過去拍手再録(真選組+銀)

■志村妙の好きなところを100個言わないと出れない部屋(1)

「……ううん?」

 ふしぎな浮遊感のあとに、固い地面に背中を打ちつける感覚があった。
 目を開くと視界は白一色で、仰向けに倒れた体勢から銀時はむくりと起き上がった。銀時の記憶が確かなら、自室の布団で眠っていたはずだ。辺りを見回せば四方を白い壁に囲まれた、ただっ広い空間が広がっている。
 じとりと嫌な汗をかくのを自覚しながら、ひとまずコイツらに話を聞かねーとな、と銀時は隣で伸びている男たちを起こした。

「扉が見当たらねーのが気になりまさァ。俺たち一体どこから来たんでしょうね」

 変な部屋ですねィと白い天井を見つめながら沖田が言った。肝が据わっているというか危機感がないというか、すぐに現状を把握してみせた沖田は落ち着いている。
 一方で、床に倒れていた残りの二人は離れた場所で、ああでもないこうでもないと言い合っている。

「順当にいけば私怨か。もしくは組織に恨みがある人間の仕業だろうな」
「待てトシ。それなら万事屋がいる理由に説明がつかん」
「いつものことだろーよ。余計なもんに首突っ込むのがこの馬鹿の習性だ」
「あー? 誰が馬鹿だコラ」

 カチンときた銀時が、近藤と土方の話に割って入った。

「馬鹿はそっちだろ。警察が揃いも揃ってこうも簡単に監禁されるたァ江戸もいよいよ終わりだな」
「うるせえな。監禁された覚えはねェ。俺は布団で寝たわ」

 この部屋に来るまでの全員の行動を整理すると、土方らもそれぞれ自室で眠ったらしい。
 銀時も真選組の面々も、寝る前は寝間着姿のはずだったのに、帯刀こそしていないものの、なぜか銀時は着流し姿で三人は隊服を着ている。殺し目的なら寝込みを襲えばいい。服を着せる必要も、こんな部屋を用意する必要もないだろう。
 部屋の壁や床は殴っても蹴ってもうんともすんともしない。これほど頑丈な部屋に四人を閉じ込めてまで犯人は何がしたいのだろうか。

「チッ、おそらく殺しが目的じゃねェ。他に要求があるはずだ」
「ここあれじゃねーの、ホラ、巷で流行ってる○○しないと出れない部屋みたいな」
「んだそれ」
「少なくとも男四人で来るところではないってことだな」
「ご心配なく。旦那。いざとなったら土方さんが文字通り一肌脱ぎまさァ」
「よく分からんがトシ、任せたぞ」
「よく分かってないのに任せないでくんない?! 近藤さんアンタは黙っててくれ! お願い!」

 煙草の持ち込みを禁止されて、早くもニコチン切れを起こしそうな土方が叫んだ時である。近藤がはたと気付いて手を上げた。

「おい皆。さっきまであんなのあったか?」

 近藤が指さした部屋の隅を見やれば、天井付近に電光掲示板があった。銀時らが部屋を隅から隅まで観察した時にはなかったものだ。いつのまに、と驚愕する四人の前で、電光掲示板がピカピカと光を発した

「『この漫画のヒロインの好きなところ百個言わないと出れない部屋』だとよ」
「なんだそりゃ」

 電光掲示板の文字を銀時が読み上げた。呆れたように溜め息を吐いた土方だったが、部屋から出れる算段がついたと気を取り直す。土方は部屋を出たら速攻で、自分たちをこんな下らない茶番に巻き込んだ犯人を捕まえてやるつもりだった。

「つーかよ、ヒロインって誰だよ?」

 ヒロイン集合のポスターを思い出した銀時が「一応、神楽になるのか?」と呟くと「冗談」とすぐさま否定が入る。苦虫を噛み潰したような顔の沖田が、それは無理だと文句を言った。

「あんな奴の好きなところ百個なんて言いたくないし聞きたくもねェ」
「ヒロインっつうかマスコットに落ち着いたんだっけな」
「というか、ヒロインはお妙さんだろう! お妙さんしか認めません!」

 ハイハイと手を高く天井に上げた近藤が熱く抗議した。近藤のやけに確信を持った言い方がいけなかったのか、それとも単に声が大きかったせいか、電光掲示板が再びピカピカ光り出す。

