何週間か前から私の働くコンビニに私より遥かに年上であろう方が来るようになった。推測するに30代のこの常連さんは、珍しい髪型をしており、髭を生やしていたが、不思議な事にそれらは常連さんに驚く程に似合っていた。このコンビニに来る時、この常連さんはいつも作業着を着ている為、きっと工事現場等で働いているのだろう。作業着の袖を大雑把に捲くり、汗を拭き取ったであろうタオルは首に垂らし、薄汚れた手袋をポケットに詰め込み。そんな状態でいつも常連さんはこのコンビニに入ってくる。
 常連さんが来るのはいつも昼時で、毎回おにぎりを二つ、そしてお茶のペットボトルを一本買っていく。きっとそれらが常連さんのお昼ご飯なんだろうが、お節介だとは思うがそれでは彼には少なすぎると思う。なんて、最近ではその常連さんの事ばかりを考えている自分がいて、自分で自分が恥ずかしくなってくる。

「あ、あの、どこの工事現場で働いてるんですか?」

 いつものように私の働くコンビニにやって来、そしていつものようにおにぎり二つとお茶を一本レジまで持ってきた常連さんに気付けば、今まで気になっていた事を聞いていた。自分でもびっくりしたが、急にそんなことを聞かれた常連さんの方が驚いたんだろう(そりゃそうか)、目を大きく見開いていた。私が急いで「すいません、いきなり!忘れて下さい!」と一言謝ると常連さんはククッと喉を鳴らして笑った。そんな姿に見惚れて私は呆けていると常連さんが初めて私に向かって口を開いた。

「どことは言えねえが、ここが仕事場から一番近いコンビニじゃねえ、とだけ言っとこうかねい」

 常連さんはまるで私を面白がるかのようにニヤッと笑いながらそう言った。"仕事場から一番近いコンビニじゃねえ"、つまりはわざわざ遠い方を選んで仕事場から来ているのか、はたまたこっちの方がおにぎりのバリエーションがあるのか。疑問に思いながら何故かと聞けば、常連さんは先程とは違い、自然の笑み、というのだろうか、ふっと柔らかく笑いながら私の耳元に顔を近づけてきた。

「そりゃあお前さんに会いてェからだろい」

 常連さんがそう呟いたと同時に顔が茹蛸のように赤くなる私は上手く機能した事の無い自分の脳を必死に機能させようとした。今、常連さんは何と言っただろうか。いや、何て言ったかは分かるのだが、一体全体どういう意味だろうか。そう脳をフル回転させて考えていたら、常連さんはポケットから紙切れを一つ取り出し、レジ台に置いて「じゃあな、」と言い店を出て行った。
 まだ真っ赤であろう頬を片手で覆いながら常連さんが置いていった紙切れを広げれば、一行目に「マルコ」、そして二行目にハイフンを含む数字が並んでいた。都合の良い私の脳はその数字が常連さん、ことマルコさんの電話番号だと言っている。よくよく考えてみれば、ポケットからこの紙切れを出してすぐ店を出て行ったという事は事前に私に渡す事を考えていたのだろうか。そんな淡い期待ばかりをする私は、取敢えず明日あの常連さんが来たら「マルコさん」、と彼の名前を呼ぼうと決めた。ああ、明日が楽しみだ。



人魚と彗星






20110607
title by alkalism

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