アントーニョの様子がおかしいことにはすぐに気が付いた。
 「大事な話があんねん」、と仕事中にこんな絵文字も何も無しのメールを恋人であり、そして同居人であるアントーニョから受信した。いつもなら最低一個はトマトの絵文字をつけてくるんだけどどうしたんだろうか。不思議に思いながらも今日はなるべく早く仕事を片して家に帰ると返事をした。結局はアントーニョのことが心配になって、仕事を放って会社を出てきてしまったのだが。
 急いで早歩きになりながら家に帰れば、アントーニョは既に家でくつろいでいた。普段通りに「おかえり〜」とヘラヘラした笑顔で私を出迎えてくれた。それはいいとして大事な話があったんじゃないのか、そう聞こうとすれば、タイミングを図ったかのようにアントーニョはご飯食べようや、とキッチンへ駆けて行ってしまった。何がしたいのかよく分からなくて、私は取敢えず部屋着に着替えて、アントーニョを手伝う為にキッチンへ入った。

「…何してるのアントーニョ」
「うお!驚かせんといてや、なまえ!」
「ああ、ごめん、ご飯の支度手伝おうかと思って、」
「そんなんええから!座っといて!」

 キッチンに入れば、顔を両手で覆いながら床に座るアントーニョがいて、ますます彼の考えてることが分からなくなった。チラッとしか見えなかったが、アントーニョの顔が赤くて更に心配になってしまった。手伝うと言ったのに待っといてって言われ、私はアントーニョに背中を押され、半ば強制的にダイニングの椅子に座らせられた。
 先程の真っ赤な顔はどこにいったのか、アントーニョは笑顔で「今日はラタトゥイユ作ってん!」、と嬉しそうにキッチンから出て来た。いつもみたいにトマトをたっぷり使ったのだろう、トマトの匂いが部屋中に充満していた。美味しそうな香りのするお皿を前に私達は一緒にいただきますをしてから食べ始めた。アントーニョ特製のラタトゥイユを綺麗に平らげた私達はいつもなら一緒にテレビを観るかお風呂に入るかなのだが、アントーニョは私が「ご馳走様」と言い終えると同時に「ちょお待っといて!」と言ってから自分の部屋と駆けていった。トイレの流れる音が聞こえ、すぐにアントーニョのこちらへバタバタと走ってくる音も聞こえた。アントーニョは少し強張った顔をしながら椅子に座ると、私の目をまっすぐ見てきた。

「…あんな」
「うん」
「俺なまえのこと好きやねんか」
「…知ってる」
「俺まだ全然収入少ないし、しっかりしてへんとこもあるし、家事やってなまえに押し付けてること何回かあるし、よう考えてみたら俺なまえには全然合うてない人間かもしれへんけど、なまえをこれからずっと笑顔に出来るんは俺だけやと思うねん」

 「せやから結婚せえへんか」、そうアントーニョは机の上に置かれた私の手と自分の指とを絡ませながら言ってきた。緊張しているせいか少し湿ったアントーニョの手が妙にリアルで私もつられて緊張した。顔を赤くしたアントーニョに、結婚したら私がもっとアントーニョにハグして貰いたくなるとか行ってらっしゃい・ただいま・おやすみのチューとかもっと欲しくなるかもしれないよと最終忠告なるものをしてやれば、寧ろアントーニョはそれを望んでいるらしく、さっきまでの赤面は嘘みたいに今度は犬みたいに顔を輝かせた。
 「ほんまに?ほんまにええの?」、今まで見た事ない位嬉しそうなアントーニョに私も嬉しくなって、満面の笑みと一緒に「うん」と返してやれば、アントーニョは安堵の溜息をついた。こんなに余裕の無いアントーニョを今まで見たことが無かったので、つい口元が緩んでしまう。頬が緩みきったアントーニョに誓いのキス代わりにでもと思って額に軽くキスを落としてやれば、「幸せすぎて死にそうやあ、」なんて事を言ってきた。大袈裟だなあと思ったが、自分を驚く位幸せを感じているので何も言い返せず、照れ隠しに今度は唇にキスを落としてやった。



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