3 「こんなに遠泳がきついものだとは…」 辺りは日が落ち始めてオレンジ色に景色が広がる。そんな時間帯に4人の特訓は終わり陸にあがってきた。私はタオルを持って4人にかけよった 「はじめてにしては上出来だよ、よく頑張ったな」 「きっとこの特訓が終わったころには僕たちめちゃくちゃ強くなってるよ!県大会で勝って次に地方大会で記録を出せばその先は全国大会!」 「うん、夢みたいな話だけど。みんなでいけるとこまで行きたいな」 『…きっと、いけるよ』 「だーよね!あきちゃんがついてれば間違いない!」 キラキラした笑顔で夢を話す渚に私は口角が緩んだ。けれど、少し元気のないようすの怜くんを私はじっと見た。するとそこにコウがかけよってきた。どうやら予定の半分ぐらいしか訓練はこなせてないらしい。 「あ、明日はもっと頑張ります…」 「怜ちゃんなら大丈夫だよ!」 「はやく皆さんに追いついてみせます」 「その意気だ。」 皆が微笑んでいるとあまちゃんが声をかけ夕飯にするという。しかし調味料を持ってくるのを忘れてしまったらしく民家からかりてこなくてはいけない。それに私とコウが名乗り出て二人で取りに行くことにした。 『それにしてもすごいよね。私なんか海で泳いだら一つ目の海に付く前にもう疲れちゃうよ』 「ふふふ、たしかに!それに魚とかも少し怖いわよね」 『うんうん!』 2人で世間話をしているとコウが誰かとぶつかった。顔をあげれば鮫柄高校の似鳥君だった 『あ、似鳥くん!』 「あ…松岡先輩の妹さんと、神崎さん…」 「――…ってことは」 コウちゃんがマズイ、という顔をした。その予想通り似鳥くんの後ろからは見覚えのある赤髪…つまり凛が現れたのだ。凛は私たちを見て目を見開いた、そして小さく舌打ちをして似鳥くんを先に帰らせるようにした。 さすがに兄弟水入らずのところで私が邪魔してはいけないと2人が座っているベンチから少し離れたところに座った。凛、どうしてああなったんだろう。海外でなにかあった?それとも水泳が嫌いになった?全然、全然凛のことがわからない。小学生のころの笑顔が忘れられない。 もっと凛のこと知りたいのに… そんなことを思っているとコウが駆け寄ってきてほほえんだ 「お兄ちゃんが送ってくれるみたい。いこ?」 『あ、うん』 コウは私の手を引っ張り、凛が持っていた買い物袋の片方を私の手に握らせた。驚いて顔をあげればにんまり笑顔のコウ。横を見上げれば一瞬目が合ったがすぐに逸らされてしまった。コウは早足で前に進んでしまう 『……後輩に慕われてんだね』 「は?…ああ、似鳥か」 『似鳥くん可愛いよね』 「ああ?」 『あ、やべ。あー…違くて、なんか友達いたんだなーって思って』 「…馬鹿にしてんのか」 『昔の凛だったら色んな人と友達なんだろうなって思ったけど、なんか俺に近づくなみたいな雰囲気だしてるからみんな怖がって近づかなそうって思ってた』 それはまあ、図星なのだろうか。凛は黙った。 「…お前はあいかわらずなんだな」 『?』 「ヘラヘラ笑って。騒いでる感じで馬鹿まるだし。でも鈍くさくてよ」 『馬鹿にしてんの?』 苦笑いをして見れば凛は昔と変わらない優しい笑顔をして笑っていた。その横顔を見たら胸が熱くなった気がした。 『…あの時、久しぶりにあったあの時の凛は、泣いてた私を抱きしめてくれて優しい笑顔でそれに相変わらずのいたずらっ子だった』 「……」 『昔と…なんも変わってないなって安心したの。けど、次会ったら無視するし睨んでくるし全く笑わないしで凛が分からなくなった』 「……どうでもいいだろ」 『よくない』 私は歩くのを止めた。それに凛は私を見つめて足を止めた 『…凛が知りたいんだ。なにも分からないんだ。凛のこと、もっと、知りたいから。“教えてよ”』 凛は目を見開いて驚いたあと、視線をそらした。ああ、どうしてきみはそんな悲しい顔をするんだ。やめて、私まで悲しくなる 「……んな、顔すんなよ」 『え?』 「くそ…それ以上、俺の中に入ってくんな…」 何を返していいか分からなくなり、立ち尽くしていると凛は前を向いてそのまま歩き出した。私はどうすることもできずただその背中を見つめ歩いた。 |