『空間定義が完了しました。』

残り:100個
・近藤 0
・土方 0
・沖田 0
・坂田 0

 銀時ら四人の名前が表示される。残り100個と書かれているということは、あの数字がゼロになるまでカウントされるのだろう。
 そんなわけで、近藤の高らかな宣言によってこの部屋は、志村妙の好きなところを百個言わないと出れない部屋になり果ててしまった。

「…………近藤さん任せたぞ」

 自分の出る幕はないといった様子で土方がその場に座り込む。任された近藤はといえば、どんと胸を叩いて頼りがいのある顔で笑った。

「任せておけトシ。なあに100もあっという間だ」
「いやちょっと待てくだせえ」

 沖田が電光掲示板を眺めたまま、「一人につき10個以上挙げること。メンバー内での重複可らしいですぜ」隅に小さく表示してある文字を読み上げる。

「注文が多い奴だなオイ」
「ハッ。仕組んだ奴はきっとろくな奴じゃねェな」
「ではこうしよう。俺が70挙げよう。トシ、総悟、万事屋は最低10挙げれば条件クリアだ。ところで、重複可ってどういう意味?」
「つまりこういうことでしょ」

 部屋のルールを理解できたらしい沖田は「無難なやつで一つ挙げてみてください」と近藤に言った。

「ふむ。そうだなやはり、お妙さんは顔が美しい!」

 ピッと部屋に電子音が鳴り響く。
 ディスプレイの近藤の名前の横に数字の『1』が表示された。
 続いて沖田が「きれいなお人」と言うと、沖田の名前の横にも『1』が表示された。

「重複可ってつまりこういうことでしょ」

 なるほど、と沖田以外の三人が頷く。

「面がいい」
「別嬪さん」

 銀時、土方が続くとピッピッと電子音が鳴る。
 これなら楽でいいなと思ったのもつかの間、これは壮絶な戦いの序章に過ぎなかったと四人は知る。

残り:96個
・近藤 1
・土方 1
・沖田 1
・坂田 1



■志村妙の好きなところを100個言わないと出れない部屋(2)

残り:64個
・近藤 33
・土方 1
・沖田 1
・坂田 1

「お妙さんにムラムラします!」
『ピ……ピ? ピ……?』
「近藤さん。カウンターも迷ってるみたいだぜ」
「どこがどうムラムラするのか言わないとダメなんじゃないですかィ?」
「なるほど……××××したら××××してくれそうでムラムラします。××××も捨てがたいけど×××××な感じのお妙さんも好きだ!」

 一気に何個もカウントされたらしくピピピッと電子音が連続して鳴る。放送禁止用語の嵐に、銀時がぞっとした顔で近藤を見た。

「オイオイ。仮にも警察の上層部が未成年の女相手にとんでもねえ情念抱いてることが白日の下に晒されちまったな。流石の銀さんもドン引きするわ」
「近藤さァん! うちのイメージに関わるんでもうちょっと抑えてくんねーかなァ!」

 市民からの苦情に土方が焦ったように叫ぶ。そこへ銀時の元に沖田がやってきて、コソコソと銀時の手に財布を握らせた。

「旦那。ここは一つこれで黙っててください」
「チッ仕方ねーな」
「とんでもねえ汚職の現場を見ちまったんだけど。何やってんのお前ェェ!」

 しかも俺の財布じゃねーかとぶちぎれた土方は、沖田の手から財布をひったくる。代わりと言ってはなんだが……と土方は胸ポケットの奥からマヨネーズを取り出した。煙草の持ち込みは禁止された一方で、たとえ謎空間であっても、マヨネーズの持ち込みは許されていたのだ。

「オイ万事屋。ここは一つこれで頼む」
「どういうこと? どうしてこれで手が打てると思ったんだ」
「なんだ、一つじゃ足りねえってのか」
「そういう問題じゃねーんだよな」

 ぶちゅるるる。銀時が握り潰した容器からマヨネーズが噴き出す。卵色の液体が床にぶちまけられた。勿体ないと騒ぐ土方を、勿体ないのはそんな外面で脳みそにマヨしか詰まってないお前のことだと銀時が哀れな目で見下ろす。
 ドSコンビが土方相手に戯れているあいだ、近藤のほうはなかなか難航しているようだった。

