「やり直し」

 一生懸命、ここ数日毎晩のように残業までして、初めて一人で任された仕事だからと頑張って良い出来にしようと思って時間をたっぷり使って書いたのに。目の前の私の所謂"上司"のマルコさんとやら人は私の方なんか目も向けずにただ一言そう言った。口をあんぐりと開けて、「まじお前頭おかしいんじゃないの」とでも言いたげな顔を間違いなく私はしていたが、この人はそれにすら気づいていない。
 どうして。あんなに頑張って書いたのに。そのまま「あ、そうですか」と受け取れる程私は出来た部下じゃあない。マルコさんが目を通していた書類を彼の手元から奪い、彼がこちらを向くのを待った。マルコさんはと言うと私の部下としての行動に心底驚いたのか、数秒同じ体勢のまま固まっていた。そしてようやくこちらを向いたと思えば、椅子の肘かけに肘をかけ、頬杖をついた。

「文句なら聞かねえよい」

 私が文句を言う前に目の前の男はそう言ってきた。それでも私はすかさず、しつこくマルコさんにどうしてか、時間はかなりかけて一生懸命作った事、そしてその他私が日々悩んでる事(完璧書類の件とは関係無いと思ったが、取敢えずマルコさんにクレームしておいた)を一気に言った。すると何を思ったのかマルコさんは喉元で低く笑い、おまけに私の目を見て鼻で笑ってきた。"本当あり得ない"、そう思った私は意地になり、今度持ってくる時にはマルコさんの両目が落ちる程の良い出来にしてやる!そう彼の前で叫んでやった。
 そう私が彼を睨みながら言い終えたと同時に、マルコさんは今までかけていた眼鏡を外し、椅子から立ち上がった。余裕で私より背の高いマルコさんを私はいつの間にか彼を見上げるようになっていた。マルコさんは椅子から立ち上がるとほんの少しだけだが、柔らかく笑い、自分の大きな手で私の頭を撫でた。びっくりした私はすぐにマルコさんの方を向いたが、彼の表情はいつもの人を見下すような笑みに変わっていた。

「次は期待してるよい」

 そのマルコさんの言葉に私が怒る前にマルコさんはもう一度私の頭をわしゃわしゃと撫で(撫でるというより押しているような感じがしたが)、また先ほどの柔らかい笑みをしながら去っていった。そんなマルコさんの柔らかい笑みでさっきまでの怒りがどこかへ行ってしまっただなんて誰にも言えない。



くちびるのシグナルはピンク






20110709
title by √A

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -