TF_dream | ナノ



カタカタカタ。
冷房の効きすぎた薄暗い部屋の中でタイピングする音が響く。
消された照明と遮光カーテンのせいでこの部屋の光源は青白く光るモニターだけだ。
ドアの開く音がしたかと思うと、光が差し込んできた。
名前はキーボードを叩く手はそのままに振り向く。


「開けたらすぐ閉めて」

「……冷蔵庫じゃないんだから」


そっと閉めながらバンブルビーは呆れた。
それを確認すると「靴も脱いでね、」と付け加えた名前。
肩にずり落ちていた毛布を頭までかぶり直すと再びモニターと向き合った。
言われなくても、とぼやきながら素直に従ったバンブルビーは手に持っていたコンビニ袋を机の端に置いた。


「はい、買ってきたよ」

「ん。ありがと」

「アイスばっか食べてたらお腹壊すよ?」

「壊さないために布団かぶってるの」


それは意味ないんじゃ、という言葉を飲み込んだバンブルビーは名前の後ろに腰を下ろした。
名前の体を足の間に収めると毛布を剥ぎ取りお腹に腕をまわす。
人型のバンブルビーは仲間内では小柄なほうだが人間基準、特に名前からするとかなり背が高いためすっぽりと抱え込める。
その小さな体を愛おしく思いながら身を寄せる。
ぺとりとくっついたバンブルビーを大して気にした風もなく名前の手は休まる気配がない。
肩越しに画面を覗き込むとどうやらプログラムを組んでいるらしいことはバンブルビーにも理解できた。
もっともそれが名前の仕事なのだからそれ以外のことをしていれば職務怠慢なのだが。
あまり仕事の邪魔をしたくないけれど、ただ抱き締めているのも暇なバンブルビーは名前の顔色をちらりと窺うと口を開いた。


「それ、なに?」

「ん…NESTのセキュリティシステム」


ダンッと少しキーボードを打つ指に力が入った。
以前名前が自信作だと言っていたシステムはつい先日サウンドウェーブにクラッキングされてしまったばかりだ。
名前が何か新しいプログラムを組む度にフレンジーやサウンドウェーブにやられる、というのが最早パターン化していた。
そもそも金属生命体と張り合っているだけ名前の技術力は人並外れているのだが彼女は満足していない。
常に上を目指す姿勢は素晴らしいことだけど、とバンブルビーは思う。
名前を抱きしめる腕にきゅっと力をこめる。


「……無理しないでね」

「?してないけど」

「………」


この前何日も飲まず食わずで徹夜して寝不足と栄養失調で倒れたのは誰だったか。
名前はかなり体調管理に関して無頓着で、食事も睡眠も最低限でいいという考えだった。
それ以来というものこうしてバンブルビーが定期的に食料を調達したり面倒をみたりしている。


(って言っても名前の食べるものってかなり偏ってるしなあ…)


内心溜め息をつくバンブルビーに気付くことなく名前は次々に打ち込んでいく。
負けず嫌いなのはNESTに来たときからだったが最近悪化したようだ。
自分たちのためとはいえ、バンブルビーとしては敵に彼女を取られているようで面白くはない。


「……暇」

「私は忙しい」

「うん」

「その辺にあるやつ食べていいよ」

「……うん」


名前を食べたい、なんて言ったら怒るかな、とブレインの片隅で思う。
さすがに元気のないバンブルビーに気付いたのか一瞬だけキーボードの音が止む。


「どうしたの」

「どうしたってわけじゃないけど、さ」


名前が気にしてくれたことが少しくすぐったい。
バンブルビーは聞こうか迷っていたことを吐き出した。


「おいら邪魔?」

「べつに」


素っ気無いけれども即答されたことに嬉しさを隠せない。
名前はモニターの反射でそれを見るとバンブルビーの頭をくしゃりと撫でた。


「あとちょっとで寝る時間だし、それまでいい子にしてて」

「……うん」


へにゃ、と笑ったバンブルビーに小さく微笑み返すと撫でていた手を戻す。
もう少し名前と話していたいけど、本格的に集中してしまった名前に何を言っても無駄だというのは学習済みのバンブルビー。
細い肩に顔を埋めると大人しく就寝時間まで待つことにした。










(今日のビーは甘えん坊だね)

(名前もね)


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