爆発5秒、前!
ゆらゆらとあやされるように、体全体が揺れてる。体は力入れてないのに、おかしいなぁ。

ふっと気が付いた時には、風もなくてまるで無音だった。背中にはふかっとした感触、頭も同じだけど位置が高い。


………………あれー?




第5話 爆発5秒、前!





「っはぁ、」

背中に受ける柔らかい質感を感じながら、りまは息を吐いた。それには何の意味もない、ただ自然と出ていたのだ。実際顔は間抜け面をしている。まずりまが感じたのは匂いの違いだった。寮はこんな香りはしない、こんな他人の家特有の香りは。次に違ったのは天井だった。……寮は真っ白い天井なはずなのに、何とも不思議な物で、りまの目には茶色く映り木目だって見えてしまっている。

現実でも整頓下手なりまは頭の整理も下手だったらしく、始終無言のまま何も考えたくないとばかりにポーカーフェイスだった。
しかし数分後、そのポーカーフェイスはいとも簡単に崩れる事となる。

りまの顔に、影が出来た。

「起きたのか」
「んえ、」

思ったよりかすれた声が出て、りまは咄嗟に口を塞いだ。顔に熱が集まる、が、その理由は決して羞恥だけから来る物ではなかった。
湖面のような青い瞳は優しい光を湛えて、頬にはオレンジ色の川が1本ずつ流れている。右に流れた茶色い髪の毛は髪質が固そうで、ワックスを使っているというより自然に出来た物らしかった。

「は……あう」
「お前、公園で倒れたんだぞ。大丈夫か?」

整った眉がきれいにハの字に下がる物だから、りまはその返事をする気力すら沸かなかった。茹で蛸と同じくらい赤くなっているというのに、目の前にいる人の手が額に乗るだけで、羞恥を始めとした色んな感情がごちゃごちゃになって、目には涙さえほんの少し浮かべていた。

「熱はない……って、本当に大丈夫か?」
「ら、いじょうう……れす」

右手のフィルターを通して聞こえるくぐもった声も、相手には聞こえていたようで。相槌を打ちながら柔らかい微笑みを浮かべた。りまの右手がベッドに吸い込まれるように置かれる。りまの目はその人に釘付けだった。

「食欲はあるか?」
「あわ、はっ、は、はい!」

勢い良く返事をしたせいか、腹部からぐうっと音が鳴るのが聞こえた。部屋はお互いの声以外無音に近い。つまり相手にはばっちり聞こえていた訳で。

「っふ……く、ははははっ!」
「〜〜〜〜っ!!も、ほんと、ご、めんなさいっ」

相手が、青い瞳を見せないくらい目を細めて、声を上げて笑っている。笑われている。りまは寝返りを打って、それを直視するのを逃れた。枕を皺が出来るほど握りしめると、笑い混じりにすまない、と謝罪の言葉が降ってきた。それから、少し待っていろと言われて、その人は部屋を出て行った。

「……さいあくすぎる」

よりによって、好きなキャラの前で。源田幸次郎(多分)、の前で。とんだ恥をかいた。りまはつい1分前の自分を呪った。




気付けば、自分はぶかぶかな黒い無地のパジャマ姿だった。手作りおにぎりを3つほど持って現れた源田幸次郎(仮)に尋ねたら、小学生の時使っていたパジャマを、源田(仮)のお母さんが着させてくれたらしい。にしても袖がたっぷり余るほどぶかぶかってどうなんだ。りまは自分の小ささを呪った。

それからは、向こうの質問タイムが始まった。どこから来たのかと訊かれた時、帝国の寮からと答えたら、源田(仮)は酷く驚いて目を丸くした。小学生に見えたのかと思ったら違うらしい。と思ったら、次はこちらが驚かされる番だった。

「今年入学する学校だったから、驚いて」
「……え?」

今年。入学。2つの単語がうまく組み合わせれなくて、りまは口が開いた。するとおにぎりが口からこぼれそうになったので、慌てて咀嚼を再開した。

「ああ、俺、来年から帝国生なんだ。源田幸次郎、よろしくな」

暢気に自己紹介されても、りまは生返事をするしかない。おにぎりを飲み込んでおいて良かったなんてぼんやり考えていると、源田は再び部屋を出た。おにぎりの具である細かく刻まれた鮭を溢さないように格闘している(怜衣乃はこんな不器用な真似しないと思うと少し気分が落ち込んだ)と、源田が自身の物にしては小さ過ぎるオレンジ色のユニフォームを持ってきた。言わずもがな、りまの物だ。

「あ、それ……」
「洗濯が終わったから持ってきた。これ、サッカー部の……しかもGKのユニフォームか?」

言いながら、源田が隅のクローゼットにユニフォームをかける。下見に見に来た時、帝国サッカー部のユニフォームを覚えていたらしい。サッカー部なのかと尋ねようとした時に倒れてしまったから焦ったと、最後にはベッドの縁に座って苦笑混じりに述べた。

「え、と、一応……サポート中心ですけど」
「だが、帝国サッカー部のユニフォームをもうもらっているという事は、あの影山総帥に期待されているんだろう?」

すごい事じゃないか、と、源田は瞳を純粋に輝かせて笑ってみせた。きっと源田は、まだ知らないのだろう。帝国学園があちこちのサッカー部を潰して回っているなんて。いや、まだ鬼道がいないから始まっていないだけかもしれない。もし知っていたのなら、こんな表情をする訳がないという事を、りまは何となく察していた。だって、目の前の人は、こんなにも優しい。そう思えば思うほど、ナイフで胸をえぐられる思いだった。りまの視線の先には、源田が自分で作ったと嬉しそうに言っていた、りまの手のひらよりずっと大きなおにぎりがあった。

その後も、どんな練習していたのかとか、どんな必殺技を作りたいのかとか、GKの事について話に花を咲かせたが、りまの顔色が優れる事はなかった。

―――――――――
無駄に長くなってしまって私の顔色も優れませ、ん。((
個人的に源田は優しいお母さんなイメージがあります。佐久間は正直それと正反対のイメーry
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