「やっぱり何といっても声が可愛い!」
『それさっきも聞きました』
「天使のよう!」
『それもさっき聞きました』

 カウントアップの電子音が全く鳴らない。スランプに陥ったらしい近藤は電光掲示板からアウトを食らいまくっている。メンバー内での重複は許されているが、一人の人間が同じことを繰り返し言うのは当然だめらしかった。レパートリーが尽きてきた近藤に「そろそろ休憩にしやしょう」と沖田が言い出した。

「近藤さんが休んでるあいだ、俺がノルマ消化していいですかィ」

 率先して100個消化の役目を引き受けた沖田はスッと息を吸う。それを見ていた土方は、どんなモラルの外れたことを言い出すか内心ヒヤヒヤした。

「このあいだパトロールしてたら、離れたとこでガキがすっ転んだんです。ガキが持ってたおはじきかビー玉かなんかが散らばったのを見て、一人女が駆け寄っていきましてね。ぶちまけたもん全部かき集めて、ガキの手に渡してやった姐さんは優しい人ですね」
ピッ
「そういう、目に入ったら手のばさずにはいられないところがいいと思いますぜ」
ピッ

(ま、まともォォ!)

 土方は驚愕した。沖田のことだからもっとやばい爆弾をぶち込んでくるかと思ったからだ。土方の近くにいる銀時もまた、意外そうに目を丸くしている。

「近藤さんを回収に行くとみんなには内緒よつって茶菓子出してくれるところも好きですね」

 ピッという電子音に交じって近藤が叫んだ。「俺そんなの聞いてない!」「そりゃあ内緒ですから」沖田はべえと舌を出して笑った。
 それから沖田は難なく10個のノルマをこなしてしまった。下ネタ一つ出てこなかった。

「これで十個です。とりあえず俺の分は、これでしめーってことで」
「よくやった総悟」
「わりと余裕そうじゃねーか沖田くん。あと十個くらいいけんじゃない?」
「うちじゃ近藤さんがいる手前、俺はこのくらいででいいでしょ。それにしても姐さんが対象で助かりやした。チャイナの好きなところ100じゃなくて本当に良かったでさァ」

 遠い目をした沖田が「本当に無理」という顔をするので、銀時としては逆に見てみたいなという気持ちになった。部屋の主もきっとそう思っているに違いない。


■志村妙の好きなところを100個言わないと出れない部屋(3)

残り:31個
・近藤 57
・土方 1
・沖田 10
・銀時 1

「あー……声がかわいい?」

 近藤の発言を思い出しながら、電子掲示板に向かって土方が言う。
 けれど、いつまで経っても電子音が鳴り響かない。

「……なんでだ?」
「どうやら本人がちゃんと思ってないと駄目らしいですねィ」
「じゃあ……男相手に物怖じしないところ」

 土方の言葉に反応して、ピッと電子音が鳴る。ようやく一個だと土方は息を吐く。最初は楽な仕事だと思ったものだが、そんなことはない。相手の好きなところの判定基準がなかなか厳しい。隣に近藤が居る手前、土方は下手に志村妙を褒めることを避けたかったし、土方はそもそも志村妙と話す機会すら滅多にないから、好きなところも嫌いなところもいまいち掴み切れていないのが所感だった。
 どうしたもんかと土方が人知れず苦悩していたところに、沖田にポンと肩を叩かれる。

「土方さん」
「ンだよ」
「上司の女って言って下さい」
「は?」
「アンタにそういう趣味があったら、姐さんの好きポイント加算されると思って」
「んなわけ……上司の女」

 やけくそ気味に土方が言った。
 こんなんで加算されるわけねーだろと思いながらカウンターを見る。
 ピッと数字が跳ね上がり「あ」「お」「へェ」「うわ」四者四様の反応がある。呆然と掲示板を見上げる土方、その場で腹を抱えてヒーヒー笑い出す沖田、銀時は「あーあー」と口元を抑えてニヤニヤ笑いを浮かべている。あの二人は後で殺そう。近藤が切ない顔で土方を見つめてきた。

「トシ……」
「待って! そんな目で見ないで! 近藤さん、違うからァ! 陰謀だろ!」
「いいんだトシ。お前も万事屋とお妙さんを取り合った仲だ。ここは一つ4Pといこう」
「何がァ!?!」

