お母さん奮闘!
「もう!くそ!!怜衣乃!!爆発しろ!!!!」
「ちょっと千歳ほこりが舞うから!」
「そんな事知ったこっちゃないーーー!!!!」

もう、怜衣乃は鬼道さんに会ってから骨抜きになってるし、千歳はずっと枕布団に叩きつけてるし……。こんなので帝国学園に通えるかほんとに心配になってきた。
でも……やっぱり、二人とも羨ましいかもしれない。源田と鬼道さんに会えて良いなあ。



第8話 お母さん奮闘!




「もう…マジ…鬼道さん……すき……鬼道さん……」
「怜衣乃ー、いつまでそうしてるの怜衣乃ー」
「宇宙級にあいしてる……」
「怜衣乃ってばー!!!!昼から服買いに行くから準備してよー!!」
「うるさい……いってらっしゃい」
「わあああああああん助けて雅ーーー!!」

布団という名の分厚い壁の下で枕を抱き締める怜衣乃に、りまはお手上げだった。鬼道との対談が怜衣乃のダウンにより強制的に終了して、かれこれ30分以上は経った今も怜衣乃は余韻に浸っていたのだ。鬼道好きもここまで来れば称賛に値するだろう。
いつもなら纏わりつかれたらパンチや肘打ちのひとつやふたつ入れる怜衣乃が、今やふにゃふにゃの誰か分からない状況になっていた。
りまが涙目で叫んだその時、入口の扉が開いて不思議そうな表情の雅がひょっこり顔を出した。

「りまどうしたの?」
「雅!……あれ、千歳は?」
「枕に八つ当たり。怜衣乃が鬼道さんと会えて羨ましいって」
「え、羨ましいって……千歳も会ったよ?」
「いや、違う違うそういう意味じゃなくてね?好きなキャラと会えてって事」
「あっそういう事!」

そうかそうかと頷くりまに雅は苦笑した。

「で…どうしたの?」
「はっ、そうそう!!雅ー怜衣乃が動いてくれない……助けて……」
「はいはい」

必死にすがる目線をよこすりまに、雅は今度は可笑しそうに笑った。端から見たらただの親子である。雅はりまの頭を撫でるとまっすぐ怜衣乃へと向かった。

「はい、怜衣乃起きる!!」
「わっ、……ちょっと」

そのまま豪快に布団を剥がす。急に壁を失った怜衣乃はむっくりと起き上がって不機嫌そうに口を尖らせた。が、雅は腕を組んで動じない。

「ちょっとじゃありません。昼から行くって話だったよね?早く支度!!」
「……しょうがないな」

有無を言わさない態度に、怜衣乃は大きく息を吐いて了承した。

「母は強し……」
「なんか言った?」
「いや何にも」

苦し紛れに呟いた怜衣乃の言葉は、本人には届かなかった。




「怜衣乃怜衣乃っ!!あそこ風船配ってるよ!!」
「知らないかつどうでも良いかつ鬱陶しいから離れて、私本屋行く」
「あたしお菓子買いたいんだけどどこに売ってる?お菓子売場どこ?」
「ばらばらに行動しようとするなあんたら!!!!」

人が賑わい行き交うデパートに四人はいた。格好は手持ちに何もないため制服である。そのためか……いや、四人の騒がしさもありかなり注目を受けていた。帝国の格式高い制服は近所でも有名らしい。周りの視線を気にして雅はため息をついた。

「ここ初めてなんだから、みんなまとまって移動しようよ……」
「えっなんで?別行動で良くない?」
「賛成」
「えっ!?」

あっけらかんと言い放つ千歳とそれに頷いた怜衣乃に雅は目を丸くする。りまは千歳と雅を見上げて見比べた。

「6時になったらここに集合、ということで!あたしは食糧調達行くからーそれから服屋行くから!」
「私本屋」
「あっちょ、二人とも!!ちょっと!!」

雅は呼び止めたが、協調性皆無な二人はさっさと人混みに消えていった。手を伸ばしたまま硬直していた雅だが、とんとんと二の腕を叩かれて我に帰る。見ると、りまが雅をにこにこ笑って見上げていた。

「早く行こうよ雅!!とりあえずうちあの風船貰ってきて良い?」
「え、良いけど……怜衣乃について行かないで良いの?」
「……今怜衣乃機嫌悪いから」
「あー……納得いった」

無理矢理起こされた怜衣乃を考えると、強引に個人行動にさせられかねない。二人は顔を見合せ乾いた笑いを浮かべると、手を繋いで人の波に入って行った。


数時間して、二人は大きな紙袋を抱えていた。中身は勿論服である。りまは身長の関係で一つがやっとだが、雅は六つも持っていた。

「雅……ちょっと買いすぎじゃ」
「そんな事ないよ!次何買おうか?あっあの服もかわいい!りまに似合いそうーっ」

げんなりとした様子のりまはさておき、雅は子供服売場に駆け寄った。どこまでいってもお母さん体質なりまは、雅の着せ替え人形と化してもみくちゃに扱われていたのだ。結果、りまの服は雅の服の三倍にまでなっていたのだった。
勿論費用は総帥持ちである。

(あ、……グローブ)

何かの偶然か、雅がはしゃぐ服屋の隣はペンギーゴだった。店頭に飾られているサッカーボールを見つけると、りまの頭に思い出したのはサッカーのグローブだった。

(源田さんと買いに行く前に、見ておいたほうが良いよね……って!げげ源田さんと買いに、とか、その、ないかも、しれないし!!!!!うううちなに期待してんのばーかばかばかばかばか)

そのままペンギーゴへと足を踏み入れる。雅に報告する事も忘れて……。


「……あれ?りま?」

かわいらしいロリータ系のワンピースを持ったまま、雅は立ち尽くした。さっきまで後ろで暇そうにしていたりまの姿が忽然と消えていたのだ。さっと雅の顔色が青くなった。

「まっ……え……!?どっ、どうしよ……!!!」

ぐるりと見渡しても人が溢れているばかりだ。あの小さな体を見つける事など不可能に近い。絶望的だ。

「と、とにかくさがし―――わあっ!?」
「うわっ!?」

慌ててぐき、と足を捻ると同時に、体が前のめりに傾く。同時に前から来ていた人が悲鳴を上げて後ずさりしようとした――が、あえなく激突した。しかし雅にあまり痛みはない。前から来た人が下敷きになっていたからだ。

「あ……ごっごめんなさい!」
「いって……」

素早く腕に力を入れて上半身を起き上がらせようとした時、聞き慣れたボーイソプラノがやけに響いた。
赤色の隻眼と、目が合った。

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曖昧で終わらせましたが予測はつきますよね!
千歳と怜衣乃は個人主義者です。りまと雅は苦労人。多分。
次回はあの人も登場しますよ!
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