認識、5秒前
その娘はとても不思議だった。今まで、あまり見た事のない人種と言うべきか。いつの間にか、どこか彼女に人知れない魅力を感じて、惹かれる自分がそこにいた。惚れた?それは違うと言い張れる。ただ1つ言えるのは、彼女は普通よりもどうやら人見知りなようで、とてもかわいい少女だという事だ。




第5.5話 認識、5秒前




「怪我、痛そうだな」
「あ、う、……はい」

俺から見た彼女は、常に赤面していた。元々かとも思ったが、直感で違うと感じた。言葉はたどたどしく、こちらの顔を見る事はあまりない。それで、ああ、この娘は何か恥ずかしがっているのかと、何となく予想がついた。

俺は彼女の怪我を治療するため、救急箱を持って来た。するとその娘は、源田さん怪我したんですか?と首を傾げるから、思わず笑いが漏れてしまった。腹を鳴らした事といい、この娘は面白い。何だか、部屋が暖かい空気で包まれた感覚がした。

彼女は治療を何度か首を大きく振って断ったが、俺の強い押しにより、半ば強制的に実行する事になった。事前に手は洗ってもらったから、消毒と包帯をすれば良い。ぶかぶかなパジャマの袖を捲ってもらい、小さな手のひらが露になる。壁の時計の針は日付変更線をいよいよ跨ごうとしている。ああ、春休みで、明日も予定がなくて良かっただなんて思うのは、目の前の娘に失礼だと思い止めた。

「少し染みるが……」

言いかけて、顔を見上げると、彼女は目を瞑ってぷるぷると震えていた。それからほんの少し目を開いて、少し俺の手に持つスプレー型の消毒液を見て、今度は俺を見てきた。俺は消毒液を一瞬だけ見た後、彼女を見た。もしかして、

「……怖いのか?」

呆気に取られたまま尋ねれば、小さな少女は躊躇いがちにこくんと頭を頷かせた。俺からしてみれば、消毒液より、手の怪我をした時の方がよっぽど痛いと思うのだが。それは口に出さず(というよりは出なかったが正しい)、ゆっくりとした口調で言ってやる。

「大丈夫だ。少しだけだから」

実際は、半分嘘で半分本当だ。怪我が酷いため一回吹き付けただけでは収まらないし、包帯を巻く時にも痛みは生じる。それでも肩の力を抜いたその娘を見れば、それで良いと思えるのが不思議だった。
しゅっとそれを吹き付けたら、彼女の肩が大きく跳ねる。

「痛いか?」
「へっ!?や、いや、そんなっ、」

大袈裟なくらい否定する彼女に、口元が三日月型になっていくのを感じる。

そこで、はたと気が付いた。
彼女は、ウサギに似ている。

2つに結んだ髪は、耳のようで。その態度といい仕草といい、体の大きさといい、まるで桃色の小動物。しかし、その割りには。

「グローブもしないでGKの練習をするなんてな……」
「う、ごめ……なさ……」

グローブなしでGK練習なんて無茶もやってみせる。
短く溜め息をつけば、それが呆れと取ったのか怒りと取ったのか、目の前の少女は肩を落として更に小さくなる。もちろん、どちらの意味も入っていない。
残念ながら、お下がりのグローブは全てぼろぼろになってしまい、プレゼントは出来ない。俺はおもむろに口を開いた。

「今度、一緒に買いに行こうか?」
「え、っ」
「俺も、帝国サッカー部に入るつもりなんだ。ここで会ったのも何かの縁だし、……それまで、ここまでの無茶は控える事。良いな?」

微笑んで頭に手を置くと、彼女はそれこそ真っ赤な金魚のような顔色で口をパクパク動かすと、小さく頷いた。
頭を撫でるとあたふたと慌てる少女が、何故かかわいらしく見えた。


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天然タラシな源田。りまは人見知りで母性本能を擽るタイプです。仲良くなったらお馬鹿ですが←
こういうキャラ視点のも、ちょくちょく入れていきたいなと。

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