正杏 (
0)1203 23:24
*正臣が罪歌に斬られてます
日常に、額縁に、ひびが入る音がした。
「かあさん、」
斬った。
斬ってしまった。
よく目立つ彼の黄色いスカーフはみるみるうちに赤く染まる。濡れる刃も、返り血を被った私の服も、二人の瞳も。なにもかも吐きそうなぐらい真っ赤だった。そのうえ爛々と輝く瞳は世界を赤く映し出すのだ。
彼にも赤い世界が見えているのか、それとももう何も見えていないのか。答えは知っていたけれど信じたくなかった。
久しぶりに彼を見つけて、呼び止めた。ただそれだけの事だったのに。
紀田くんをひとめ見た瞬間、溢れ出してしまったの。
どうして。今まで平気なはずだった、この子を抑えて来れた筈だった。寂しかった、不安だった、恐かった?だからと言って赦されない。赦されてはいけない。
「かあさん、大丈夫ですか、かあさん」
やめて、やめて、やめないで、私をそんな目で見ないで、赦して、赦さないで。
強く抱きしめても彼は私を呼び続けた。スカーフに新しい染みが落ちて広がる。
―もう貴女を愛することは出来ないけれど。
─私が、貴女を赦してあげるわ。
囁く声を聞いて、そして、笑った。彼を無くした世界なんて要らなかった。
さよなら、そう継げて私は額縁を乗り越えて落ちて行った。