04:眠れなくなったんだけど




(基久と)










しゃらん、しゃらんと何かが鳴る音。聞き覚えがあるような、無いような
多分、鈴の音だ。しかしそれ以上に何かがあった気がするが、思い出せない
あまり無駄な事は覚えない性質が災いしてなのか、曖昧なその記憶の中から答えは出ない。だが、それではい終わりとも出来ない自分がいる。そう、何かがあった気がするからだ

すっ、と誰かが頬に触れる感覚。一体誰なのかと振り返ろうにも首が動かない。まるで金縛りにでもあった様に。僕は幽霊とかそういった類いを科学者として信じてはいないが、まぁ存在否定をする程でもない。動かない以上は仕方がないから動かさない。しかし、触れられた感覚はただの一回だった。何故か自分の中でそれを惜しんだ



そこで僕は現実に還った



「―――――…………………」



窓を叩き付ける雨の音で外が嵐を告げているのが解る。予報にはあったが、比較的に良い気候のこの島では珍しいことだった
時計を見ればまだ深夜4時。夜勤の研究者が起きてるか、年寄…いや年配の研究者様々方は起床されてるかもしれないが、今日は夜勤でもないし、僕はまだそんな歳じゃない。折角の寝れるチャンスを変な夢で……………



「(夢………?)」



ふと夢の中で聞いたあの鈴の音を思い出し、勢い良く立ち上がってからディスクの引き出しを引っ張り漁った。紙に興した数値データやら何やらが飛び舞うが気にしない。順に引き出し引き出しては漁り、そしてディスク下の引き出し奥に辿り着いてからやっと目的の物が視界に映る。そっと手でそれを取り出せば、それはしゃらんと夢で聞いた音と同じ音を鳴らした

それ―鈴付きの根付はあれから10年近く経とうとしているにも関わらず、汚れや傷みが少ない。それもその筈、ずっと袋からも出さず触れずにディスク引き出し奥に10年近く入れておけばそうだろう。宗教的なものが此処にあることは、外の人間ならまだしも、この島の人間ならば処罰の対象になりかねない。しかも僕の立場も考えればさらに、だ。それでも捨てずに持ち続けているのは、あの時から後悔しているからだ



これは、ふとした時に彼女にあげようと思ったもの


別に大した事じゃない。あの色街に通っているときにとある店先でふと見付けて、彼女に似ている気がして、それで手に取り、土産として彼女にと購入しただけだ





しかし、これが彼女に渡ることは無かった



「………和葉、君を忘れた日は無かったけど…」



こんなにやりきれない想いになったのは久しぶりだ





こんな時は笑って誤魔化せば良いのだが、人が居るわけでもないこの空間でそれは虚無でしかないのは解っていた



根付を持ったまま、またベッドに転がる。掲げれば小さくまたしゃらんと鳴った

今まで夢の中でも逢うことは無かった。今回のを逢ったと言うのもどうかと首を傾げそうだが



声も姿も、何も確認など出来なかった、

でもこの鈴の根付に似た、君だと思えた



そう考える自分は醜くて滑稽でどうしようもない大馬鹿者なんだろう





目を瞑る。しかし冴えた頭は夢どころか眠気さえ呼び起こさない。頭の隅では解っていた。今まで彼女の夢すら見たことが無かったのに今日だけ二回も見れるなんて都合の良い。……彼女で無いかもしれない可能性もまた大いにあるのだが



「今日は昼からなのになぁ…」



溜め息をついて仕方無く起き上がる。手に収まっている鈴の根付をちらと見る。……やっぱり捨てることは出来ないから、ディスクの引き出し奥に仕舞う

目に映すと君を思い出して弱くなる。君を忘れた事は無いよ。でも、



「君のいない世界で、生きる為だから」



夜が明けるまで、あとどのくらいだろうか


雨嵐の音を耳にしながら、また僕は溜息をついたのだった
















眠れなくなったんだけど










fin.



(基久と和葉)

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