はじめましてマイキャプテン!
「鬼道有人です。よろしくお願いします」

ああ、これは夢だろうか。今なら抱き着いても許す、りま、抱き着いて頬引っ張れ馬鹿。
その礼をする仕草も!背の低さも、整った顔(3分の1ゴーグルに隠れてるけど)も、緊張気味でちょっとだけかすれた声も、ああ、もう、全てが、この人の全てはなんて素敵!!今なら幸せで死ねるだなんて、初めて思った。





第6話 はじめましてマイキャプテン!




遡る事数十分前。東から太陽が昇り出してしばらくした時の事だ。早朝源田家からにこにこと人の良い笑顔で送り出された、洗濯されたユニフォーム姿に黒いパジャマを抱えたりまは、何故か部屋のフローリングに正座していた。修行僧が朝っぱらから座禅を組んでいる訳では断じてない。

「……言いたい事は?」
「ありません。とてもごめんなさい」

目前には、おどろおどろしい黒々としたオーラを放ち(この時怜衣乃はGKが似合うんじゃないかとりまは一瞬思ったがすぐ考えを改めた)、腕組みをしてこめかみをひくつかせ、無理のある笑いを浮かべた怜衣乃。りまがこっそり扉を開いた音で起きてしまったらしく、寝ていると油断していたりまの首根っこを掴んで今に至る。恐ろしさでりまは素直に頭を下げた。

「ったく馬鹿だろお前馬鹿。あんまり遅いから探しに行ってもいないし」
「えっ……マジっすか?」

重く長い溜め息をつく怜衣乃に、りまは顔を上げながら尋ねる。言葉は軽いがその目は揺らいでいて、真剣な動揺が目に見えて分かった。嘘吐けない人間過ぎると怜衣乃は内心呆れながらも続ける。

「主に雅が。いや、お前本当、後で雅に全力で謝るべきだよ、無茶苦茶心配してたから。ところで昨日どこ行ってた?」
「え?源田さんの家に泊めさせてもらった」

本人からしたら思ってもいない質問だったのか(普通は思うだろうが)、りまが目を丸くしながらあっさりと、ごく自然に言い放つ。怜衣乃はその言葉を噛み砕くのに時間がかかって、かかってかかって、次に喉から出たのは、隣の部屋で眠る千歳と雅を起こす絶叫だった。




「何、何それなんで!?」
「な、なんか、公園で倒れたからおぶってもらったらしくて」
「おぶったぁ!?」

けたたましい近所迷惑な騒音に、りまは思わず耳を塞ぐ。今のりまの状況を例えるならば、質問攻めに遭う転入生といったところだろうか。正座は足が痺れたらしく壁にぴったりと背中を寄せて座り、怜衣乃に加え起きてしまった千歳と雅に囲まれている。その目はぎらぎらと輝いており、羨望の念がこれでもかというほど含まれているのが明確だ。

「他には、何か源田にしてもらった?」
「え、うん、いっぱい。パジャマ貸してもらったり、ご飯食べさせてもらったり怪我の治療もしてくれたり、ユニフォーム洗濯してもらったり…」
「うっわ、流石おかん属性」

りまが虚空を見て1つ1つ指折りつつ振り返ってみると、その量は多い事が確認出来る。それを聞いた千歳が、目を見開きながら抑揚なく呟いた。褒めているのかけなしているのかよく分からない。

「りま、ちゃんと礼は言ったよね?」
「失礼なっ、言ったよ何回も!数回噛んだけど!」
「駄目じゃん」

雅の問いに眉を寄せるりまだが、余計に付け加えられた一言により怜衣乃の呆れを増進させた。その声色は実に冷ややかで夏にはうってつけだ。と、雅が口を開いた事で、りまは寄せられていた眉を情けなく下げた。

「あ、雅ごめん、なんか探してもらったみたいで……」
「ん?あー大丈夫大丈夫。むしろ今は源田の家に泊めてもらった事実の方があれだし」

目元を細めてへらへらと笑う。りまはそれを見てほっと安堵の溜め息を肺いっぱいに貯めてから吐いた。垂れていたアホ毛も元気を取り戻す。

そして、連絡用に渡されていた4人のケータイが、そののんびりとした空気を壊すようにして、初期設定の無機質な音を鳴らした。
言わずもがな、メールの差出人は、例の総帥である。


4人が他愛もない話をしながら部屋に入ると、我らが総帥の傍らに、1人の少年がいた。ドレッドヘアーは1つに結ばれ、目には青いゴーグル。口元は僅かにへの字に曲がり、眉間に皺が刻まれている。その人を見た瞬間りまと千歳と雅がした事は、怜衣乃へと視線を移す事だった。頬は赤く染まり、口をぽかんとだらしなく開けている。いつもなら絶対にあり得ない。現に千歳が怜衣乃を見て、口元を押さえながらふるふると肩を震わせ笑いを堪えている。雅のはたきを頭に食らったのは言うまでもない。

「来たな、花鳥風月」

音を立てて、椅子から総帥……影山が立ち上がる。4人は他所に向けていた視線を一斉に影山へと集めた。コツコツと革靴のヒールを鳴らして少年へと歩み寄り隣に立てば、怪しく口元を吊り上げる。

「紹介しよう。来年からお前達と共に帝国学園、そして帝国サッカー部に入る鬼道だ」
「鬼道有人です。よろしくお願いします」
「来年……いや、数ヶ月後にはサッカー部の実権を握る事になる奴だ。仲良くするように」

怜衣乃は、大声ではいと返事したい衝動を全力で堪えた。


――――――――――
鬼道さん視点で書くのはしばらく経ってからにしようと思っています。この頃の鬼道さんは結構何考えてるのか分からないのでry

*<<>>
TOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -