言葉が胸に深く刺さっていて涙が出そうになった。
涙がこぼれるその最悪なタイミングに、誰かが見張り台に上ってきた。
交代か、それとも他のクルーがコーヒーでも持ってきてくれたのだろうか、何にせよ泣き顔なんて見られたくない、名前は毛布に顔を埋めて眠っているふりをした。
カツン、カツン、と足音が近づいてきて名前の隣に腰を下ろした、終始無言の誰かを毛布の隙間から確認した名前は、まだかすかに目の上が赤いのも忘れて顔を上げた。


「…船長」


船長は顔を上げた名前をちらりと見ると、やはり泣いていたか、とだけ言ってすぐ視線を元に戻してから何も話す気配はなかった。


「今日明日、私の近くにいたらだめなんじゃないんですか」


毛布に顔の半分を埋めたまま、少し拗ねたように言う名前を船長はまたちらりと見るとその手を名前の頭に乗せ軽く撫でてやった。


「ついさっき、お前が泣いている、と占いで出た。ある話で聞いたことがあるのだが、占いやまじないというのはそれ自体には力はなく、それを信じることでその占いの結果やらがその通りになるという説があるらしい、だから俺は名前が泣いたら運気が下がる、と信じることにした。」


だから泣くな、それだけ言って船長は立ち上がって自室へ向かった。


「あと1日、占いの結果で極力お前に近付こうとはしないが、泣きたくなったら俺の部屋に来い」


お前の涙がこぼれる前に。








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