「いだだだだだ…ちょ、つねらないでください」
白い頬に残る赤い跡はその力の強さを物語っている。
ひと睨みしてもまだ顔に近づこうとしてくる白い手を捕まえると、手の向こう側からホホホ、と楽しそうな笑い声がする。
実に不愉快で、また顔に近づいてきたもう片方の手も捕まえるとラフィットは何故かまた、ホホホ、と笑った。
「何が面白いの」
自分でも驚くくらい低い声だったが、それくらいでラフィットがひるむはずもなく逆にさらに愉快にさせてしまったようだった。
ホホホ、申し訳ない、と両手を本来の位置に戻してもまだ笑いが止まらないようで、クククと喉の奥で笑いを堪えていた。
「何なんですか、なんか気味悪いですよ」
いつもならば、気味悪い、なんて言うと光栄です、とか言いながらステッキを構えるのだが今はステッキに手をかけることもなく、必死に笑いを堪えていた。
「ホホ…ええ、本当に気味が悪い。」
やっと笑うのが止まって落ち着くといつものラフィットからは意外な言葉。
少し驚く名前をよそに少し乱れたオールバックを直しながら遠い目をして溜息までついてみせた。
絶対に今日のラフィットはおかしい、そう思った名前は急に胸が苦しくなるほどの不安にかられて、しかし彼に触れようとするだけで今までは気づかなかった、目眩がするほどに上がる心拍数に気づいてしまい動揺を隠せなかった。
くすぐったい沈黙に耐え兼ねた名前は、まあ気味悪いのはいつもだから大丈夫ですよっ、と投げやりな言葉を放って逃げるようにその場から立ち去った。
そんな名前を一瞥するが、ほとんど上の空といった状態のままラフィットはそこに座っていた。
本当…実に気味が悪い。
こんなもの、自分でも認めたくないですよ、ああ、実に鬱陶しいばかりです。
貴女を愛したいというのに…恋というものは私が貴女を愛する邪魔ばかりします。