01:ねえ、起きてる?




(深琴と)















「んっ……」



腕を挙げて伸びをする。それに伴い噛みきれない欠伸が出てきてしまい、両手で隠す様に覆う。目尻に涙が溜まった
窓から外を眺めると星が点々と散らばった星空が見えた。その綺麗さに心を奪われていたものの、今の時刻を確認するために壁時計に視線を映す。そして目を見開いた

少しだけと調べ物をしていたつもりが時計を見れば既に1時。思ったよりも夢中になってしまっていたらしい。夜更かしはお肌の大敵、そして脳の機能低下にも繋がりかねない。十分な睡眠が取れないから、という理由もあるけれど…



「(朝寝坊なんてしたらそれこそ怠惰への一歩じゃない…っ!!)」



慌てて机に広げていた資料や本を集め、収納されていた場所へと戻していく。部屋から持ってきた筆記具を手提げにしまい、窓が開きっぱなしでないことを確認し、最後に電気を消して図書室の扉を閉めた
光を失った深夜の船は星空や小さな外灯が点々とあるだけでやはり薄暗い。皆がまだ起きている時間帯に戻るつもりだったのに…夢中になっていたとはいえ、こんな時間まで取り組んでしまっていたことを後悔した。皆の前では強がってはいるけれど、薄暗い中を余裕で歩く事は出来ない



「(出ませんようにっ…!!)」



早足で駆け抜けたいのに思うように足は動かない。ゆっくりと足音を立てないように歩く。こんな事で出ないとは限らないけれど、自分の足音の反響ですら、今は怖い


どれだけの時間歩いていたのだろう。図書室から私の部屋までは距離がある方とはいえ、時間経過の割には進んでいない気がする。ゆっくり歩いているから仕方は無いけれど、これではいつまで経っても部屋に着かない

息を吐き、覚悟を決めて掌を握る。早歩きをすればあっという間なのだからそうすれば良いだけ。久我家の娘なのだから、ゆっ、幽霊とかそんな事に怯えてなんていられないわ。前を見据え、足を踏み出した


途端、ガサ…と音がして肩が跳ね上がった。振り返って見てみても誰も何も居ない。ひよこさんかもしれないと辺りを見渡しても影すら無い
先程の覚悟は何処かへ行ってしまった。震える足を叩いて何とか踏ん張る。ふと、とある部屋に目が向いた

地団駄を踏んでいた近くにあった部屋は紛れもなく朔也の部屋だった。窓から射す光が朔也がそこにいる事を意味している。それに心から喜んだ自分がいた



「(何期待してるのよ…)」



こういう時にだけ助けを期待する、そんな自分に嫌気がさした。理由があるにせよ、朔也にいつも冷たく接しているのだ、都合のいい時にだけ助けてもらおうなんて考える



そうじゃないのに…





「…深琴?」



振り返ると、閉まっていた扉はいつの間にか少しだけ開かれていて、そこから明かりの光と朔也の顔が見えた



「……朔…也」



昔馴染みの、美しい顔立ちをした彼を見て安心感が出てくる。本当は頼るなんて十八番、こんなことすら思ってもいけない筈なのに

心はこんなにも波打つ



「…物音がした気がしたから。見に来て良かったかもね」



後ろ手にドアを閉めながら呟く彼にはっ、と息を飲む。安心している場合じゃない。私は彼に頼ってはいけないのだから



「……み、道が暗くて…ちょっと転んだのよ」

「そうなんだ。…もう遅いし、部屋まで送るよ」

「べっ、別に…」



一人で平気よ、といつもの様に断ろうとしたら

さっと、目の前に朔也の手



「行くよ、深琴」



昔は私がいつも引っ張ってあげていた手は、

昔よりも大きくて


縋りたくなる





「………今日だけよ」



偉そうに私が言うのもおかしい筈なのに



「…うん」



何が嬉しいのか、はにかみ笑う彼に

私もつられて嬉しくなって、
笑ってしまったのだった















ねえ、起きてる?










fin.



(深琴と朔也)

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