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「……さっきからちまちまと何してるんです?」


ノックアウトは自分の足元で座り込んでいる少女に声をかけた。
手には小瓶と筆が握られていてさっきからよく分からない作業を続けている。


「ん?これ?ネイルよ、フレンチネイル」

「ネイル?」


聞き慣れない言葉に首をかしげると、名前は左手の爪をノックアウトに向ける。
小さな爪は白とピンクに彩られていた。
瞬時にかけたネット検索と照らし合わせ、なるほど爪を塗装する女性のおしゃれなのか、とノックアウトは納得した。


「ほう、可愛らしいですね」

「でしょ。片付けてたら出てきたから塗ってたの」


ディセプティコンのハッカーとはいえ、やはり年頃の女の子、おしゃれもしたいのだろうとノックアウトは微笑む。
しかし先ほどからどうにも名前の手つきがたどたどしい。
じっと見つめていると「ああっ」やら「またか…」なんて小さな声まで聞こえてくる。
そんなノックアウトの視線に気付き名前は顔をあげると照れたように笑った。


「あ、あはは…ほら、私右利きだから右手のネイルは下手でね…」

「ああ、つまり苦戦してらっしゃると」

「ご、ごもっともです…」


うーん、と名前は塗りかけの右手をしばし眺めたあと瓶のキャップを閉めた。


「まあちょっと暇潰しにやってただけだしいいや。リムーバーあったかな…」


どうやら綺麗に塗ることを諦めたらしい名前はすくっと立ち上がるとそのまま立ち去ろうとする。
面白そうなものだ、と見守っていたノックアウトは急展開に驚きつつも慌てて引き留めた。


「え、あの、やめるんですか?」

「だってどうしてもしなきゃいけない、ってわけじゃないし」


ああどうしてこの少女はこうもドライなのだろう。
ノックアウトは最近開発したばかりのヒューマンモードへ変形すると名前へ手を差し出した。


「私に貸しなさい」










「おおう…」


ノックアウトへバトンタッチしてから数分後。
名前の右手には綺麗なフレンチネイルが施してあった。
キャップを閉めながらノックアウトが誇らしげに笑った。


「我ながら上出来です」

「あんた器用だね…知ってたけど」


名前は心底感心しているようで、しげしげと自分の爪を見つめている。
両手が使えるとはいえネイルなんて初めてのはずなのに、と悔しいようななんともいえない気持ちがないわけではないが。


「このネイル、というものはまだ他の色や模様があるんでしょう?」

「ん?うん、そうだけど」

「そうですか…」


にやにやとネイル瓶を眺めるノックアウトを見て、きっとこの軍医は他のネイルも極めるつもりなんだろう、と察した。
なにはともあれ、塗ってもらったことへのお礼がまだだったなと未だにうっとりしているノックアウトへ向き直る。


「とにかく、綺麗に仕上げてくれてありがとう」

「いえいえ、こちらこそ楽しませていただいて」


恭しく礼をするノックアウトがふと顔をあげ厭らしく目を細めた。


「お礼といってはなんですが、」

「ちょっと、確かに感謝はしてるけど元はといえばあんたが勝手に、」

「まぁそう言わずに。また塗らせていただけたらな、と思っただけですよ」


瓶を差し出しつつ肩をすくめるノックアウト。
今の顔からして何かとんでもない要求をしてくるのでは、と反撃体勢にあった名前はぽかんとした。


「はぁ、まあ、そんなことなら…」


べつにいいけど、と瓶を受け取りつつノックアウトを見上げると、彼はにこりと綺麗に笑った。


「やはり美しいものは美しくあるべきですね」










(そう思うなら自分にすればいいのに)

(それとこれとは別です)

(…そうなの?)

(そうです、ふふっ)


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