普段週末は土日どちらもアントーニョと二人で過ごすのだが、今日はアントーニョが同僚であるギルベルトさんとフランシスさんと呑みに行くというので、私はエリザの所にお邪魔した。ローデリヒさんとイタリアちゃんとも少し話してから、エリザと彼女の部屋へと移動した。部屋に入ると早速エリザは『どこまでいってるの?』と私に質問してきた。別にどこまでも何も一応籍を入れた仲ですし…色々といってる所まではいってますなんてごにょごにょ小さい声で言えば、エリザは口を大きく開けて驚いた、というよりもショックを受けていたと言った方が正しい。
 すると今度は喧嘩はよくするのか聞いてきた。エリザに聞かれて気付いたが、そういえば私とトーニョは喧嘩をしたことが無い。お互い下らないことで拗ねたり、なんて事はよくあるが、本気の喧嘩をした事が無い。"本気の喧嘩"というのも、何日もお互いに口を聞かないなんていう類の喧嘩を私は指してる訳だが、そんなものを私達はしたことが無い。エリザにそう伝えるとまたまた驚かれた。

「何年も付き合ってて、おまけに籍も入れたのに喧嘩したこと無いの!?」
「…うん、大体そこまでお互いに怒らすことも無いし」
「これは駄目ね。取敢えず今度ケンカした時の為に助言!」

 いつの間にか"エリザの恋愛教室"みたいな雰囲気になっていて、エリザは私にケンカした時どうするかを教えてくれた(エリザがあまりにも真剣で思わず笑ってしまったが)。エリザは「とにかく女はケンカしたとき、家出して男を困らせるのよ!」と家出説を力説してくれた。家出かあ、私ならケンカしたらすぐに謝っちゃうだろうなあと思いながら、頭の中でメモする。

「てことで家出してきます」

 "家出"というものを体験しておいた方がいいかなと思い、家に着いてから、先に帰ってきていたアントーニョにそう伝えた。するとアントーニョは笑顔のまま硬直してしまった。

「いや、家出ってそんなはりきって宣言するモンちゃうからな」
「でも宣言しといた方が格好いいかと思って」
「いやいやおかしいやろ!大体ケンカしてへんやんか」
「女である限り一度くらいは『家出』を体験しておこうかと思いましてですね」
「自分格好つけてるつもりやけど、言ってること全く意味不明やからな」

 「取敢えず家出するね」と玄関に向かおうとすれば、アントーニョは急いで私を後ろから抱きしめてきた。私の首筋に顎を休ませながらアントーニョはぎゅうっと思い切り腕に力を込めてきた。こういう時はどうすればいいのか、彼の腕を振りほどいて無理矢理にでも家出すればいいのか、などと一生懸命考えていればアントーニョが先に口を開いた。「嫌やあ、親分めっちゃ寂しなるやん。俺ほんまになまえがおらんようになったら泣くで」、そう駄々をこねながらアントーニョは更に腕の力を強めた。

「もしホンマにケンカしても家におったらええやんか。ケンカしてもずっと一緒に家おって、夜ちゃんと一緒にご飯食べて、一緒のベッドで寝て、次の朝にはちゃんとお早うのちゅーして」

 「そうやって仲直りしようや」、アントーニョは言い終えると私を抱きしめていた腕を離し、今度は前へ回ってきて前からぎゅうっと抱きしめてきた。「そっちの方が親分は好きやねんけど」、と微笑しながらそう言うと、アントーニョは何も言わない私の顔を覗き込んできた。私はと言うと、アントーニョが真剣にそう考えてくれてる事に嬉しくなって、一人紅潮していた。そんな様子を見られたくなくて両手で顔を隠そうと思ったが、両手首をアントーニョに掴まれて出来なくなってしまった。
 「まだ家出したいん?」、私の答えなんか知ってて聞いてくるんだから意地が悪い。ニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでくるアントーニョに「…トーニョと家にいる」と自分でもびっくりする位小さな声でそう言えば、アントーニョは満足したのか、私の両手首を離してまた思い切り抱きしめてきた。籍を入れて何度も思ったことだが、私は本当に良い旦那を持ったと思う。
 後日エリザとローデリヒさんにこの事を話したら、二人は顔を合わせて笑い始めた。



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