 どうなってんだよと暴れる土方を横目に、銀時は沖田と目線を合わせてニマァと笑った。この部屋の仕組みに気が付いたからだ。
 この部屋は踏み絵だ。志村妙に対する感情を、銀時たちがどう思っているか無慈悲なまでに判定を下すのだ。可哀そうなことに、土方はまだ気付いていない。序盤に沖田がまともなことで十個ノルマを達成した理由は、ここにあったのだ。

「続けろよ土方ァお前ならできるはずだ土方ァ」
「総悟てめー自分はノルマ終わったからって……」
「なあ、後がつかえてるから手短にしてくんない。お前がお妙のこと何も思ってなけりゃ済む話だろーが。後ろめたいことなんて思ってないんだろ」
「た、たりめーだろ……」

 土方が、俺は負けねえぞと言って唇をかみしめる。
 こういう、わかりやすい煽りにも簡単に乗ってくれるんだよな土方くんは。ちょろ過ぎて心配になってきた、と銀時は思った。

「土方さん黒髪ポニーテールって言ってください」
「黒髪ポニーテール」
ピッ
「なんでだよ!」
「そそると思ったことがあるんだろ」
「思ったことなんてねーわ!」
「土方さん、次、部下の姉って言ってみてくだせえ」
「誰が言うか! それいま関係ねーだろ! てかそれお前も怪我する奴だろ!」


■志村妙の好きなところを100個言わないと出れない部屋(4)

残り:18個
・近藤 61
・土方 10
・沖田 10
・坂田 1

 部屋の壁に寄り掛かって立つ沖田に「旦那ァ」と話しかけられて、床にあぐらをかいた銀時が見上げる。

「考え事ですかィ」
「まーな」

 この部屋に閉じ込められてから体感で二時間程が経過している。そのあいだ銀時はずっと悩んでいたことがあった。真白い天井相手に問答しているよりか、沖田と話していたほうが進展がありそうだと思った銀時は、よっこらしょと立ち上がった。

「土方さんも10個消化したし、そろそろ旦那も消化しちまったらどうですか」
「そーだな」
「旦那なら簡単でしょう」
「んなこと言われてもなァ、俺、あいつの怖いところならいくらでも言える気がするけどよ、好きなところってなるとな」

 実はさっき土方が暴れている横で「黒髪ポニーテール」「声がかわいい」と銀時が発言してみたのだが、電光掲示板に表示された銀時の数字はピッと一度上がったのに、すぐに戻ってしまったのだ。
 どうなってんだと、掲示板に表示された己の『1』を見つめた。
 部屋の主に遊ばれているような気がしてならない。まるで、銀時にとっての好きの定義はそうじゃないだろと、部屋の主に見透かされたような気分だ。
 うだうだ銀時が考えているあいだも、近藤はラストスパートをかけていく。

「俺たち真選組がやばかった時、いってらっしゃいと送り出してくれたところ!」
「へえ。送り出してもらったのか」
「そいつァすげえや、もう確定ですよ。むしろ姐さんのほうがうちの大将に惚れてんじゃないですか」
「そ、そうかなァ! やっぱそう思う?」

 適当なことを言って土方と沖田が上司の機嫌を取っていた。おだてられて調子に乗った近藤がでへへと笑う。
 いってらっしゃい、なんて。
 妙が近藤に向けてそんなことを言った事実は銀時にも初耳だった。

「あいつは借りたもんは返す女だろ」

 お前らに助けてらったことが一度や二度あるから、きっと妙はそうしたのだろう。近藤を送り出した言葉だって本来ただの挨拶で、そこに男女の惚れた腫れたは関係ない。そんな言葉を続けようとして銀時はハッと息をのむ。
 なんで俺があいつの行動の言い訳なんかしてるんだ。
 銀時を現実に呼び戻したのは、ピッという電子音だ。
 電光掲示板に表示された、銀時の横の数字が『2』になっている。

「え? いまどういう基準でカウントされたんだ?」
「さあ?」

 首を傾げる土方と近藤、それから意味ありげに視線を寄こしてくる沖田。三人をまるきり無視して、鋭い目つきで銀時は電光掲示板を正面から見据えた。
 銀時だって、別に妙の好きなところを言うつもりはなかったのに。
 それもカウントすんのかよ、と銀時はカウンターの精度の高さに呆れた。
 銀時にとって相手の『好き』とはどうやらそういうことらしかった。

「……おかえりなさいつって出迎えてくれるところ」

 諦めたように、はあと深く息を吐き出して、銀時が言った。
 ピッとカウンターの数字が『3』に上がる。
 負けるかとばかりに近藤が威勢よく続ける。

「大人っぽいお妙さんもいいけどたまに子供っぽく大口開いた笑顔がかわいいところ!」
ピッ
「てめーが怪我したわけじゃねーのに俺が怪我して帰ってくるとすげー怒るところ」
ピッ

 近藤の前では大口開けて笑うのかあいつは。
 横目で銀時が睨んだ先で、近藤もまた不可解な目で銀時を見ていた。なんだよ。文句あるか。

「たまに機嫌がいい時に花束を受け取ってくれるところ!飾ってくれるところ!」
ピッピッ
「弟思いのブラコン、お人よし、意地っ張り」
ピッピッピッ

残り:10個
・近藤 65
・土方 10
・沖田 10
・銀時 5

 銀時のそれは相手の好きなところなのかと周囲が疑問符を浮かべる中、連続でカウンターが音を鳴らしていく。
ピッピッピッ

残り:1個
・近藤 70
・土方 10
・沖田 10
・銀時 9

 いつのまにか近藤が99個目を挙げていた。あと一つだ。銀時はもうなりふり構わず、息を大きく吸って叫ぶように言った。

「ええと、なんかもう全体的に、ホンッッットかわいくねーところ!」

 好きなところだって言ってんじゃん! という土方のツッコミをかき消すように、ピッと電子音が鳴った。
 ガチャンと重厚な金属音が背後から聞こえて四人が一斉に振り返ると、部屋の隅に扉が現れている。鍵は最初からかかっていないのか、わずかに開いたそこから外の光が漏れている。

「あー終わった終わった。よし出るぞおめーら。………どうした、何突っ立ってんだよ。早く出てこの部屋閉じ込めた奴しばきにいくんだろ」

 ううんと銀時が伸びをして扉に向かおうとすると「万事屋」と土方がつくづく呆れたような視線を送ってきた。

「おめーが面倒くせー男だってことがよく分かった」
「うるせえよ上司の女ネトリ方は黙ってろ」
「上司の女ネトリ方って何」
「まあまあ、ネトリ方ネト郎のことは置いといて、ひとまず旦那がツンデレだってことがわかって面白かったでさァ」
「うるせえな。てめーこそ次はぜって神楽の好きなところ100個言わないと出れない部屋に一人閉じ込めてやるからな覚悟しろ」
「一生出れない奴じゃねーですかィ」

 それは勘弁、といって沖田はそそくさと土方の背を押して扉から外に出ていった。すぐに二人の声が聞こえなくなったから、部屋の中とは別の次元につながっているのだろう。
 銀時もそれに続こうとしたところで、今度は近藤に引き留められた。

「やっぱりお前はライバルだったんだな」
「……なんでそーなんの?」
「俺にはわかるぞ。あれは愛の告白だった」
「いやだから、どこが? 俺はあいつがあいつらしいなと思うところを上げただけだっての」
「そこが好きだと思っているんだろう」

 うぐ、と言葉に詰まる銀時に、にやりと近藤が唇の端を上げる。いつもの快活な笑いとは違う。自分の知らない妙のことを知っている銀時に対して悔しさを滲ませた、無理したような笑い方だ。

「お妙さんがお妙さんらしく在るのを、誰が咎められようか。俺は、万事屋の世話を焼くお妙さんの甲斐甲斐しいところも好きだぞ」
「おいおい。101個目まで言い始めちゃったよコイツ」

 もう勝手にしろと銀時は扉に急ぐ。その背中を追いかけながら近藤はまだ喋り続けている。

「まあ『いってらっしゃい』は俺にしか言ってないけどね」
「おーおー。言ってろ」

 俺だってお前が言われたことがないことたくさん言われたことあるわ、と銀時は鼻で笑って扉を押した。次この部屋に入る時、互いに50個と50個で勝負したっていい。
 そんなことを思いながら、銀時は目映い光に包まれながら『志村妙の好きなところを100個言わないと出れない部屋』から脱出した。
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